アトキンス・ダイエット、長期的には推奨できない―新研究

農業情報研究所

04.9.3

 油の乗った肉、バター、高脂肪の乳製品などいくら食べてもよい、ただ炭水化物の摂取を一日30グラム以下に抑えれば痩せられる、肥満病が蔓延するなか、こんなダイエットが大流行している。言わずと知れた「アトキンス・ダイエット」だ。日本でどれほど流行しているかは知らない。しかし、この40年、世界中で売られたアトキンス・ダイエットの本は4,500万部にのぼり、このダイエットと、付随するアトキンス食品が大人気を博している。

 しかし、このダイエットは最初の数ヵ月は有効であるかもしれないが、長期的には体重を減らすのに役立たないばかりか、危険でさえあり得るという新たな研究が英国医学雑誌・ランセット誌に発表された(Arne Astrup,Thomas Meinert Larsen,Angela Harper,Atkins and other low-carbohydrate diets: hoax or an effective tool for weight loss?,Lancet 2004; 364: 897-99)。

 肥満男女のダイエットの諸研究は、低カロリー・低脂肪の通常のダイエットよりも、最初の6ヵ月ほどは速く体重を減らすが、12ヵ月もすると差がなくなる。これらの研究をレビューした研究者は、このダイエットは短期的には体重を減らし、血圧・血糖値・コレステロールのレベルも減らす効果があり、一概には否定できないと言い、その理由はよく分からないが、他の多くのダイエット同様、食品の選択が制限され、蛋白質が満腹感をもたらすからだろうと推測する。しかし、このダイエットの影響に関する科学的に堅固な証拠はほとんどなく、新たな研究が隠れた危険性を明らかにする可能性があると強調している。

 長期的影響に関する研究は少ないが、数少ない研究は1年後からは体重がもとに戻り、副作用が出ることが多いようだ。頭痛、筋肉の痙攣、下痢あなどが始まる。これは、炭水化物の不足がもたらす症候に一致する。これらは、単純に、組織に血糖を供給するのに十分な炭水化物が不足していることから起きる。成人の一日当たり炭水化物最低必要量は150グラムだが、このダイエットをする人はその5分の1しか摂取していないことになる。

 全粒穀物パンやシリアル、果物、野菜の摂取の制限は健康なダイエットとは言えず、心臓病や癌の危険も増やす。研究者は、長期的影響の研究を欠くこのダイエットは推奨できないと結論する。

 前に、米国ではBSEにもかかわらず牛肉消費が一向に減らないどころか、牛泥棒まで生み出している、これには健康志向がもたらすアトキンス・ダイエットも関係していると述べた(健康志向が米国を狂わせる―アトキンス・ダイエットで牛泥棒横行,04.4.14)。体重増が遅れるからと牛に牧草も食わせず、成長促進剤としての抗生剤を混ぜた濃厚飼料を与えて安価で大量の牛肉を供給する工業的システムも見直されるどころではない。アトキンスがもたらす副作用は、こんな身勝手な人間への牛からの報復の一つかもしれない。