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欧州議会、飼料添加物としての成長促進抗生物質禁止案を採択

農業情報研究所(WAPIC)

02.11.25

 11月21日、欧州議会は成長促進剤として家畜飼料に添加されている抗生物質の使用を禁止する欧州委員会の提案(EU:飼料添加物安全ルールと成長促進剤としての抗生剤の禁止を提案,02.3.26)を支持する決定を行なった。ただし、このような抗生物質の段階的廃止の期限を欧州委員会提案の2006年から1年早め、2005年とするように要請している。飼料中の成長促進剤としての抗生物質の使用禁止は、病原菌が抗菌剤に抵抗性をもつようになることを防ぐための重要な手段であり、EUの食品安全戦略の要(かなめ)のひとつをなす。立法手続の次の段階は閣僚理事会(各国担当相で構成されるEUの政策決定機関)による採択であり、12月16ー19日の農相理事会での採択が予想される。

 EUは、既に人間の医療用に使われる抗生物質の飼料添加物としての使用を禁止しているが、新規則は人間のために使用されていないがEU市場での販売がなお許されているモネンシン・ナトリウム、サリノマイシン・ナトリウム、アヴィラマイシン、フラボフォスフォリポールの四つの薬品(いすれも、日本で飼料添加物として指定されている32種の抗生物質のなかに含まれる)の使用を禁止することで、成長促進のための抗生物質使用禁止を完全なものにする。EUの科学運営委員会(SSC)は、成長促進剤としてのすべての抗生物質の使用の段階的廃止を勧告していた。

 欧州動物保健連盟(FEDESA)の研究によると、1999年、EUで管理されるすべての抗生物質の35%(4,700トン)が家畜のために使用されており、29%(3,900トン)は家畜の病気治療のために使われたが、6%(786トン)は成長促進剤として飼料に添加されていた。この成長促進剤としての抗生物質使用は、1997年からこの時までに50%減少していたという。

 新規則は、成長促進抗生剤だけでなく、すべてのタイプの飼料添加物を対象とする新たな承認手続と最大限残留許容量(MRLs)の設定、表示について定めている。今後は、承認手続を経た添加物だけが販売・使用・加工を許される。承認は家畜種ごとに行なわれ、それぞれについて最大限投与量が定められる。新たな添加物の承認は10年を期限とする。既存の規則の下で承認された添加物を販売する企業は、7年以内に再評価と再承認を申請しなければならない。企業は、添加物の効能と人間・家畜・環境へのリスクがないことを立証しなければならない。必要な場合には、MRLsが定められる。鶏のコクシジウム感染症治療薬については、それが抗生物質起原のものであれば、4年以内に再評価文書が提出されねばならず、MRLsが定められる。飼料添加物は明確に表示されねばならない。

 企業からの申請は欧州食品安全庁(EFSA)が評価し、MRLsを定める。ここで問題がクリアされれば、欧州委員会が承認とMRLsを定める規則案を提案する。すべての承認は、起原切れ1年以上前のEFSAへの申請により、10年間更新される。既存の規則で承認された添加物を販売する企業は、EFSAに通知する必要がある。EFSAは現在の承認に関する情報を検証、欧州委員会に知らせる。それにもかかわらず、企業は、規則発効後7年以内または既存の承認の期限切れ1年前までに再評価と再承認を申請しなければならない。

 抗生剤・抗菌剤に抵抗性をもつ病原菌の出現と増加は人間の将来を脅かす重大な要素となりつつあり、世界各国で、その重要な要因の一つである家畜飼料へのこれら薬剤の配合の見直しの動きが現れている。このような動きのなかで、EUは最先端を行くものである。わが国農水省も、漸く見直しに着手するようである。10月15日に農業資材審議会飼料分科会安全性部会が開かれ、「抗菌性飼料添加物全てについて指定を取り消すことについては健全な畜産物の提供等の上からも問題がある」という意見があり、「@当面の対策として、医療において問題となる薬剤耐性菌を選択する可能性のある抗菌性飼料添加物について指定を取り消す方向とすることで了承され、専門的事項については委員会で検討することとされた。A引き続き薬剤耐性菌のモニタリングを実施するとともに、食品安全委員会(仮称)における飼料添加物のリスク評価の実施や、科学的知見、国際的な動向等踏まえ、今後、飼料添加物のあり方について検討を開始することが適当とされた」という(農水省プレスリリース:第5回農業資材審議会飼料分科会安全性部会の概要について,10.17)。政府の対応に限れば、米国に比べて特に遅れているわけではない。しかし、米国でも、科学者の意見や消費者の不安の高まりに応え、健康な動物への抗生剤使用を2年以内に停止せよという法案を提出する議員も現れている(米国:動物抗生剤を規制せよ(02.4)。日本では、この問題に対する社会全体の関心があまりに薄いようである。

 上記記事のソース
 欧州議会:Quicker phase-out of antibiotics in animal feed demanded11.21
 欧州委員会:Byrne welcomes Parliament vote on safer rules for feed additives - prohibition of antibiotics as growth promoters confirmed11.21

 関連情報:抗生物質