ワールドウォッチ報告 工場畜産の世界的拡散と環境・健康・コミュニティー破壊に警告

農業情報研究所(WAPIC)

05.10.1

  米国のワールドウォッチ研究所が先週、工業的畜産が世界中に爆発的に広がり、環境と人間の健康、コミュニティーに広範な有害な影響を及ぼしていると警告する報告書を発表した。この報告は、病気の伝達や家畜の多様性喪失から有害で非衛生的な加工方法に至るまで、工場畜産が何故危険で、非人間的で、自然を破壊する食肉生産方法であるかを説明する。 そして、地域、あるいは有機の、あるいはまた草で育てられた動物製品の支援や代替生産方法の導入により、人々、環境、動物そのものにとってより健全な方法で生産 することが必要だと主張する。

 Happier Meals: Rethinking the Global Meat Industry
 (Summary)https://www.worldwatch.org/pubs/paper/171/
 (Press release)https://www.worldwatch.org/press/news/2005/09/29/

 取りあえず、報告と同時に出されたPress Releaseを紹介しておこう。

 2003年の東南アジアにおける鳥インフルエンザの勃発以来、公衆衛生当局者、農民、獣医、政府役人、メディアはその脅威を”自然”災害と呼んできた。しかし、鳥インフルエンザ、狂牛病、その他の動物から人に移る新興の病気は、農業で起きている大規模な変化ー工場農業の拡散ーの現れである。報告の中心的起草者であるダニエル・ニーレンベルグは、工場農業が小農民、その家畜、環境の間のサイクルをいかに壊し、人間の健康と地方コミュニティーを損傷しているかを示した。彼女は、その修復には、動物を育てる方法への新たなアプローチが必要であると結論している。

 工業的畜産事業が最も急速に成長しているのは、人口密度が高く、公衆衛生・労働・環境基準が弱体なアジア、アフリカ、ラテンアメリカの中心都市の近傍で起きている。工業的畜産事業・”集中動物飼育事業(CAFOs)”は 、今や世界の食肉の40%を生産しており、この比率は1990年から30%も増えた。かつてはヨーロッパと北米に限定されていたCAFOsは、世界中で最速の成長を続ける食肉生産の形態になった。EUや米国では環境・労働規制が強力でだから、大規模アグリビジネスは動物生産事業を海外、特に規制執行が厳格ではない国々に移している。

 現在、工業的システムは世界の家禽肉の74%、豚肉の50%、牛肉の68%、卵の68%を生産する。先進国の生産が支配的だが、これは畜産が急速に拡大し、生産システムを集約化している途上国でも起きている。彼女は、「工業的農場は動物をできるかぎり速く、安く市場に出すように設計される。それは多くの環境・動物福祉・公衆衛生問題を引き起こす」と言う。

 報告が上げる主要な懸念は次のようなものだ。

 ・工場農場の[家畜が]過密で、非人間的で、不衛生な条件は家畜を病気にし、鳥インフルエンザ、狂牛病、口蹄疫などの病気の拡散の完璧な環境を作り出すことができる。

 ・工場農場の肉や魚は不自然な成分、とりわけ非分解性有機汚染物質(POPs)、PCBs、砒素、その他の化学物質の兵器庫を含む。抗生物質やその他の抗菌剤の過剰利用は、人間用の有効な医薬品の種類を減らす。

 ・工場農業は資源集約的である。1カロリーの牛肉の生産には、1カロリーのジャガイモを生産するのに比べて33%多い化石燃料を必要とする。8オンスの牛肉の生産には2万5000リットルの水が必要だが、途上国でパン一切れを生産するに十分な粉の生産に必要な水は550リットルにすぎない。

 ・世界中の魚が漁り尽くようとしているのに、漁獲海産魚の3分の1がフィッシュミールのために利用され、鶏、豚、その他の動物を太らせるのに使われている。

 ・すべての家畜排泄物の半分が作物に返されるだけで、残りの大部分が大気、水、土壌を汚染するだけに終わっている。

 グローバルな貿易、広告、肉の低価格、都市化が高動物蛋白質の食事の普及を促している。世界牛肉価格は30年で25%ほど低下した。肉消費の増加は米国やヨーロッパだけでなく、途上国でも最速になっている。途上国の肉消費は、1970年代初期から90年代半ばの間に、7000万トン増加した。これは先進国の増加量の3倍だ。

 工場農業の世界的拡散に伴うその他の趨勢は次のとおり。

 ・地球上の4つ足家畜の数は、1961年の31億から43億に増え、家禽は42億から178億に増えた。

 ・ヨーロッパでは、1世紀前に存在した家畜種の半分が消え、残りの43%も絶滅が危惧される状態にある。途上国も後を追い、高生産性の工業的品種が土着品種を駆逐したために、家畜の遺伝資源が失われつつある。

 ・工業農業の真のコストは価格低下に反映されず、消費者は肉の環境・健康影響に支払っている。

 工業農業の悪影響に立ち向かうためには、有機・草飼育家畜や菜食の便益についての消費者教育、小規模畜産の支援、代替生産方法の採用の奨励、動物と産業労働者の職業・福祉基準の改善など、動物を育てる方法への異なるアプローチが必要だ。アグリビジネスの遺伝子操作を含むこれらの問題への技術的な取り組みは、「真の問題に取り組むものではない。工場農業は非効率で、自然破壊的で、危険で、非人間的な食肉製造方法だ」。