農業情報研究所


EU:穀物輸入関税制度変更交渉を提案、米国が反発

農業情報研究所(WAPIC)

2002.7.3

 6月24日、欧州委員会はコメ・穀物の輸入関税システムを修正するためにWTOのパートナーと交渉を開始する提案を採択した(Commission proposes to open WTO negotiations to modify its import regime for rice and cereals )。閣僚理事会が承認すれば交渉が開始されることになる。修正システムについては、「多分、関税率割当と固定関税に基づくよりリニアなシステム」と言うだけで、詳細はまだ不明であるが、輸入関税計算の基礎をなす世界市場価格の代表的指標としての従来の米国相場を、より低い別の地域の価格に置き代えることが主眼となる。

 この提案の背景には次のような事情がある。

 ウルグアイ・ラウンドで合意された現在のシステムでは、世界市場価格として米国商品市場相場が採られ、これに米国市場でのプレミアムと輸送費を加えたCIFロッテルダム価格をEUの介入価格(保障価格)の155%と比較、その差額が輸入関税として計算される(輸入関税=EU介入価格×1.55−CIFロッテルダム価格)。ところが、昨年来、ウクライナや東欧諸国からの安価な穀物の輸出が急増、米国相場を基準とする関税ではこれら諸国からの輸入の激増を止めることができなくなってしまった。フィシュラー農業担当委員によれば、このために、「コメと穀物のEUへの輸入に関する制度は機能していない」。そこで今回の提案となったわけである。上の算式を踏襲するかぎり、これによって輸入関税が増えるのは明らかである。フィシュラー農業担当委員は、コメと穀物のEU市場アクセスを一層制限する意図はなく、交渉の目的はWTOの義務を一層的確に果たすようにシステムを改善し、我々の権利を護ることだと言っている。

 しかし、これに対しては、米国が早速反発した。ゼーリック通商代表とベナマン農務長官は、ルール変更は米国のEUへの穀物輸出に損害を与えると、強く反発する共同声明を出した(Statement by Agriculture Secretary Ann M. Veneman and U.S. Trade Representative Robert B. Zoellick Regarding Opposition to Europe's Proposal to Restrict Market Access of Grains and Rice June 28, 2002 )。インドは、新たなコメ輸入制度によりコメ輸入割当が現状に固定されれば、利益を得るのは(現在のEUコメ輸入市場で4分の1に近いシェアをもつ)米国で、インドのバスマティ米(南アジアの香りの高い長粒種米、ここ数年の間にEUへの輸出が大きく伸びてきた)の輸出の伸びが止まると恐れている。

 関連EUリリース
 "Commission has no intention to restrict access of cereals and rice to the EU market", says EU Farm Commissioner Fischler,7.1

 関連ニュース
 EU'S NEW RICE REGIME TO BENEFIT US AT INDIA'S COST,Asia Pulse,7.1
 Brussels' plan for grain imports irks US,Financial Times,6.29,p.2

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