温暖化は高地ほど急速、氷河の融解で熱帯高山岳地域住民への水供給が危機に

農業情報研究所(WAPIC)

06.6.27

 気候変動は低地地域よりも標高が高い地域の気温を一層急速に上昇させ、山地の氷河の急速な融解を引き起こし、氷河から供給される水を減少させる。農業、飲み水、水力発電などのための水の大部分を氷河が涵養する水に頼る高地地コミュニティーに甚大な影響が及ぶという新たな研究が発表された。この研究は熱帯アンデスにかかわるものだが、他の熱帯地域でも状況は似たようなものだろうという。研究者は、このような変化に備え、適応する実際的措置が取られねばならず、また地形的に複雑なこれら地域における将来の気候変動の一層詳細なシナリオが緊急に必要だと訴える。将来の気候変動とその影響の理解と予測の改善に役立つと言う。

 Raymond S. Bradley et al,Threats to Water Supplies in the Tropical Andes,Science 23 June 2006:Vol. 312. no. 5781, pp. 1755 – 1756.Summary » Full Text »  PDF » 

 研究を要約すると次のとおりである。

  二酸化炭素濃度が前工業時代に2倍になる世界における将来の気候変動の一般的モデルによると、低対流圏における温暖化の速度は高度と共に増す。従って、気温は低地よりも高い山地で一層上昇するだろう。しかし、4000mを超える高地での気温観測記録はほとんどない。しかし、熱帯アンデス沿い北緯1度から南緯23度までの間の268の山地測候所の記録を分析すると、1939年から1998年の間の10年当たりの気温上昇が0.11℃(世界平均では0.06℃)であった。さらなる洞察は、気温上昇に強く影響される最も高い山岳地域の氷河と氷冠からも得られる。これら高地の氷の量は急速に減っており、すべてのアンデス諸国で氷河が後退しつつある。

 これらの変化をもたらす要因は様々で、変化の過程は複雑だが、大部分の変化は最近数十年の気温の変化に関連している。さらなる温暖化は氷河に強い影響を与え、多くの氷河は数十年(few decades)の間に完全に消滅するだろう。これは地域に住む人々に重大な結果をもたらす。

 氷河の融解は、最初は流量を増すが、乾季の間の氷河の緩衝がなくなるために、流れの急変を引き起こす。これは、飲料水、農業用水、発電用水の利用可能性に影響を与えることになろう。アンデス高地では、人間消費用、農業用、生態系維持のための水のほとんどは氷河が涵養する水に頼っているから、このような変化のコミュニティへの影響は重大だ。

 この研究は熱帯アンデスの山地で起きている変化に焦点を当てたものだが、同様な状況は他の熱帯の高山岳地域にも広がっている。例えば東アフリカやニューギニア。これら地域の氷河が涵養する水への依存度はより少ないとはいえ、氷河は急速に消えつつある。熱帯アンデスでは、気候変動、氷河、水資源、人口密度、すべての危機的要素が重なっているのが熱帯アンデスだ。いくつかの氷河は完全消滅に向かう限界点に達しており、さらに多くの氷河が10年から20年の間に同様な限界点に達する。従って、諸国政府は、これら地域の人々と経済の大規模な崩壊を回避するための計画を遅滞なく作り上げねばならない。

 これらの変化に備え、また適応するための実際的措置には、都市地域における水供給の保全(または価格統制)、水消費がより少ない農業へのシフト、季節的流量サイクルを安定させる高地貯水池の設置、水力以外の発電へのシフトが含まれる。

 同時に、地形的に複雑なこれら地域における将来の気候変動の一層詳細なシナリオが緊急に必要だ。これを熱帯氷河の量のバランスモデルと重ね合わせることで、将来の気候変動とその熱帯アンデスの氷河とそれに関連した流量への影響の理解と予測が改善される。コロンビア・アンデスについての最近の地域(10kmの格子サイズ)気候シミュレーションは、比較的低地でさえ、気温上昇と降水パターンの変化が、多くの住民への水と電力の供給を崩壊させる可能性があることを示している。