米国のBSE(第六報):農水省、米国牛肉輸入条件を検討、安全レベル向上はゼロ

農業情報研究所(WAPIC)

04.1.8

 日本経済新聞(1月8日)の報道によると、

 ・「農水省はBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)が発生した米国の牛肉の輸入停止を当面続ける一方、将来的に再開を認める条件として、米政府が認めた日米の外食など民間業者や非営利組織(NPO)が検査して陰性であれば容認する検討に入った」、

 ・「検討を進めている方式は、米政府が安全検査の水準が一定に達していると認めた日米の民間業者やNPOなどが獣医師などに委託して米国の牧場や処理場の牛を検査。BSEに感染していないと判断した牛の肉に限って輸入を認める。日本の外食チェーン店や食肉輸入業者など特定の認定業者以外でも、米政府が認めれば検査機関として容認する案が有力だ」、

 ・「農水省内ではこのほか、BSEに感染していないことを確認する米政府の全頭検査など、安全を確保できる体制を整えた特定の牧場や処理場の分だけは輸入解禁する案も挙がっている」

 という。

 新聞報道であり、「特定危険部位」の扱いをどうするのかなど、詳細は分からない。だが、報道されたとおりの措置しか取られないとすれば、安全面での改善はゼロに近い。

 繰り返し言ってきたように、「検査」は感染がないことを保証するものではない。現在の検査の技術的限界から、検出限界まで病気が進行していない感染牛を発見することはできないからだ。米国農務省のヘグウッド特別顧問(通商担当)は、日本政府がBSEの全頭検査を求めていることに対して、「米国で食肉用とする牛の大部分は二十四ヵ月以下。”この年齢の牛が陽性反応を示さないのは国際的に認められた科学的知見”とし、若い牛を対象にした検査の意味は乏しい反論した」という。確かに、この月齢の牛では、異常に病気の進行が早い感染牛が例外的に発見されることはあり得ても、大部分は陽性とならないだろう。これらの感染牛の大部分は見逃されてしまう。

 こうした牛からくるリスクを最小限にするための国際的に認められた基本的手段が「特定危険部位」の完全廃棄である。米国は、初のBSE発生を受け、特定危険部位の人間食用からの排除と、特定危険部位が食肉やその加工品に混入するのを防ぐための先進的食肉回収(AMR)やスタンニングの方法への規制を強化した。だが、感染早期から感染性を示す回腸遠位部を含む小腸は別として、中枢神経組織は30ヵ月以上の牛に限って排除するだけである(EUは12ヵ月以上、日本は全頭)。また、EUはすべての牛の扁桃を特定危険部位に指定、それが食用に利用される舌に残らないように除去の方法まで定めているが、米国にはこのような定めはない。日本でも同様であるが、これでは、検査で発見できない感染牛からくるリスクが大きく残ってしまう(特に米国牛の舌の輸入量は大量だから、リスクは一層大きい)。扁桃の除去に関しては、日本自体も早急に再検討する必要がある。

 米国が食肉用とする牛の大部分が24ヵ月以下とすれば、日本に輸出される肉・肉製品のもととなる牛の大部分は、検査されもしなければ(米国が輸出用牛の全頭監査を認めたとしても、安全対策としての意味は大きくはないが)、特定危険部位を除去されることもないということになってしまう。つまり、農水省案では、実際上、安全性向上のための措置は何一つ追加されないことになる。

 それでも、米国にBSEが存在しないことが確認されれば、安全は確保されるであろう。米国が安全とする最大の根拠は、BSE発生があったとしても、ごく少数ということである。ヘグウッド特別顧問も、「米国は国際基準に従って肉骨粉の使用禁止を実施しており、一頭の感染牛が見つかったとしても、”食品安全上の問題はない”とした」という。だが、肉骨粉使用禁止が抜け穴だらけであることは米国内の専門家や消費者団体等がつとに指摘してきたし、このホームページでも重ねて伝えてきた。この根拠は極めて薄弱である。

 わが国は、「全頭検査」を重視するあまり、基本的安全対策をないがしろにした安易な輸入再開に踏み切ってはならない。昨日も述べたように、(1)哺乳動物由来の蛋白質で反芻動物を飼育することが禁止されてきて、かつこの禁止が有効に執行されてきたこと、(2)輸出する生鮮肉及び牛由来の製品が特定危険部位、または頭蓋骨または脊椎から得られた機械的回収肉(AMR製品を含む)を含まないか、それら由来のものでないことを立証するというEU並の条件が満たされないかぎり、輸入再開をしてはならないということだ。これを立証できる農場がどれだけあるだろうか。禁輸の長期化を覚悟すべきである。

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