農業情報研究所


EU:科学運営委員会、羊・山羊の利用の安全性に関する意見を発表

農業情報研究所(WAPIC)

02.4.14

 EUの科学運営委員会(SSC)が小反芻動物(羊・山羊)の利用の安全な利用に関する意見を発表した(Opinion on safe sourcing of small ruminant materials )。SSCの昨年10月の意見は、小反芻動物におけるBSEがありそう(plobable)ということになれば、一定の特定危険部位(SRM)の除去による小反芻動物の安全な利用に関する以前の意見が不適切になり、一層の包括的なアプローチが必要となろうが、可能な消費者保護の手段としてのゲノタイピング(遺伝子型判定)BSE病源体に暴露されたについて包括的な判断を可能にするデータがなく、ゲノタイピングの概念を緊急に検証するように勧告していた(EU:科学運営委員会(SSC)が羊と山羊のBSEリスクに関する意見を発表)。この意見は、さらに、長期的な安全利用を保証する政策の一部としての羊群認証に関する意見、広く行なわれているスクレイピー・BSE抵抗性の動物の育種に利用される基準に関する意見を用意するとも述べていた。

 これらの問題に加え、欧州委員会は、新たに二つの問題について意見を求めた。第一はスクレイピーやBSEのような伝達性海綿状脳症(TSE)に罹った動物群の淘汰に関する問題である。第二は、小反芻動物にBSEが存在する可能性は高まっていない、現段階ではSRMのリストを修正しなければならない理由はないとした昨年3月と10月のSSCの意見はその後の科学的データや証拠に照らして維持できるかどうかという問題である。

 今回の意見は、これらの問題に答えようとするものである。以下は意見の要点である。

1.実験的に感染させたBSE感受性のある動物における感染性の分布

 牛の場合と異なり、潜伏早期の感染性はリンパ組織に広くみられる。感受性の羊では、BSE病源体に暴露されて1ヵ月後には、腸、リンパ節、扁桃、胃、脾臓に大きな感染性が認められる。36ヵ月後には、感染性はさらに高まり、分布も広がる。中枢神経組織に比べての腸のスクレイピープリオン蛋白質の量は、潜伏初期から末期まで相対的に多い。現在の知見によれば、次の組織・器官がBSE感染性をもつか、もつ可能性がある。

 −頭

 −脊髄及びこれに結合した背根神経節

 −脾臓

 −末梢神経組織

 −その他のリンパ組織(扁桃など)とリンパ節

 −肝臓

 −膵臓

 −胎盤

 −食道から直腸までの消化管

2.スクレイピーとBSEに対する抵抗性・感受性のある小反芻動物の遺伝子型

 遺伝子型と感受性の関係はスクレイピーとBSEで類似している。羊においては、これら二つのTSEへの感受性はコドン136、154、171のプリオン蛋白質遺伝子型に大きく関連している。

 最も感受性が高い羊はプリオン蛋白質遺伝子コドン171がグルタミンのホモ接合体であり、これらの羊では、感染性は感染数カ月後にリンパ系統に広がっている。

 最も抵抗性が高いのはコドン171がアルギニンのホモ接合体の羊であり、感染の可能性は非常に低く、仮に感染が起きたとしても病気の進展は非常にゆっくりしているから、若い羊では高レベルの感染性に達しない。これらの羊については、年齢を問わず感染性をもつ証拠はなく、最悪の場合を想定しても18ヵ月齢以下では大きな危険はない。

  コドン171がアルギニンのヘテロ接合体である半抵抗性の羊の抵抗性は中間的で、6ヵ月以下でのみ感染性がないと考えられる。

3.小反芻動物のBSE感染を確認するための簡易検査

 現在利用できる牛の死後簡易検査は、羊の中枢神経組織に適用できれば感染小反芻動物の発見に役立つが、BSE感受性の動物は潜伏早期から周辺組織に感染性が現れるから、牛の場合と同等な消費者保護を提供しない。リンパ組織のような感染初期に感染性を示す組織に適用可能な検査は開発中であり、当分実用化の見込みはない。

 現在の中枢神経組織に適用される検査は、感染性が一定のリンパ組織に認められない半抵抗性の羊の感染確認には有益である。

4.TSE抵抗性動物の育種

 (略)

5.羊群認証

 感染性は数年を経て現れる可能性があるから、「TSEフリー」の動物群の認証計画の実施には未だ多くの時間が必要である。短期的には、必用ならば検査・ゲノタイピングのような他の基準も併用した「暫定認証」のアプローチが代替手段となる。

6.淘汰戦略

 動物群内及び群間での直接・間接の感染伝達性のために、感染が確認された動物の排除だけでは群のリスクを排除できない。従って、淘汰戦略は、感染動物は発見された郡全体をカバーし、BSEが確認された場合には、感染動物の子を含む他の反芻動物や放牧区域を通してこの群と接触した諸群もカバーすることが理想的である。ただし、抵抗性遺伝子型の羊については、このような淘汰によるリスク減少効果はほとんどない。他の群への伝達のリスクが無視できるかどうかは、群に導入された動物が識別され、その来歴が追跡可能でなければならない。

7.小反芻動物の安全な利用

 小反芻動物にBSEが存在する可能性が出てくれば、その諸部位の利用の安全確保は、一定の月齢から感染性をもちうると分かっている組織の除去、BSE検査、BSE抵抗性のゲノタイピングと育種、群認証、個々の動物と群のトレーシングなどの様々なアプローチを併用して達成される。

 さらに、BSEに感染した可能性のある動物から生じる部位のありうるリスクは、地域的な給餌慣行・BSE感染牛の輸入・既存のサーベイランス・システムの信頼性のような要因にかかる動物の地理的起原(原産地)によって変わる。

 小反芻動物における地理的BSEリスクの評価方法に関するSSCの意見は、開発されるべきモデルの複雑性と羊に関するデータの制約により、すぐには出せないであろう。しかし、2002年の羊のスクレイピー・BSEの簡易検査をベースとするモニタリング計画と羊のBSEの存在を調査するためのSSCの来るべきプロトコルにより、将来は迅速に基本的情報が提供できるようになるであろう。

8.SSCの意見の修正の必要性について

 −小反芻動物にBSEが存在する可能性が高まっているかどうかについては、昨年10月の意見を再確認する(「BSEが野外の条件の下で小反芻動物中に存在する証拠は、現在はない」)。

 −羊の腸からのケーシングが無視できないリスクを示すかどうかは、ケーシングの生産過程から生じるリスク軽減、ケーシングの生産に使われる腸の諸部分の感染性、動物の月齢に依存する。ケーシングにより生じうるリスクを評価するためのデータと情報は、現在、多くの研究機関が蒐集中であり、最終結論はこの研究の成果を待つべきである。

 −ミルクの安全性については昨年10月の意見が未だ有効である。すなわち、ミルクと初乳にリスクがあるというデータはないが、予防的理由により、BSEが疑われる動物からのミルク・初乳・ミルク製品が消費に供されてはならない。

 なお、SSCは、同時に「羊におけるBSEのありうる存在を調査するための戦略」を発表している(Strategy to investigate the possible presence of BSE in small ruminants

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