フランス:屠畜場廃水・汚泥のBSEリスク評価、感染源は環境にもあり得る

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.27

 食肉処理場の廃水と汚泥のプリオン汚染のリスクに関するAFSSAの報告書

 10月17日、フランス食品衛生安全機関(AFSSA)が環境中への異常プリオン放出からくる狂牛病(BSE)のリスクに関する報告(*)を発表した。屠畜場と解体処理施設から出る廃水と汚泥から生じるかもしれない土壌と水の異常プリオンによる汚染に関連したリスクを評価したものである。

 AFSSAは、反芻動物の産物・副産物を扱う施設から出る投棄物と廃水について、水系及び地球環境中の伝達性病源体の検出に関する科学的認識の現状、これら施設に適用される規則とそこで実施されている慣行の現状の二つに焦点を当てた研究を行なってきたが、並行していくつかの省庁部局からのこの病源体に関連する環境リスクに関する様々な問題で諮問を受けてきた。それらの問題とは、

 ・屠畜場の廃水及び汚泥から生じ得る異常プリオンによる土壌と水の汚染のリスク、

 ・食肉処理施設の下流での取水で得られる水の消費に関連した衛生上のリスク、

 ・焼却すべき高リスク物質の加工施設の廃水処理(高圧熱処理、膜による濾過による感染性低減の有効性)

である。

 今回の報告はこのような問題に答えようとするものである。それは、将来の規則改定に関連して、関連部門の安全保障レベルの引き上げを可能にする勧告の提案やこの分野での特別研究の軸の確認につながるものである。

 この研究は、屠畜場と解体処理施設の廃水と汚泥から生じ得る異常プリオンによる土壌と水の汚染に関連したリスクの評価には、これら施設から出る廃水中に見出される特定危険部位(SRM)の断片の質的・量的評価、及びこれらの廃水と汚泥のあり得る感染性のレベルの評価が必要であるとして、三つのステップで行なわれた。

 第一ステップは、SRMの断片が利用される水によって排出され得る場所の決定と屠体から出る危険部位断片の量的評価である。第二ステップは、屠畜場で実行される前処理の把握と廃水中に含まれるSRM断片の排除の可能性の量的評価である。この目的は、屠畜場から出て一般の浄水場に入る水のあり得る感染性のレベルを評価することにある。第三段階で、こうして得られたデータから、リスクが評価され、モデル化される。

 分析の過程の詳細は省き、結論だけ言えば次のようになる。

 糞便を通しての牛由来の異常プリオンの環境中への拡散はリスクとして認識されておらず、このリスクは無視できる。従って、地表水・地下水の汚染は、専ら屠畜場と解体処理施設から出る水と汚泥の環境中での変転を通してのものと考えられる。浄水場から出る水と汚泥を介しての感染源拡散の現実的リスクは、この病源体の防除措置の実施と感染牛の減少によってのみ大きく減らすことができる。

 屠畜場の廃水と汚泥から生じ得る土壌と汚泥の汚染のリスクに関しては、確たる意見を提供するには不十分な科学的データしかないが、基本的リスクは汚泥の散布に関連していると見られる。解体処理施設の下流での取水で得られる水の消費に関連した衛生上のリスクについては、概ね屠畜場と同様であるが、BSEは解体処理施設で発見されることが多く、屠畜場で集められるSRMは解体処理場に集中するから、これら施設に入る感染性の量はより多くなる。ただし、これは、高リスクと見られる廃水への特別の処理の実施と専用の浄水施設の存在により相殺される。病源体の不活性化処理については、高リスク物質を扱う解体処理施設の廃水処理は廃水処理施設の能力からしてしばしば機能不全になっているし、濾過や処理システムへの信頼性も欠ける。こうした情報の全体により、浄水場の上流でのSRMによる廃水汚染防止の重要性が確認できる。

 今後の開発すべき研究の軸は、特に病源体の環境(汚泥、水、土壌)中での変転と検出方法とされた。実施すべき手段として、廃水循環中の中枢神経組織の追跡を可能にする敏感な検出技術と結びついたマーカーの確認と処理過程のミニチュア・モデルの開発が挙げられている。

環境汚染からくるBSEリスクの研究の必要性

 わが国で8頭目となった「非定型」BSEのケースの異常プリオンの遺伝子配列は従来のものと同じと確認された。そして、その感染原因・感染経路は従来のものと同様、飼料が最有力視されている。ただし、この牛は肉骨粉全面禁止のあとに生まれた牛である。今後、飼料の製造から給与までの交差汚染の可能性に重点をおいて精査するという。異常プリオンに汚染された飼料がBSEの感染経路だとする「定説」を前提にするかぎり、これは間違っていない。しかし、この前提に立っても、環境汚染からくる牛の餌の汚染の可能性も否定できるわけではない。英国では、肉骨粉を全面禁止(肥料も禁止)した1996年8月以降に生まれた牛60頭にBSEが確認されている(10月16日現在)。その感染源はまったくわかっていない。環境汚染の可能性も含めた研究が行なわれている。

 異常プリオンによる環境汚染にも様々なルートがあり得る。肉骨粉を含む肥料の散布や患牛の糞便による草地(飼料作物)の汚染があり得る。AFSSAは糞便による汚染のリスクは無視できるとしたが、英国の研究者のなかには、BSE研究施設の牛の糞便による汚染を懸念する人もいる。肉骨粉のズサンな扱いから異常プリオンが環境中に拡散する可能性もある(風を通しての拡散、水濡れによる水や土壌への溶出、昆虫・ネズミ・鳥による環境中への持ち出し)。フランス並の厳重な管理が実行されていれば(⇒肉骨粉禁止にともなう廃棄物処理ーフランスの例ー,01.10.11)、このリスクはそれほど心配することはないが、わが国ではどうだろうか。BSE発覚を恐れて内密に埋められた死亡・病牛からくる水・土壌の汚染もあり得る。今回のAFSSAの報告のような場合もあり得よう。さらに、BSEが確認されていないが潜在する国からものも含めた非動物性輸入飼料・飼料原料が汚染されている可能性も考えられる。

 8頭目の感染源が交差汚染と確認できないとき、わが国では当面は無視ないしは軽視されている環境汚染からくるリスクの調査も、いずれ必要になるかもしれない。 

 *les risques sanitaires au regard de l'ESB liés au rejets dans l'environnement des effluents et boues issus d'abattoirs et d'equarrissages

農業情報研究所(WAPIC)

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