EU 工業用遺伝子組み換えジャガイモの栽培を承認 フランス、イタリア等で拒否反応
10.3.3
欧州委員会が3月2日、意見が分裂して承認の可否が決定できなかった25の構成国に代わり、新たに４種の遺伝子組み換え（GM）作物を承認した。
10年間有効とされるこの承認の対象となったのは、ドイツのBABF社が開発したジャガイモ・ Amfloraと、モンサント社の３種のトウモロコシ（MON863xMON810、MON863xNK603、 MON863xMON810xNK603）である。
Amfloraは紙やプラスチックなどの工業製品に適したスターチの生産のために使われ、生産過程の最適化と原料・エネルギー・水・石油ベースの化学物質の節約を助けるとされる。工業用途での栽培が承認されるとともに、スターチ副産物の飼料としての使用も承認された。トウモロコシは栽培ではなく、食品・飼料としての使用だけが承認された。
09年9月、GM作物導入をためらっていてはEU農業・畜産の競争力が落ちるばかりと焦るバローゾ委員長は、承認の迅速化のために、現在のEUのGM製品承認システムに自国領土内でのGM作物栽培を望むかどうか構成国が決定する自由を結合する方針を打ち出した。これを担当する総局（国の省庁に相当）も、GM反対の立場を取るディマス委員の環境総局からジョン・ダリ委員の保健・消費者問題総局に切り替えた。
決定の発表に際し、ダリ委員は、この決定は欧州食品安全機関（EFSA）の多年にわたる安全性評価に基づくもので、すべての科学的問題、特に安全性に関する問題が解消された、反対派が強く恐れてきたこれらGM製品中の抗生剤耐性マーカー遺伝子の存在についても高度な精査に服したし、一層の評価に値する新たな科学的問題はまったくないと明言した。
Commission announces upcoming
proposal on choice for Member States to cultivate or not GMO's and approves 5
decisions on GMO's,European Commission,10.3.2
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/10/222&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
関連情報：Questions
and Answers on Genetically Modified Organisms (GMO's),European
Commission,10.3.2
しかし、市民・消費者のGM作物・食品に対する不信はこれでも解消しない。「ヨーロッパ企業監視運動」（Corporate Europe Observatory）は今年1月、これらGM作物の安全性評価をにかかわったEFSAの前GMOパネル委員長・Suzy Renckensが2008年3月にEFSAを去り、2ヵ月後の5月にはシンジェンタの「ヨーロッパ・アフリカ・中東バイテク規制問題部長」に就任したことを暴露した。これで、EFSAの安全性評価自体への信頼も大きく揺らいだ。
Head of European Food Standards Agency GMO
panel moves to Syngenta: Letter to Barroso,Corporate
Europe Observatory,10.1.21
http://www.corporateeurope.org/agrofuels/content/2010/01/revolving-doors-efsa-and-syngenta
これでは、フランス、イタリア、オーストリアなど、これまで承認に反対してきた国の政府も態度を変えるわけにはいかない。
フランスでは、緑の党、ジョゼ・ボベ、グリーンピース、社会党などがただちに反対の声をあげた。政府は、態度決定の前に、ジャガイモ中の抗生剤耐性遺伝子の存在に関してバイオテクノロジー高等評議会の意見を求めるという。
オーストリアでは、政府がジャガイモ禁止を示唆した。
イタリアでは、農業大臣がこの決定で我が国のGM食品政策が変わることはありえない、GM食品禁止の厳格な執行は「国の主権の問題」だと言い、フランス、ギリシャ、ハンガリーなどと手を携え、決定の取り消しを要求するといきまく。最大野党の民主党も、「イタリア農業の将来は高級、有機食品であり、GMの模造品ではない」と農業大臣に呼応する。
イタリアはヨーロッパ第二、世界第四の有機作物生産国（注）だから、偶発的なGM汚染から生じる損害への恐れが大きく広がっているという。
OGM
: la pomme de terre pas commercialisée en France dans l'immédiat,Le Monde,3.2
http://www.lemonde.fr/planete/article/2010/03/02/les-ecologistes-protestent-contre-la-commercialisation-d-ogm-dans-l-ue_1313502_3244.html#ens_id=1269926
EU nod to GM crops angers
Italians,ANSA,3.2
http://www.ansa.it/web/notizie/rubriche/english/2010/03/02/visualizza_new.html_1709902802.html
この決定にもかかわらず、GMジャガイモがただちに大々的に導入されることはなさそうだ。
（注）2008年のEU諸国における有機農地面積（ヘクタール）が多いのは、スペイン：131万8000、イタリア：100万2000、ドイツ：90万8000、イギリス：72万6000、フランス：58万4000、オーストリア：44万8000、・・・・・・。利用農地面積中の有機農地面積の比率（％）が高いのは、オーストリア：15.7、スウェーデン：9.9、イタリア：8.9、エストニア：8.7、チェコ共和国：8.3、ラトビア：8.2、ギリシャ：6.9・・・・・・。
データ出所：欧州委員会；http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=STAT/10/30&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en