2年続きのCO2濃度急上昇、温暖化が温暖化を呼ぶ過程の始まり?

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.12

 1950年代末以来、平均して1.5ppmに安定していた大気中の二酸化炭素ガス濃度の年間上昇率が2年続けて2ppmを上回った。これは、温暖化が温暖化を呼ぶという恐れられていた事態が既に始まったことを示すのではないか。もしそうならば、温暖化がもたらす破滅的影響が予想以上に早く世界を襲うのではないか。科学者の間にそんな懸念が高まっている。

 産業革命以前、大気中の二酸化濃度は280ppm程度で安定していた。現在も続くハワイの火山・マウナ・ロア山頂での観測が始まった1958年の濃度は315ppmだった。以来、年に1.5ppmの増加が続き、京都議定書が調印された97年には368ppm、04年の現在は379ppmに達している。京都議定書を生み出した科学者たちは、温暖化の破滅的影響を回避するために、21世紀末の濃度を450ppmに抑えることを望んでいるが、多くはこれは非現実的、550ppmに抑えれば、人間生活がなんとか適応、あるいは耐えられる程度の影響にとどまると考えている。ところが、この濃度は、01年から02年にかけて2.08ppm(371.02→373.10)、02年から03年にかけて2.54ppm(373.10→375.64)上昇した。この率で上昇が続けば、今世紀末に550ppmに抑えることはとてもできないことになる。

 このような急激な濃度上昇が何故起きたのか。10月11日付の英国のインディペンデント紙(1)、ガーディアン紙(2)によると、科学者は、温暖化が地球の自然のシステムを変え、それがさらなる温暖化を引き起こすという気候変動の「フィードバック」のメカニズムの始まりを意味するのではないかと恐れているという。これまでも、年々の濃度上昇率にブレはあった。だが、88年の2.45ppm、98年の2.74ppmのように、そのピークはすべてエル・ニーニョに関連していた。海水温上昇で海からの二酸化炭素放出量が増えたということだ。ところが、02年、03年については、 エル・ニーニョはない。人間活動による二酸化炭素放出がこの年に急激に増えたわけでもない。だとすれば、このフィードバックのメカニズムが既に働き始めたとすることで、この急上昇が説明できるのではないかというわけだ。

 インディペンデント紙によると、マウナ・ロアで58年以来観測を続けてきたカリフォルニア大学のチャールズ・キーリング博士は、同紙に対し、上昇は現実のものであり、「フィードバック」の始まりを示す可能性もあると語った。それは、エル・ニーニョの場合のように、単に太平洋南部の「揺れ」に関係したものにすぎない可能性もあるが、「予想外の自然の過程の始まりである可能性もある」と言う。

 温暖化が森林の二酸化炭素吸収能力を減らし、大気中への放出量を増やす可能性は従来から指摘されてきた。また、海水が二酸化炭素を吸収する能力も温暖化とともに減るだろうことも予想されてきた。だが、それは長期の過程を通じて徐々に起きるものと考えられてきた。大気中に放出される二酸化炭素は年々70億トンほどであるが、大気中に残るのはその6割弱、その他は森林と海に吸収される。二酸化炭素が増えても植物の光合成が盛んになり、森林の二酸化炭素吸収量は増える。だが、2050年くらいからはこの吸収量が限界に達し、温度上昇の結果、土壌中の有機物を分解して二酸化炭素放出する効果のほうが上回るようになると言われてきた。海については、今後1000年くらいは、現在に等しい二酸化炭素を吸収し続けるだろうと言われてきた。このような予想が、温暖化の速度を緩め、人間の「適応」のための一定の時間的余裕を与えると考えられたわけだ。

 ところが、この「フィードバック」のメカニズムが既に働き始めているとすれば、温暖化はこれまでの予想以上のスピードで進み、従って、干ばつ、農業生産の減少、海面上昇、極端な気象事象や洪水などの破滅的影響への適応のための時間的余裕もずっと短くなる恐れがある。

 グリーンピースは今日、英国政府の科学アドバイザー主任であるデヴィッド・キング博士を招き、気候変動の科学と行動の必要性に焦点を当てたビジネス・レクチャーを開くが(3)、ここでこの発見が議論されるという。

 (1)Surprise CO2 rise may speed up global warming,How 'feedback' can suppress the earth's ability to remove greenhouse gases,The Independent,10.11
 (2)Climate fear as carbon levels soar,The Guardian,10.11
 (3)Greenpeace Business Lecture on Global Warming: The imperatives for action