農業情報研究所環境農薬・化学物質・有害物質ニュース:2014年10月3日

ネオニコチ系農薬 赤トンボが絶滅の恐れ 米価下落で絶滅危機の水田を守るためにも全面禁止を

 先日の「季節の便り」で、我が家の庭に飛んできた赤トンボを紹介したばかりだが、日本の原風景のひとつともいえるアキアカネ(赤トンボ)が舞う秋の風景は、そう遠くない将来に消えてなくなるかもしれない。

 石川県立大の上田哲行教授(動物生態学)が同県内で行った調査によると、水田一枚でヤゴから羽化したアキアカネは、1989年には平均30匹だったが、07-10年には、実に1匹未満に減ってしまった。

 上田教授はこれを農薬の影響とみる。宮城大の神宮字寛教授との共同研究で、ネオニコ系の成分を含む農薬を使った水田は、不使用の水田と比べ、ヤゴの羽化率が3割と低かった、またフィプロニルを含む農薬を使った水田ではヤゴは全く羽化しなかったという。

 教授はがこの羽化率と都道府県別の農薬流通量をもとに試算したところ、半数以上の府県は2009年の時点で、アキアカネの生息数は1990年の0.1%に減少という結果が出た。石川県の一部地域で確認した数の推移とほぼ一致した。

 こうした研究やEUにおけるネオニコ系殺虫剤禁止の動きを受け、環境省が今月、稲作に使われる農薬のトンボの生態に与える影響の実態調査に乗り出した。国立環境研究所が請け負うこの調査では、全国7ヵ所の池や湖沼の水や堆積物の残留農薬、トンボの農薬に対する耐性を調べる。対象農薬は、「フィプロニル」と「イミダクロプリト」などネオニコチ系7種の成分を含む農薬で、全国の田んぼで広く使われている。

 環境省は、影響が確認できれば農水省や農薬メーカーなどと対策を協議することになるという。

 赤トンボ急減 絶滅の恐れ? 研究所試算「20年で生息数0.1%」地域も 環境省 初の農薬関連調査(こちら特報部) 東京新聞 14.9.30 朝刊 28

 遅きに失するとはいえ、歓迎すべき動きではある。協議の結果がこれら農薬の禁止につながることを期待したい。

 EU、特にフランスやイギリスでは、ネオニコチ系農薬の禁止は農業の生産性の低下につながり、農家もやって行けなくなるという、農薬メーカーはもとより、農業者からの強い反対がある。水田農業のネオニコチ系農薬への高い依存度を考えると、日本でも同様な反応が予想される。

 しかし、絶滅が危惧されるのは、アキアカネだけでなく、日本の水田農業自体でもある。国民の米消費減少を究極の原因とする米価の下落によって、米農家はもうやって行けないところまできている。水田農業を救うためには、「常識を超えた発想とアイデア」が必要だ(もう限界、コメの需給調整(加藤百合子 M2ラボ代表) 日本経済新聞 14.9.29)。

  そうした発想とアイデアのひとつに、環境重視の農業への転換による「生産性→生産量」の下方調整を加えることができないだろうか。農薬を使用するかどうかを個々の農家の選択に委ねることでは有効な生産調整に結びつかない。生産性の維持・向上のために最も有効で(1)、かつ環境破壊効果も最強の農薬を「全面禁止」にすることだ。

 米は少々高くなるかもしれない。 しかし、赤トンボの絶滅を防ぎ、同じく日本の原風景をなす水田を保全し、人々が食品や農林地からの飛散で日々曝されている農薬の脅威から逃れられるとすれば、多くの国民はそれを支持するだろう。

  (1)ネオニコチ系農薬の使用と米収量の関連性は必ずしも定かでないが、日本でこの農薬が使われ始めたのは1990年代半ば、2000年代に入り急増した。水稲平年収量は1995年まで10アール当たり480-580キロであったが、以後500キロを超え、2005年以降530キロほどに安定している。仮に10%の増収効果があるとすれば、その使用をやめることは10%の減反(作付面積の意図的削減)効果を持つことになる。