炎症で特定危険部位以外臓器に異常プリオンが蓄積ーBSE対策見直しを迫る新研究

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.21

 BSE、vCJD等の海綿状脳症を引き起こすとされる異常プリオン蛋白質は、典型的には神経組織・リンパ組織に蓄積する。我々は、これが蓄積するのは脳・脊髄や一定の免疫組織などだから、仮に牛がBSEに感染していても、これら特定危険部位(SRM)と呼ばれる組織を食べなければ病気が移ることはない、牛肉は食べても安全だなどと信じ込まされている。これを胡散臭くさせる知見がまったくなかったわけではない。最近、日本でも高齢感染牛の末梢神経組織への蓄積が発見されたばかりだ。肉を含むほかの部位だって安全とはいえないのではないかという懸念はあった。この懸念をさらに高めるような新たな研究が発表された(Adriano Aguzzi et al,Chronic Lymphocytic Inflammation Specifies the Organ Tropism of Prions,Science:express,05.1.20)。 

 この研究を発表したのは、03年、vCJDで亡くなった人の筋肉に微量の異常プリオン蛋白質を検出、感染動物の肉もこれを含む可能性を示唆した病理学者・Adriano Aguzziを含むスイス・チューリッヒ大学病院、英国・神経病研究所、米国・エール大学医学校の国際研究チームである。腎臓、膵臓、肝臓の五つの炎症を持つマウスに異常プリオンを投与し、すべてのケースで、これら異常プリオン蛋白質が蓄積されるはずのない器官にそれが蓄積することを発見した。研究者は、その理由は確かではないが、免疫反応が関係していると見る。慢性的リンパ球炎症がこの蓄積を可能にしたと言う。器官に炎症があれば免疫システムが病気と闘うためのリンパ球と呼ばれる血液細胞を生産する。これらの細胞がリンフォトキシンなる物質を生産、正常な細胞を異常プリオン複製が可能な細胞に変える反応の引き金になるのではないか。リンフォトキシン受容体を欠くマウスでは炎症を起こした器官に異常プリオンは見つからなかった。

 これはマウスで確認されたことだが、牛についても同様なことが考えられる。もしそうだとすると、感染牛のこれら組織は食べられないことになる。悪いことに、これらの組織では脳よりも先に異常プリオン蛋白質の蓄積が始まった。従って、現在の脳を対象とするBSEスクリーニング検査では、このような形で異常プリオン蛋白質を既に多量に蓄積しているかもしれない牛を発見できないことになる。 

 NewScientistの記事(Inflammation lets prions invade "safe" tissue,1.20)によると、米英の検査関係機関は、この発見は既存の規制の即座の変更を正当化するものではないが、新研究は深く検証するつもりと言う。また、英国環境・食料・農村省(DEFRA)の担当者は、感染性は種間で違い得るから、この結果が牛で再現される必要があると言う。

 他方、毎日新聞によると、日本では、食品安全委員会プリオン専門調査会の委員でもある国立精神・神経センター神経研究所の金子清俊疾病研究第7部長は、「今回はマウスの実験であり、牛の特定危険部位を見直すなどの対策は今のところ必要ない。しかし、牛などの家畜で慢性炎症があると、脳で検査できる前に、臓器に病原体が広がってしまう可能性があることを示唆している。今後、きちんとした研究が必要だろう」と話したという(毎日新聞・インターネット版、「異常プリオン:慢性炎症を持つマウスの臓器に蓄積(http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20050121k0000e040004000c.html)」、05.1.21)。

 だが、これが牛でも確認されることになれば、結果は重大だ。牛での確認実験には長い時間がかかる。炎症を起こしている臓器は確実に廃棄するといった措置を早急に講じるべきではなかろうか。