農業情報研究所環境原子力東電福島第一原発事故関係2011年9月19日

米の出荷自粛全面解除で放射性物質”暫定”規制値が永続化の恐れ 日本に巨大な損失

 2011年産米の放射性物質(放射性セシウム)検査が急ピッチで進んでいる。一番心配される福島県の本検査は始まったばかりだが、大方の結果は見えてきた。検査結果には腑に落ちないところもあるが(1)基本的には検体が少なすぎることに起因すると思われる)、それでも先週末(9月17日)までの検査結果(玄米から放射性セシウムが検出された例の一覧)を見るかぎり、土壌から水への放射性セシウムの溶出率や県の試験研究(2)などから推測されたとおり、玄米の放射性セシウム濃度が1キロ当たり500べクレルという暫定規制値を超えることはありそうにない。 出荷自粛全面解除となるだろう。

 (1) 那須塩原市、那須町のコメ 放射性物質不検出 検査方法に改めて疑問,11.9.8;栃木県の稲もみ殻放射性セシウム検査 60〜100ベクレル検出 白米からの検出例ゼロの怪,11.9.15
   (2)
 進むコメのセシウム検査 規制値超えの可能性はゼロに近いが 消費者は?稲わらは?,11.9.2;福島の粘土質土壌から玄米への放射性物質移行率は微小 ヒマワリの除染効果も微小 福島の試験研究,11.9.10

 農家も、政府も一安心、取りあえずめでたし、めでたしというところだろう。しかし、長い目でみると喜んでばかりもいられない。何よりも、緊急事態に際して国民が短期間受忍せねばならないとされる食品の”暫定”規制値が、この検査結果を受けた11年産米出荷自粛の全面解除により、少なくとも1年は延長適用されることになるからだ。既に、暫定規制値以下なら”安全”という雰囲気さえ醸成されつつある。新聞やテレビも、いつの間にか”暫定 規制値”を”安全基準値”にすり替えているように思われる。そうであれば、”暫定”は1年どころか、半永久化する恐れもある。

 農水省は9月14日、土壌の放射性セシウム濃度が1キロあたり5000ベクレルを上回る農地は、何らかの方法を使って5000ベクレル未満に下げるという農地除染目標を示した(農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)について)。この5000べクレルという数字はそもそも、それ未満なら米の放射性セシウム濃度が暫定規制値(500ベクレル)未満に収まるというところから出てきたものだ。除染目標を5000べクレル未満に下げるとしたことは、現在5000ベクレル未満の農地では除染は必要ない(今以上に下げる必要はない)ということであり、ということは米の暫定規制値も据え置くということにほかならない。このような農地除染目標の設定は、暫定規制値を永続化するという意思の暗黙の表れである。農家は”風評”被害に怯えつつ、汚れたままの農地で作物を作りつづけねばならない。

 しかし、そんなことで、国民の肉体的・精神的・経済的健康を長期にわたって保証できるのか。ちなみに、チェルノブイリ原発事故を受けてウクライナ政府が、標準的な量を日常的に食べ続けても食品からの内部被ばく量が1ミリシーベルトを超えないように設けた放射性セシウム137濃度規制値は、パン・パン製品20ベクレル、野菜40ベクレル、果物70ベクレル、肉・肉製品200べクレル、魚・魚製品150ベクレル、乳・乳製品100ベクレル、幼児食品40ベクレルなどだ(3)。日本の セシウム(137だけではない)暫定規制値は 飲料水・牛乳・乳製品が200ベクレル、野菜類・穀類・肉・卵・魚・その他は一律に500ベクレルだ(4)。食生活が違うから一概には言えないが、これが永久的規制値として定着すれば、日本の食品安全性など、日本の消費者も含め、世界中、誰も信じなくなるだろう。消費者が国産品を避けるようになれば (その兆候は、既に4月以来の農産物輸入の増大に現れている)、食料自給率=食料安全保障も危うくなる。日本の食べものは危ないと、外国人は寄りつかない。長期的にみた国益の損失は計り知れない。

  (3)オレグ・ナスビット;今中哲二 「ウクライナでの事故への法的取り組み」 (http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/saigai/Nas95-J.html
  (4)水・食品からの内部被ばくの上限を1ミリシーベルトではなく5ミリシ−ベルトとし、これを水と牛乳・乳製品以下の5飲食品グーループに1ミリシーベルトずつ均等に割り振ったのがこの暫定規制値である。その結果、例えば水の暫定規制値は、
90ベクレルの原発廃水基準より高いという恐ろしいことになった。

 規制値はできる限り早く正常なレベルに落ちつかせねばならない。それに適う食品の生産のために、できるかぎりの農地除染に取り組む必要がある。