米国FDA クローン動物食品は食べて安全 だが食品安全性を問うだけで十分なのか

農業情報研究所(WAPIC)

07.1.6

 米国食品医薬局(FDA)が先月28日、クローン動物とその子の肉や乳は通常の動物の肉・乳と同様に安全であるとするリスク評価報告を発表した。この報告は、2001年以来のクローン家畜由来製品販売モラトリアムの解除に向けた道を開くものだ。FDAによれば、90日間のパブリックコメントを経て、今年末までには販売許可の最終決定が下されることになりそうだ。

 Draft Documents Issued on Safety of Animal Clones,06.12.28

 この動きは、今や人間の退化も終末に近づいているのではないかと絶望的な感慨を呼び起こす。今や人々は、新たな技術がもたらすリスクに関する論議において、専ら人間(と動物)の健康・生命への直接的リスクに関心を集中するようになってしまった。クローン動物の肉や乳についても同様だ。それが食べて安全かどうか、あるいは一部の人々が懸念する動物福祉上の直接的悪影響があるどうかだけの判断に基づいて、その利用の是非が決定される。これらの問題さえなければ、人間は何をしても構わないと信じて疑わない。

 だが、こんな問題の立て方しかできないとすれば、それは人間の想像力が大きく退化してしまっているからだ。それは、人間の健康へのリスクを恐れるあまり、牛肉の大量生産・消費がもたらす人類の存亡にもかかわる広範な問題をすっかり忘れてしまった狂牛病をめぐる論議と同様な歩みを辿っている。クローンをめぐる論議が、それがもたらすかもしれない食品安全上のリスクや動物福祉上の問題に集中している間に、それが確実にもたらすもっと重大な結果がすっかり忘れられてしまった。

 その重大な結果とは、動物の遺伝的多様性の喪失だ。クローン技術は遺伝的に同一の動物を創り出すものだ。農業が依存する遺伝子プールが必然的に縮小してしまう。それは将来の農業の存続にかかわる。そして、遺伝的多様性がなくなれば、種の存続とっても巨大なリスクが生み出される。

 このような重大な決定を”食品安全”当局に委ねる”リスク社会”にどんな未来があるのだろうか。クローンは誰の利益になるのか。社会はそんなものを必要としているのか。根本的な見直しが必要だ。

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