農業情報研究所

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フランス:価格低下で農業所得減少、好調は粗放的養牛のみ

農業情報研究所(WAPIC)

03.6.25

 フランスの2002年農業暫定勘定が明らかにされた。これは前年に比べての農業経営の所得の変動を明らかにするものである。以下、6月13日付のAgreste Primeur(No.130)によって紹介する。基本的特徴は価格低下による農業所得減少である。

1.概観

 2002年の農業従事者一人当たりの全国平均農業所得は前年に比べて2.1%減少した。しかし、特に牛と一般作物に特化した県の半分以上では平均所得が増えた。他方、ブドウ栽培と養豚・養禽では減少した(以下「所得」はすべて一人当たりである)。

 農業生産は4分の3の県で増加し、中間消費は量でも価額でもほとんど変化していない。補助金は、EUのアジェンダ2000の枠内での繁殖母牛経営の牛への援助の増額により増加した。従って、全国平均農業所得の減少の大部分は価格低下によるものである。例外はブドウ栽培県と繁殖母牛に特化した県である。

2.大規模耕種部門の所得は減少

 穀物・油料種子・蛋白作物に特化した経営の所得は、減少が3年続いた後、2002年には5.7%増加した。価格は低下したが、収穫量の増加(2001年は不作)が補った。

 それ以外の大規模耕種作物経営の平均所得は、特にジャガイモ価格の低下の影響で1.5%減少した。その結果、地域的に見るとパリ盆地の穀作県で所得が上昇、北部平地県(ノール、パ・ドゥ・カレ)はジャガイモやエンダイブの価格低下で所得を減らした。

 養畜と大規模耕種作物が交錯する東部諸県では所得が増えた。

 1997年以来の変化で見ると、大規模耕種経営全体の平均所得は4.5%の減少で、これは関係する県すべてで見られる傾向である。

3.繁殖母牛で増加、その他畜産では減少傾向

 繁殖母牛経営の所得は平均で10.6%増加した。 酪農経営の所得は増加はしたが、牛乳価格の低下の影響で2.5%の増加にとどまった。牛、特に草を飼料とする牛の価格は改善され、補助金も顕著に増加したから、このような養牛を主体とする中央山塊(オーベルニュ地方の酪農県も含む)の粗放的養牛地帯の所得が改善された。

 景況悪化に牛乳価格低下の影響が加わった西部地方の状況はそれほど良くない。これは、一部は肥育牛の価格が草で育てられた牛ほどには改善されていないことの結果でもある。土地非利用型畜産では、所得は平均で40%も低下した。この最悪の結果は豚肉価格が21%低下したことによる。家禽は価格も生産も低下した。その結果、このような「工業的」畜産地帯に属するコート・ダムール、フィニステール、モルビアンの平均所得は30%、イル・ドゥ・ヴィレーヌでも14%低下した。

 酪農県であるペイ・ドゥ・ロワールやノルマンジーでは若干の所得改善が見られた。

4.ブドウは収穫減、価格は上昇

 ブドウ経営の平均所得は6.1%、その他果樹経営の平均所得は7.6%減少した。野菜経営所得は安定。ブドウの収穫減少は価格回復を可能にした。果実生産は不作の前年に比べて増加し、価格下落を引き起こした。結果として、ブドウ県・果樹県の平均所得は減少することになった。唯一の例外は、収穫が増加したエロー県である。マルヌ、コート・ドール、シャラントではワインの好景気と穀物収穫の増加で所得が伸びた。南西部では、ヒマワリの不作と低価格、これに面積当たりの補助金の減少で所得が低下した。

5.なお大きな地域格差

 以上のような動向で最も目立つのは、フランス農業の支柱をなす大規模耕種経営の不振の傾向、粗放的養畜経営の経済状況改善、工業的畜産の極度の苦境である。Agresteは、大規模耕種経営の不振と粗放的養畜の改善は、後者に比較的有利なアジェンダ2000のCAP改革の影響があると分析している。工業的畜産の苦境はこれとは関係がない。南米やアジアからの輸入をバックに果てしない安売り競争を展開するスーパー等大規模小売業が市場支配力を増した結果である。生産者は価格低下を一層の増産で補おうとするから、それがさらに価格低下への圧力となる悪循環が生まれている。この悪循環を断つには、畜産と土地との結びつきを強める生産構造改革が不可欠であるが、生産者の現実的選択肢にはなっていない。

 全体としてみると、大規模耕種経営の不振、粗放的養畜経営の改善にもかかわらず、所得の地域格差が依然として大きい。2001年のフランス本土平均の所得を100とする各地方の平均所得の指数は、大規模耕種経営が支配的なシャンパーニュ-アルデンヌが204、ピカルディーが140、イル・ドゥ・フランスが135であるが、山岳地域・条件不利地域に属するリムーザンが54、ミディ・ピレネーが66、オーベルニュが68で、最低と最高では4倍の開きがある。