WHO 人間のH5N1鳥インフルエンザ蔓延の脅威増大を報告

農業情報研究所

05.5.20

 世界保健機関(WHO)のレポートが、東南アジアに付き纏っているH5N1鳥インフルエンザが人間のインフルエンザの蔓延をもたらすように変化しつつあるらしいことを明らかにした(http://www.who.int/csr/disease/avian_influenza/H5N1IntercountryAssessment.pdf)。このレポートは、5月6−7日にフィリピン・マニラで開かれた専門家会合での協議に基づくものである。

 これは、2005年のベトナム北部の人間の鳥インフルエンザのケースが2004年のケースで見られたのと異なる疫学的・ウィルス学的特徴を示していること、また、それはベトナム南部や他のアジア諸国の人間のケースで現在見られるものとも異なっていることから示唆される。証明はされていないが、この違いは、ウィルスが既に人から人に伝達したかもしれないことを示す。また、ベトナム北部のウィルス株の感染性は一層増しているが、他の場所のものより致死的ではないことも示唆するという。

 レポートは、「この疫学的・ウィルス学的発見の意味するところは完全には明確でないが、ウィルスは変異を続けており、蔓延の脅威が潜在的に増している」と言う。致死性は減っても、感染しやすくなり、感染が爆発的に増えれば、犠牲者の数も爆発的に増えるだろう。

 南部ベトナムの人間のケースでは、感染者の83%が死亡、2004年のタイのケースでも71%が死亡した。ところが、ベトナム北部の感染者の死亡率は34%にすぎない。さらに、発症していない3人の感染者は、感染確認者と緊密な接触があったと見られ、症状が見えにくいH5N1感染が起きている可能性がある。

 ウィルスの変化の他の証拠としては、ベトナム北部では南部に比べて、人間のケースが特定地域に一層集中している(クラスターの形成)。また、犠牲者の平均年齢も、ベトナム北部では2004年の17歳から2005年には31歳に上がり、感染者の年齢の幅は乳児から80歳にまで広がっている。

 報告は、薬剤投与を受けた患者の一人において、インフルエンザ薬・オセルタミビルへの抵抗性に変化が見られることにも注目、これに対するウィルスの抵抗性が現われ、広がると、予防とコントロールに重大な影響を与えると警告する。

 WHOは各国に対し、蔓延に備える計画を強化、抗ウィルス薬を蓄積し、蔓延が始まる前に関係アジア諸国が利用できるH5N!ワクチンを作る方法を探究するように勧告している。

 示唆された変化の確証のためには、一層のデータが必要になるだろう。しかし、各国のWHOへの情報提供、ウィルス変異を分析するためのサンプルの提供は拒まれ、あるいは著しく遅れている。WHO19日、人間のケースの累積数を発表したが、ベトナム保健省に対して個々ケースに関するデータの一層の提出を要請した(http://www.who.int/csr/don/2005_05_19/en/index.html)。特にクラスターで発生したときには、迅速な現場調査が伝達のパターンのあり得る変化を評価するために不可欠という。

 また、511日付のネイチャー・ニュースは、各国のサンプル提出の遅れのために、WHOが感染したアジアの鳥から分離されたウィルスに関するデータを最後に見たのは8ヵ月も前のことだと暴露した('Refusal to share' leaves agency struggling to monitor bird flu,news@nature,5.11)。2005年になってのウィルスの変異は検証のしようがない。一部の国はサンプル収集・貯蔵・輸送の能力を欠く。また、各国は、サンプルを共有すると情報のコントロールが不能となりると恐れる。発生国の科学者はサンプルを最初に研究して業績を稼ぎ、あるいは自国のワクチン開発のためにデータを利用したがるためという。これでは、確証がつかめたときには対応は手遅れになっているかもしれない。