欧州委、ホルモン牛肉禁輸への米加制裁解除を求め、WTO提訴

農業情報研究所(WAPIC)

04.11.9

 欧州委員会は8日、EUのホルモン牛肉(*)輸入禁止措置に対抗して制裁を続ける米国とカナダを相手取り、公式協議を要請することでWTO紛争処理手続きを開始したと発表した(EU-US: EU requests WTO to confirm that there is no justification for US/Canada to continue to apply sanctions)。60日間の協議期間中に解決しなければ、紛争処理パネルによる拘束力ある裁定を求めることになる。

 98年2月13日、WTO紛争処理機関(DSB)は、ホルモン牛肉の輸入を禁止するEU規則が適切な科学的リスク評価に基づくものではなく、それを支持する科学的証拠は不十分だとして、米国とカナダが制裁措置を取ることを認めるパネル及び上訴機関の報告を採択した。これに基づき、米国とカナダは、99年7月以来、それぞれ1億1,680万米ドル、1,130万カナダドルに相当するEU諸国製品に100%の制裁関税を課してきた。制裁対象となったフランスのミネラルウォーター(ペリエとエビアン)、ロックフォール・チーズ、フォアグラなど、ヨーロッパの有力輸出食品は、事実上、輸出不能の状態が続いている。

 EUは、99年から02年までに行われた十全な科学的リスク評価に基づき、03年9月22日の新たなEUホルモン指令を採択、この新指令は10月14日に発効した。加盟国が新指令の実施体制をと整えるために与えられた1年間の期限が過ぎ、公式協議の要請となった。EUは、この指令により、DSBが指摘する従前の法的欠陥は完全に排除されたと主張している。

 リスク評価は公衆保健に関する獣医学措置独立科学委員会が実施したもので、この評価は、とりわけ牛肉中の残留ホルモンの人間の健康へのあり得るリスクを評価した。評価の結果は、成長促進のために米加で広く使われているホルモンの禁止を正当化するものであった。これに従い、新指令は、エストラジオール−17βの永久禁止を維持、その他の5種のホルモン(テストステローン、プロゲステローン、ゼラノール、トレンボローン・アセテート、メレンゲストロール・アセテート)については一層完全な科学的情報が得られるまでの暫定禁止を定める。

 03年10月27日、EUは98年のWTO裁定の実施が完了、従って米国とカナダの制裁はもはや正当化されないと通知した。しかし、米国とカナダは承服しなかった。EUは、WTO協定は米国とカナダが単純に制裁を続けることを許しておらず、制裁継続はWTOが禁止する一方的決定に相当すると言う。

 しかし、フィナンシャル・タイムズ紙によると、米国は制裁を見直すつもりはないようだ。リチャード・ミルズ米国通商代表部報道官は、EUの禁止が続き、なおいかなる科学的根拠にも支持されていないのだから、WTO裁定を遵守しているとは思えないと語ったという(Brussels reignites trade battle over beef,FT.com-world,11.8)。再選に意を強くした二期目ブッシュ政府の下では、米国のこういう姿勢は強まるばかりだろう。ジョゼ・ボベの故郷が産するロックフォールも、当分受難が続きそうだ。食肉生産装置とされた牛たちの受難は永遠に続くのだろうか。

 *蛋白質合成を促がすとされるホルモン剤を注入された牛の肉を言う。これを注入された牛の体重増加は早く、飼料効率が上がるという。米国ではその注入は一般化している。許可されているホルモン剤は6種類で、最も多く使用されるのはエストラジオールとゼラノールだという。

 肥育に入るとき、外耳の皮下に微小なペレット型のホルモン剤が植え込まれ、徐々に体内に吸収される。米国は出荷時の食肉への残留はほとんどなく、通常の食品(牛乳やキャベツなど)にも類似物質は含まれており、安全と主張している。安全論議はともかく、家畜をただただ食肉生産装置とみなし、食品安全・環境・生産者・労働者・周辺コミュニティーの悲惨には目もくれない効率一辺倒の巨大企業が支配する米国(カナダも一体)食肉産業を象徴する慣行である。

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