アジェンダ2000のCAP改革
北林寿信作製 最終更新2000.10
1999年5月17日、EU農相理事会はアジェンダ2000の枠内でのCAP改革規則を最終的に採択した。これは3月11日の農相理事会合意、3月24−25日のベルリンでの欧州理事会のアジェンダ2000に関する結論を受けたものである。欧州委員会がアジェンダ2000の包括的パッケージを提示したのが1997年7月16日、これに基づくCAP改革の具体案が示されたのが1988年3月18日であった。一時は2000年実施には間に合わせることができないと危ぶまれた難交渉であったが、委員会の改革案を相当に後退させて漸く妥協に漕ぎ着けた。改革は2000/2001市場年度から実施される。
この改革は理念・目的においても、方向性においても、1992年の改革(いわゆるマクシャリー改革)を延長するものである。そこで、まず92年改革について概説しておく。
T.92年改革
92年改革の基本的目標は、CAPの下での高価格支持によって生み出された主要農産物の深刻な過剰と農業政策支出の増加によるEU財政の圧迫の問題を解消すること、いわばCAP市場政策がもたらした自殺的袋小路からの脱却であった。そのためには供給制御と農民の所得支持の問題に解決策を見出さねばならない。採択された中心的措置は、生産過剰とその処理のための財政費用を減らすために保証価格を大幅に引き下げ、国際競争力を強化するとともに、こうして節約された財源を直接支払いにまわし、価格低下による所得減少を補償することであった。
農業者全体・社会全体の農業政策への支持を獲得するために、付随的に、十分な数の農業者の維持、生産活動・環境保護・農村開発にかかわる農業者の多重機能の助長、農村人口を維持し・農村経済を強化する農外活動の促進による農村開発、生産過剰を減らし・環境保護に寄与し・優れた品質の食料品生産を促進するための粗放化奨励、援助の地域間・生産者間配分の適正化などの目標が掲げられた。しかし、具体的措置としては環境保護・農業人口維持のための既存措置の強化に限られた。改革内容は次の通りである。
@穀物部門(穀物・油料作物・蛋白源作物):指標価格を3年間で29%引き下げ(155ECU/tから110ECU/tへ)、これに合わせて介入価格・境界価格も引き下げ。これによる所得減を直接支払いで補償(0ECUから45ECUへ)。この補償の条件として減反を課す(輪作に組み込まれた減反15%、固定した土地の減反20%)。但し、生産量92トン未満農業小規模農家は減反免除。減反に関しては別途補償金を支払う。
A牛肉部門:介入価格を3年間で15%引き下げ(3,430ECU/tから2,920ECU/tへ)。代償措置として既存の肉用繁殖母牛奨励金、肉用雄牛肥育奨励金の引き上げ(それぞれ40ECU/頭から120ECU/頭、40ECU/頭から90ECU/頭へ)。但し、援助の条件として家畜飼養密度を4年間で3.5家畜単位から2.0家畜単位に引き下げること。さらに粗放化追加援助。
B農業人口維持・環境保護に関する既存措置(一定の農業方法を尊重する経営への援助、農地植林援助、早期離農奨励制度)の拡充。
 
U.アジェンダ2000の改革
1.財政見通し
2000−2006年の7年間の財政見通しを策定する。これは新規加盟が2002年に生じると仮定して作成される。新たな見通しは1999年固定価格に基づき、年々、インフレ率により自動的に調整される。
固有財源の上限は、現在と同様、EUのGNPの1.27%に維持する。これら財源は共同体政策が設定する目標の追求を可能にするものでなければならない。しかし、予算原則も尊重しなければならない。これは公正で、透明で、コスト効率的なシステムを通して達成できる。EU公的支出の増加率が構成国の公的支出の増加率以上とならないように注意しなければならない。CAP改革もEU支出の安定化という全体的目標の達成を助けるものとなる。
2.農業支出
2000−2006年のCAP支出は付随措置も含む既存措置に関して年平均405億euro(全体で2835億euro)とし、これに農村開発、動植物の保健措置のためにさらに140億euroが追加される。これは下表のように要約される。
将来のCAP支出
(1999年価格、100万euro)(1)
|   | 
        2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 総 計  | 
    
総 計  | 
        40920  | 
        42800  | 
        43900  | 
        43770 | 42760  | 
        41930  | 
        41660  | 
        297740  | 
    
| 市場措置(2) | 36620  | 
        38480  | 
        39570  | 
        39430 | 38410  | 
        37570  | 
        37920  | 
        267370  | 
    
| 農村開発(3) | 4300  | 
        4320  | 
        4330  | 
        4340  | 
        4350  | 
        4360  | 
        4370  | 
        30370  | 
    
(1)時価で計算するためにデフレーター2%を使用。
(2)動植物保健措置を含み、付随措置を除く。
(3)付随措置を含む。目標1プログラム外のEAGGF指導部門により資金を供給され
る農村開発はこの支出に追加されるものである。これらの額の年平均はアジェンダ
2000の委員会提案(20億euro)に等しい。すべての農村開発行動は欧州委員
会と構成国により共同ファイナンスされる。
表に示された年々の支出とは無関係に、農業に関する支出ガイドライン(史上措置費の増加率をGDP増加率の74%以内に抑える)はEUの最初の拡大前に必要となり得る調整を除き不変のまま維持される。加盟前農業手段(SAPARD)と加盟のために留保される額は下表の支出に追加され、ガイドラインが設定するシーリングの計算に含まれる。
(以上1、2はEuropean Commission,Newsletter No.10/March 1999,Berlin European
Council:Agenda 2000,conclusions of the Presidencyによる)
3.CAP改革の内容
(1)改革の目的
多機能的で、持続可能で、競争的な欧州農業を確保する。農業は田園(カントリー・サイド)と自然のオープン・スペースを保存し、農村生活の活性に貢献する基本的要素とならねばならない。また、食料の品質と安全性に関する消費者の関心、環境保護や動物福祉への要請に応えることができなければならない。この改革は来るべきWTOの枠内での多角的貿易交渉における委員会の交渉権限を定める本質的要素をなす。(この部分は前記Newsletterの記述による)。
(2)耕種作物部門
耕種作物部門には穀物・油料種子作物・蛋白源作物(COPs)が含まれる。
・介入価格は2000/2001及び2001/2002市場年度に7.5%ずつ、計15%引き下げる(現在の119.19euroから101.31euroへ)。欧州委員会提案では一挙に20%引き下げるとされていた。2002/2003年度の市場の展開を分析して、さらに引き下げが必要かどうか決める。
・廃止が提案されていた月次加算は継続。
 (北林注)この改革により普通小麦に関する輸出補助金と関税額を推計すると下の表のようになる(単位:euro/t)。
              
          1999/2000    2000/2001     20001/2002以降  
  介入価格:A          
     119.19      110.25        101.31
  世界価格(SRW,C&F
Rotterdam)(1)     95.5             
95.5                 
95.5
  
基準価格(2)               194.04           
180.19               
166.3
  
関税額(3)                               
98.5(100.7)      69.9(95)                 
70.8
   
輸出補助金(4)                           
23.7             
14.8                  
5.8 
   注(1)1999年3月現在の数字が続くと仮定した。
    (2){A+6(月次加算6ヶ月分)}x
1.55
       
(3)基準価格−世界価格。( )内はウルグアイ・ラウンド約束上限額。
    (4)市場価格=介入価格として、「介入価格−世界価格」で算出。
  世界価格が現在のレベルよりも下がらない限り、現在では約束上限に達した関税額は2000年には約束上限を大  
  幅に下回り、2001年以降は現在より30%ほど引き下げる余裕もできる。補助金付き輸出数量は約束上限に張
  り付いてきたが、現在の世界価格が底とすれば輸出補助金も不要となる。
・介入価格引き下げの約50%を補償する。面積当たり補償支払いは、現在の54.34euro/tから63euro/tに2段階に分けて(等額ずつ)増額される。
・油量種子と亜麻仁の補償支払いは3年かけて穀物と同額に減らす(欧州委員会提案では穀物・油料種子で同額とされていた)。油料種子の基準価格システムは2000年に廃止。結果的に、ブレア・ハウス合意分野の制限撤廃は2002/2003市場年度以降にスタート。
・他作物との利益均衡のために、蛋白源作物の補償支払いは基礎的支払いに上乗せして72.5euro/tに。
・強制的休耕は2006/2007年度まで続ける。休耕率は2000/2001年度から10%(委員会提案では0%)。
・自主的休耕は維持されるが、このスキームは特に環境を考慮して改善。
・92トン未満の小規模生産者の強制休耕免除は継続。これら生産者については、2000年から、COPs平均収量に基づく支払いに代え、油料種子・蛋白源作物・亜麻仁・トウモロコシの関する特別の支払いが利用できる。これら生産者は自主的休耕スキームに参加することもできる。
・休耕補償は耕種作物補償と同率(63euro/t)。
・ポテト・スターチ製造のためのポテト最低価格は2001/2002年から178.31euroに設定。生産者への支払いは110.54euro/tに引き上げ、国別割当を調整。
・サイレージ・トウモロコシは引き続き補償の対象をなし得る。サイレージ・トウモロコシが伝統的でない構成国においては、グラス・サイレージのための面積を補償対象面積に加えることができる。
 
耕種作物の価格と直接支払い
(euro/t)
|   | 
          | 
        1999 | 2000 | 2001  | 
        2002-06 |      | 
    
穀物/トウ モロコシ  | 
        介入価格 支払額  | 
        119.19 54.34  | 
        110.25 58.60  | 
        101.31 63  | 
        101.31 63  | 
    |
蛋白源作物  | 
        支払額  | 
        78.49 | 72.50 | 72.50  | 
        72.50 | |
油量種子  | 
        支払額  | 
        94.24 | 81.34 | 72.37  | 
        63 | |
亜麻仁  | 
        支払額  | 
        105.10 | 88.26 | 75.63  | 
        63 | |
デュラム小麦 (euro/ha)    | 
        追加支払 伝統地域 その他  | 
          344.5 138.9  | 
          344.5 138.9.  | 
        
 344.5 138.9  | 
          344.5 138.9  | 
    |
ポテト・スターチ    | 
        最低価格 支払額  | 
         209.78 86.94  | 
         194.05 138.9  | 
        178.31 110.54  | 
         178.31 110.54  | 
    |
サイレージ・グラス  | 
        支払額  | 
        無し | 58.6 | 63  | 
        63 | |
休耕  | 
        支払額  | 
        68.83 | 58.67 | 63  | 
        63 | 
 
(3)牛肉部門
@市場支持
3段階に等分して基準価格を20%引き下げ2224euro/tとする(委員会提案では3段階で30%引き下げ)。支持レベルが最終的に引き下げられる1992年7月1日に民間在庫のための基準価格を設定、EU平均市場価格が基準価格の103%を下回る場合に民間在庫援助が与えられる。また、構成国(または地域)における雄牛または去勢牛の平均市場価格が1560euro/tを下回る時、委員会により構成国で買入入札を組織する「セイフティ・ネット」介入制度が設けられる(委員会提案では民間在庫助成のみ)。
A奨励金
価格引き下げに伴い生産奨励金が増額される。
雄牛特別奨励金については、非去勢牛基礎支払い、去勢牛基礎支払いが等分3段階に分けてそれぞれ210euro/頭(+56%、1回払い)、300euro/頭(+38%、2回払い)に増額される。奨励金はサイレージ・トウモロコシについての耕種作物支払いの受益を考慮に入れる。奨励金受給権のある頭数の地域(国)別上限が定められる。支払い対象となる雄牛の最低年齢は、非去勢牛で9ヶ月(または屠体重量185kg以上)、去勢牛については21ヶ月。
屠殺奨励金が導入され、雄牛・去勢牛・乳牛・子付き雌牛(肉用繁殖母牛)には80euro、子牛には50euroで農家に直接支払われる。これについては、1995年の屠殺・第三国輸出頭数に等しい構成国別上限を設ける。
構成国は1農家当たり90頭とは別の1農家当たり受給頭数の上限を定めることができる。この場合、地域別上限を上回る申請のために生じる奨励頭数上限の引き下げは小規模農家には適用されない。
肉用繁殖雌牛奨励金は2002年に200euro/頭に増額(+38%)、個別上限を設けて継続。構成国の追加奨励金も50euro/頭に増額。この奨励対象頭数の20%までは未経産牛に当てることができる。雄牛奨励金受給頭数の国別上限が設けられる。
雄牛・乳牛を含む雌牛奨励金に対する各国裁量による追加払いが導入され、このための国別財政枠が設けられる。
フランスの反対により、構成国裁量枠は委員会提案を大幅に(74%)圧縮。
B粗放化
雄牛特別奨励金・肉用繁殖雌牛奨励金を受給するためには、引き続き飼養密度が飼料用地面積当たり2大家畜単位未満でなければならない。粗放化奨励金は大幅に増額される。粗放化基準は農場に存在するすべての成牛・成羊を計算に入れることで厳格化される。構成国は飼養密度1.4未満の場合、1家畜単位当たり100euroの粗放化援助の適用を選ぶこともできる。面積の計算に入れることができるのは一時的・永久的草地と耕種作物を除くすべての飼料用地に限られる。生育季の間の放牧地での放牧という現在の義務は、放牧地が飼料用地面積の50%以上を占めるという条件に変えられる。放牧地の定義は構成国によるが、最低限、地方の慣行に従い牛や羊に生草を食べさせるためと認められる草地という基準を満たさねばならない。これは年間におけるこの土地の混合利用(放牧、干し草、グラス・サイレージ)を排除するものではない。
牛乳の50%以上が山岳地域で生産される構成国においては、粗放化奨励金はこれら地域に位置する農家が保有する乳牛にも適用できる。(以上について、次ページの表参照)
 
 
牛肉部門の価格と補償支払い
(単位:euro)
| A. | 現介入 価格      | 
        現市場 価格  | 
        介入価格  | 
        基準価格  | 
        ||||
2001/02  | 
        2001/02  | 
        2002/-  | 
        ||||||
|   | 
        市場支持価格  | 
    |||||||
| 3.475/t | 2.780/t | 3.242/t | 2.594/t | 3.013/t | 2.410/t | 2.224/t  | 
    ||
| B.1.                  | 
        奨励金  | 
        現在額  | 
        2000年  | 
        2001年  | 
        2002年―  | 
    |||
雄牛  | 
        135  | 
        160  | 
        185  | 
        210  | 
    ||||
去勢牛  | 
        108.7  | 
        122x2  | 
        136x2  | 
        150 x2  | 
    ||||
繁殖雌牛国の追加  | 
        144.9 30.19  | 
        163 50  | 
        182 50  | 
        200 50  | 
    ||||
屠殺奨励 成畜 子牛  | 
          0 0  | 
          27 17  | 
          53 53  | 
          80 80  | 
    ||||
| B.2. | 国裁量枠 (100万euro)  | 
        ベルギー  | 
        13.1  | 
        26.3  | 
        39.4  | 
    |||
デンマーク  | 
        3.9  | 
        7.9  | 
        11.8  | 
    |||||
ドイツ  | 
        29.5  | 
        58.9  | 
        88.4  | 
    |||||
ギリシャ  | 
        1.3  | 
        2.5  | 
        3.8  | 
    |||||
スペイン  | 
        11  | 
        22.1  | 
        33.1  | 
    |||||
フランス  | 
        31.1  | 
        62.3  | 
        93.4  | 
    |||||
アイルランド  | 
        10.5  | 
        20.9  | 
        31.4  | 
    |||||
イタリア  | 
        21.9  | 
        43.7  | 
        65.6  | 
    |||||
ルクセンブルク  | 
        1.1  | 
        2.3  | 
        3.4  | 
    |||||
オランダ  | 
        8.4  | 
        16.9  | 
        25.3  | 
    |||||
オ-ストリア  | 
        4  | 
        8  | 
        12  | 
    |||||
ポルトガル  | 
        2.1  | 
        4.1  | 
        6.2  | 
    |||||
フィンランド  | 
        2.1  | 
        4.1  | 
        6.2  | 
    |||||
スウェーデン  | 
        3.1  | 
        6.1  | 
        9.2  | 
    |||||
イギリス  | 
        21.3  | 
        42.5  | 
        63.8  | 
    |||||
EU計  | 
        164.4  | 
        328.6  | 
        493.0  | 
    |||||
| B.3.      | 
        粗放化    | 
        飼養密度  | 
        2000年  | 
        2001年  | 
        2002年  | 
    |||
<1.4  | 
        100  | 
        100  | 
        100  | 
    |||||
>1.6<2  | 
        33  | 
        33  | 
        -  | 
    |||||
>1.6  | 
        66  | 
        66  | 
        -  | 
    |||||
>1.4<1.8  | 
        -  | 
        -  | 
        40  | 
    |||||
<1.4  | 
        -  | 
        -  | 
        80  | 
    |||||
(4)牛乳部門
農相理事会での妥協案(3月11日)は次のようなものであったが、欧州理事会(3月24−25日)は、改革は2005/2006市場年度からスタートさせると改革を先送りした。
・バター、脱脂粉乳の介入価格を2003年スタートの3段階等分で15%引き下げ(委員会提案では2000年から2003年の4段階でとされていた)。(これは最終的には2005年スタートとされた)。
・生産割当枠は拡大。大部分の構成国は2003年スタートの3段階で1.5%増。ギリシャ、スペイン、アイルランド、イタリア、イギリス(北アイルランド)については二〇〇〇年スタート2段階で特別増枠。全体で2.39%の増枠となる。割当制度は2006年まで続け、以後については2003年に再検討(委員会提案では割当制度は2006年まで延長、2000年から2003年までの4段階で割当数量2%引き上げとしていた)(これも最終的には2005年スタートとなった)。
2006年後の割当制度については2003年に再検討。
・農家所得確保のために、3年間かけて援助制度導入。この援助は3段階等分増額され2005年(最終決定では2007年)には17.24euro/tとなる。これは構成国に配分されるEU資金からの支払いで補完される。
(5)ワイン(略)
(6)共同市場組織に適用される諸措置
・環境保護のために、構成国は農業者に適用されるべき適切な環境措置と直接支払いの減額または中止にかかわる違反の場合の罰則を定める(クロス・コンプライアンス)。
・構成国は経営における雇用数、経営の全体的繁栄度、あるいは経営に支払われる援助の総額に関連して、一定限度内(20%)内で直接支払いを減額できる(モジュレーション)。
・クロス・コンプライアンスまたはモジュレーションによる援助減額から利用可能になる資金は、農村開発規則で予知される一定の措置、すなわち農業環境措置・条件不利地域・・環境上の拘束がある地域・早期離農・農地植林などの措置のための共同体追加支援として構成国が利用することができる。
(7)農村開発政策
新たな農村開発政策はヨーロッパ農村地域の将来のために整合的で持続可能なフレームワークを確立しようとするものである。それは、農村開発のための包括的で統合された戦略を背景に競争的で多機能的な農業部門を奨励することにより、市場部門に導入される漸進的改革を補完し、こうしてCAPの第二の柱となる。それは農業が農村遺産の保全を含む多数の役割を演じることを認める一方、代替的所得源の創出が農村開発政策の不可欠の部分をなすことを強調する。
主要な革新は、一連の農村開発措置を、以下の三つの方法ですべての農村地域に支援を提供する単一の・整合的なパッケージにまとめ上げることである。三つの方法とは、@より強力な農業・林業部門の創出、A農村地域の競争力の改善、B環境の維持とヨーロッパのユニークな農村遺産の保全である。
@より強力な農業・林業部門の創出
措置の狙いは、農業・林業部門の市場状況への適応―すなわち、より多く生産することなく、よりうまく生産すること―を助成することである。農企業の強化のための主要措置は次のようなものである。
・農場投資の支援:これは、品質または効率改善のために、あるいは新たな代替活動創出のために農場の建物・設備・管理システムの近代化を助ける。加えて、衛生・環境基準と動物福祉を促進するための投資の支援は維持される。
・高品質の農産物の加工と販売:これは農家の競争力を改善し、また農家における付加価値を最大化するための援助を提供するもので、市場の状況の変化への生産の調整と新しい販路の追求を奨励する。新たな焦点は製品及びプロセスの両面でのイノベーションのための投資に当てられ、ニュー・テクノロジーの利用を奨励する。
援助授与のための条件は合理化、単純化され、援助は存続可能な農家に焦点が当てられるるようにする。
これらの措置に加え、新政策の重要な側面は人的資源に焦点を当てることである。ヨーロッパ農家の世代間移転は、引き続き青年農業者の経営の確立措置と早期離農(退職)の奨励によって援助される。青年農業者は、一層簡易化された制度により、現在よりもはるかに高い援助総額を提供される(自立奨励金と利子補填を合わせると67%のアップ)。さらに、農場で計画される投資への援助比率(総投資額に対する援助の比率)が高められる。
早期引退奨励措置はヨーロッパ農家の存続可能性を改善するための構造的対策として維持される。この措置を適用によって経営を継承する農家は、これまでは農業主業とする農家に限られていたが、多機能的農業の概念に従い、パート・タイム農家にも拡張される一方、継承農家の農場拡大というこれまでの要件は取り除かれる。移譲者に対する年次支払いは、これまでの10年から15年に延長される。
職業訓練においては、新たに品質向上と環境的に有益な生産に結びついた訓練に重点が置かれる。この措置は農業活動とその再編成に関わるすべての者に開放される。
条件不利地域のための支払いについては、自然のハンデキャップの補償という基本的性格は変わらないものの、景観の維持において条件不利地域の多くの農民が演じる役割が、明示的に認められる。
最後に、林業が農村開発の基本的要素として初めて公式に認められる。これに関する新たな措置はエコロジカルな機能を支援しようとするものである。
基本的目標は農村コミュニティの生活の質を支援し、多機能的農家の援助も含めた新たな活動への多角化を促進することである。この措置は、土地改良、圃場整備のような直接的対策、ニッチな製品の販売や農村インフラストラクチャー・水資源管理の改善などを含む間接的対策を支援することで、農業(及び林業)部門の存続可能性を強化し、改善することを助ける。加えて、農民と農民家族の代替的所得・雇用源を供給し、より広範な農村コミュニティのために生活の質を改善するための新たな農場内外での活動を創出ことを通じ、農村の経済と社会を再生するための他の諸措置も提供する。
B環境の維持とヨーロッパ独自の農村遺産の保全
新政策全体を貫く糸は、環境的に持続可能な農業・林業部門ということである。その中核部分をなすのが、1992年CAP改革で導入された農業−環境措置の強化である。それは新世代農村開発計画の唯一の義務的要素をなす。
農業−環境措置は通常の農業方法の適用を超えた方法で土地を経営する農民を奨励しようとするものである。援助される活動には、例えば肥料や農薬のような化学的投入を減らす粗放的農業方法のための活動、景観や自然的価値の高い地域の維持のための活動が含まれる。
新たな措置により、農地の歴史的な特徴の保護や維持、環境目的の非生産的投資支出の支援も可能になる。最低5年間の契約に合意する農民は、環境計画応諾から生じる費用または損失に対応する援助を受けられる。環境計画は農業政策の「グリーニング」の中核をなすが、これはその他の措置に付随する環境規定により一層強化される。例えば、条件不利地域における補償手当は頭数基準よりも面積基準で与えられる。加えて、この手当は環境上のルールや制限の結果として生じる費用や損失を考慮して支払われる。さらに、環境上重要な地域が多い条件不利地域の指定は、国土面積の10%(現在は4%)にまで拡大された。
新たな農村開発政策を導く原則は責任の分散(分権化)と柔軟性である。適切な地理的レベルを対象とする農村開発プログラムを提案するのは構成国である。構成国はその必要性と優先度に応じて規則に述べられた農村開発のメニューから選ぶことができる。規則それ自体はEU立法の簡素化に向けての大きなステップをなすものである。すなわち、以前の九つの規則は一つの規則に置き代えられる。
EUの最低開発地域、すなわち目標1地域以外の農村開発措置はEAGGF保証部門からのみ資金を供給される。これは農村開発がCAPの第二の柱になった事実を浮き彫りにする(農村開発のための援助単価については次頁の表を参照)。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
農村開発援助
措置  | 
        支払い(euro) | 備考  | 
    
青年農業者自立  | 
        25,000 |   | 
    
早期引退計画 
      | 
        15,000 15,000 3,500 35,000  | 
        譲渡人一人・年当たり 譲渡人一人当たり総額 労働者一人・年当たり・ 労働者一人当たり総額  | 
    
| 条件不利地域補償手当 最低 最高  | 
          25 200  | 
          利用農地面積1ha当たり 同上  | 
    
農業環境約束支援 一年生作物 特定永年作物 その他土地利用  | 
        
 600 900 450  | 
          1ha当たり 同上 同上  | 
    
植林による損失補填      | 
          725 185  | 
          1ha当たり 同上  | 
    
森林の環境的役割に関 連する支払い 最低補償 最高補償  | 
          
 40 125  | 
            1ha当たり 1ha当たり  |