過去のワクチン・抗ウィルス剤は予想以上にインフルエンザに効かないー二つの新研究

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.22

 インターナショナル・ヘラルド・トリビューンの報道によると、世界中の政府が新たなインフルエンザのパンデミック(世界的大流行)勃発に備えて備蓄を進めているワクチンや抗ウィルス剤が考えれているよりも効かないという新たな二つの研究が、世界的に権威のある英国医学誌・ランセットに発表された。

 http://www.iht.com/articles/2005/09/21/news/flu.php

 原文は未見なので詳しいことは分からないが、一つの研究は国際的研究者が過去37年に世界規模で使われたインフルエンザ・ワクチンに関する患者の研究からのすべてのデータを分析し、これらワクチンが、最善の場合でも、高齢者のインフルエンザか、その合併症を防ぐ”モデスト”な能力を示すにすぎないことを発見したという。

 研究データのシステマチックなレビューを行う科学者のコンソーシアムであるCochrane Vaccine Fields プロジェクトのローマの研究者・トム・ジェファーソン氏は、「支持者が宣伝する楽々と得られた有効性はどこにも見られなかった」、「これらワクチンのコミュニティーにおける影響はとんでもなく過大に評価されている」、「パンデミックの場合には、これらワクチンが高齢者に効くかどうかはデータからは不確かだ」と言っている。

 第二の研究は、アトランタの疾病抑制予防センターの研究で、インフルエンザ・ウィルス、特に極度に恐れられている鳥インフルエンザ・ウィルスが、利用可能な安価な抗ウィルス剤の唯一の種類に高度の抵抗性を発達させたことを発見した。抵抗性は、2003年以来、特にアジアで急速に高まっているという。

 同センターのリック・ブライト博士は、「我々は、近年広がっている人間のインフルエンザ・ウィルスの薬剤抵抗性の劇的増加の発見に警告を受けた。我々のレポートは、インフルエンザのエピデミック(地方的流行)やパンデミックの株のためにこれら薬剤を備蓄することを計画している諸機関・政府にとって広大なインプリケーションを持つ」と言う。

 研究によると、2000年以前には、アマンタジンに抵抗性をもつウィルスはなかった。2004年までに、韓国で採集されたA型インフルエンザ・ウィルスの15%、香港で採集されたものの70%、中国で採集されたものの74%がこの薬剤に無感になっていた。抵抗性の増加は米国でも見られたし、H5N1株のすべての人間のケースは抵抗性になったという。

 記事は、この発見の意味について次のように言う。

 この発見が直ちに重大な意味をもつのは途上国に対してだ。有効であるけれどもなお特許があるタミフルのような新しく、高価な抗ウィルス薬は豊かな国が備蓄してきた。しかし、研究は、パンデミックが勃発してこれらの新しい薬剤が普通に使われるようになったときには、ウィルスがいかに早く、また予想を超えて無感になることができるかを示したのだから、先進国でもやはり憂慮されるべきことだ。

 しかし、コメントを求められたWHOのスポークスマン・ディック・トンプソン氏は、現時点でのワクチンに関する諸研究の分析の発見は支持も、否定もできない、一部専門家は、彼らのサンプルには、”いくつかの過去の重要な研究が含まれない”とこれら研究者を批判したと語っただけという。

 しかし、ウィルスの急速な薬剤抵抗性発達を警戒すべきことだけは確かだろう。議論の進展を見守りたい。