Commelina caroliniana Walter カロライナツユクサ新和名)
2012.7.2




日本では未記録種のCommelina caroliniana Walterツユクサ属)について、新しく和名をカロライナツユクサとして報告し発刊されましたので、このページにも掲載します。(北九州市立自然史・歴史博物館 自然史友の会誌「わたしたちの自然史」第120号:11-15. 2012 )。

 本種の同定については C. caroliniana を深く研究され、長い間種の位置づけが曖昧であった本種の正体を明らかにしたツユクサ科の分類学者 Robert Faden博士に依頼しました。 スミソニアン研究所の温室でも1年間栽培して調べていただいた結果、同一種であると判断された種です。


1. 繁殖状況

本種は一年草で、茎を四方八方に広げて節から根を下し地面を這うように繁殖する。現在すでに、大分県中津市(図1)、佐賀県佐賀市(図2)、小城市(図3)、熊本県熊本市(図4)、玉名市(図5,6)、愛知県豊橋市での生育を確認している。 生育地では水田の脇や畔、用水路の脇、放置した畑に広がって旺盛に繁殖しているようすが見られる。


 図1 小さな花を咲かせるカロライナツユクサ(大分県中津市)
 
 図2 茎を地面に這うように広げて繁殖(佐賀県佐賀市) 
 
 図3 葉は無柄で被針形-卵状被針形(佐賀県小城市)

 図4  花、苞、葉のようす (熊本県熊本市)

 図5 水田の脇や畔に繁殖(熊本県玉名市)

 図6 用水路脇にも繁殖 (熊本県玉名市)  

        
2. 形 態 

葉は長さ3.6-9.5cm 幅1.1-2.0cm、無柄で被針形-卵状被針形をしている(図3,4)。
苞の縁は合着せず先は細長く尖り、縁に普通長い毛がある。苞の形は鎌形にならない(図7)。

花弁は3枚あり淡青色で丸みがある、下部の1枚はやや小さい。 短い仮雄しべは3本あり黄色の葯で中心部には青色(紫色)のスポットがある。中央の雄しべは大きく葯隔は白色をしている(図8,9)。 ツユクサと花の比較をすると本種はかなり小さな花であることがわかる(図10) 


 図7 苞の縁は合着しない

 図8 花弁は淡青色で3枚、中央雄しべの葯隔は白色
 
 図9 花の径 0.8-1.4cm
 
 図10 ツユクサ(C.communis)とカロライナツユクサ 花の比較

 
 蒴果は3室に分かれ5個の種子ができるが普通は2~3個できることが多い。1個の種子は表皮に包まれ、他の種子は蒴果が開くと落下する(図11)。種子は濃い茶褐色で長さ2-4.3mm、表面は平滑である(図12)。


 図11 包まれた種子(左)と落下する種子(右)

  図12 カロライナツユクサの種子

 
 3.種子の付属体

 本種の種子には、両端または一方の端にごく小さな付属体がみられる(図12)。 
 この量は種子によってさまざまで、種子が熟したばかりの時にはこの付属体はとても大きい(図13)が数時間で萎んでしまう。

 この付属体が、日本に生育する本種の同定を困難にした。C.caroliniana の種子の記載にはこの付属体についてまったく書かれておらず、
 別な種である可能性も考えられたために、スミソニアン研究所に保管されている世界各地の C.caroliniana の種子を再調査していただいた。
 その結果いくつかの種子にわずかにこれらが見つかったこととインド産の種子の1つに、はっきりとこの付属体があることが確認されたこと
 によって本種の同定に至った経緯がある。

 この付属体は日本産のカロライナツユクサに特に発達しているものかもしれない(図13、14)。
 


 図13 熟したばかりの種子

 図14 熟したばかりの種子にみられる付属体


 なお、この付属体について今回調べた結果エライオソームであることがわかった。 本種はツユクサ属のなかでもアリ散布を行う珍しい種の1つであることも新たに確認した(図15)。


 図15 アリによって運ばれる本種の種子 


 カロライナツユクサはシマツユクサにとてもよく似た種である。本種は1788年にThomas Walterによってアメリカのカロライナ州から報告された種で‘caroliniana’という種小名がつけられているが、原産地はアジア(インド・ネパール・バングラデシュ)である。この種は17世紀後半にインドからアメリカに米や穀物が輸入された際に種子が混入して渡ったと推測されている(Faden1989)。
 本種はサウスカロライナ州で発見された後Faden博士によって種が明らかにされるまで、200年以上もの長い間、ツユクサと混同されたり、別種とされたり、シマツユクサと同一種にされていたりと種の位置づけが混乱し続けた歴史がある。 

 シマツユクサは、近年分布域より北部の熊本・徳島・大阪・京都・愛知・静岡・千葉・茨城でも見つかった情報がWeb上などでも公開されている。 しかし、今までカロライナツユクサとシマツユクサは国内では見分けられていないため、特にこれらの地域には(もちろんこれ以外の地域でも)本種が生育している可能性があると考えられる。 また国内において、シマツユクサと報告された標本等にも本種が区別されず混同されたままの状況であることは十分考えられ、再調査の必要があると思われる。 なお本種の標本は北九州市立自然史・歴史博物館に収められている。
 【 参考文献・サイト 】

 ・Fujishima, H. (2007)Karyotypic diversity of Commelina diffusa Burm.( Commelinaceae):Chromosome Science 10:21-28.
 ・Faden, R.B. (1989)Commelina caroliniana (Commelinaceae):A misunderstood species in the United States is an old introduction from Asia. Taxon 38 (1): 43–53.
 ・Faden,R.B.(1993)The misconstrued and rare species of Commelina (Commelinaceae) in the eastern United States, Ann. Missouri Bot. Gard. 80:208-218.
 ・Faden,R.B.: Commelina caroliniana Walter,,eFloras.org, Flora of North America,

 ・佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎(2002)日本の野生植物・草木Ⅰ 単子葉類,73-74 ,平凡社 


                                        

 ※カロライナツユクサやシマツユクサ、ツユクサ属の情報がありましたら教えて下さい。

  カロライナツユクサとシマツユクサの分布状況等を調べています、どちらかよくわからない場合でもかまいませんので情報がありましたら
 メールまたはBBSにてお知らせ下さい。


 【 カロライナツユクサ情報 】
  ・神奈川県・長崎県(2013.)・静岡県(2013.8)・愛媛県(2013.9)・香川県&徳島県(2013.10)にもカロライナツユクサが生育していることが確認されました

2014~ 
 
九州各地でかなり広がっていることがわかってきました。分布状況をまとめ報告する予定です。
 
 2013   香川県 三豊市(2012.10標本: 徳島県立博物館)
      徳島県 小松原市(2012.11標本) ・ 海部郡(2012.11標本)
          (標本は徳島県立博物館に収蔵)

 愛媛県 宇和島市

 静岡県 静岡市清水区・葵区

 長崎県 諫早市

 神奈川県伊勢原市(2008標本: 生命の星・地球博物館)
           平塚市(2010標本: 平塚市博物館)

・四国4県で生育が確認 







・東海地方で生育が確認


・九州北部~中部5県で生育が確認


・関東より報告
2012 
  福岡県 行橋市 ・ 豊前市 

  岡山県 小田郡

   高知県 香美市(2009標本)・ 南国市(2010標本)・ 土佐市(2011標本)
       (標本は牧野植物園に収蔵)



・中国地方で生育が確認


・四国で生育が確認 
2010~11
(HPで紹介) 

  大分県 中津市(2010標本: 北九州市立自然史・歴史博物館に収蔵)

  熊本県 熊本市 ・ 玉名市

  佐賀県 佐賀市 ・ 小城市

  愛知県 豊橋市


 

                                    
                                                 ( 2014/12/1, Nakamura )                


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