カンボジア 小農の稲強化農法が大成功 それでも理想は米国流メガファームと一流農学者

農業情報研究所(WAPIC)

08.10.15

 カンボジアの小規模稲作農民がマダカスカル発の”稲強化農法”(SRI System of Rice Intensification)* で大成功を収めている。ところが、国際稲研究所(IRRI)カンボジア支所のOuk Makara副所長は、カンボジアが発展を望むならば米国並みのメガファームが必要だがSRIは余りに労働集約的で大規模農場では使えない、カンボジアでは別のオプションを考える必要があると批判的だという。

  Agro - revolutionaries push cause,Phnom Penh Post,10.10
 http://www.phnompenhpost.com/index.php/2008101022070/National-news/Agro-revolutionaries-push-cause.html

 または
 http://www.cedac.org.kh/agro-revolutionary.pdf

 *日本では稲集約農(栽培)法などと訳されることが多いようだが、”集約”の語は”密植”を連想させるので、筆者は”粗植”のこの農法の訳語として選びたくない。稲固体の体力を”強化する”という意味で、とりあえず 、こう呼んでおく。

 SRIは、農業NGOのカンボジア農業研究センター(CEDAC)により、2000年にカンボジアに導入された。2003年、妻の反対を押し切ってこの農法に賭けた一小農の話では、5年前には彼が耕す1fの水田から1200kgの米しか獲れず、7人の家族を養うためにプノンペンに出て建設工事や人力車の車夫の仕事もした。それでも生き ていくのが精一杯だったのに、今は0.8fの水田から2700kgの米が獲れる。残りの0.2fの土地では有機野菜を栽培、高値で売れる。米の種子もいい値段で売れ、SRIについて村人に教えてもいる。

 CEDACの会長であり、創設者であるYang Saing Komaは、1997年に組織を設立して以来、カンボジアの農業方法を改善するために5年にわたって信頼できる方法を探った。SRIは非常に単純な方法で、90%が2f以下のカンボジアの小農民でも十分に使える。

 これをプノンペン郊外の自分の土地で試したのち、試験参加者を募った。国全体で28人の農民が参加した。28人の成功譚を聞いてSRIを採用する農民が増え、昨年は全国で8万人に達したと見られる。今年は10万まで増えそうだ。農林水産省の公的支援も獲得、政府の06-10年国家戦略的開発プランにも取り込まれた。

 ところが、Ouk Makara博士によると、カンボジアが”まじめに”発展を望むなら大規模な商業的農業を採り入れねばならない。SRIは非常に労働集約的で大規模農場ではそんな面倒な管理はできないから、別の選択肢を考える必要があると言う。もっとも、国はアメリカ式のメガファームが適しているが、農民が別の仕事に就けるまでには時間がかかると断っている。 


 筆者にはマスコミ報道の信憑性を確かめる手段がない。Ouk Makara博士が言うことの真意も確かめる必要がある。しかし、世界的食料危機からの脱出策として農業研究機関・研究者や各国政府・国際機関が増強を主張する途上国農業開発のための投資が、専ら大規模商業的農業の拡大を目指すものであるならば、世界食料安全保障の将来は暗い。

 SRIが世界のどこでも、何時でもうまく機能するわけではなかろう。しかし、小規模農業には、遺伝子組み換え技術など使わず、水や化学肥料や農薬の使用も減らし、なお収量を倍にもできる能力があり得ることを示している。そのような農業の開発を棄て、なぜ 大量の土地無し貧民を生み出し、土壌を劣化させ、水不足と汚染を深刻化させ、生物多様性を損ない、農業生産の持続可能性を危機に陥れる”メガファーム”に走らねばならないのだろうか。食料の将来を”まじめに”考える者にはとんと分からない 。

  なお、本日(10月15日)付けの『日本農業新聞』に、国際食料政策研究所(IFPRI)が14日に発表した「2008年世界飢餓指数」を紹介する記事が掲載されているが、上と同様な趣旨の解説・コメントを述べさせて頂いたので、関心ある方はご覧ください。