牛肉・豚肉を食べることで癌の脅威?米国の新研究

農業情報研究所(WAPIC)

03.10.2

 レッドミート(牛・豚・羊など大型家畜の肉)を食べることと癌や心臓病との関連を示す研究は従来もあった。これらの研究は、飽和脂肪酸や調理の過程で生じる化学物質がリスクを高める可能性を示したいた。ところが、サンディエゴ・カリフォルニア大学のアジト・ヴァーキ等の研究チームが、この関連を疑わせる全然別の観点からの研究結果を、全米科学アカデミーの「Proceedings」誌に発表した(*)。レッドミートが持つ特別な分子ーシアル酸またはグリコリルノイラミン酸=Neu5Gcーが体組織に入り、有害な免疫反応の引き金となることで、心臓病や癌を引き起こす恐れがあるという。

 人間は、その共通の祖先である大型類人猿からあとに起きた変異のために、一般的にはシアル酸を生産する能力を持たない。それが植物や微生物に発見された例はなく、鶏肉や魚にも稀で、乳製品には共通に存在、レッドミートには多量に存在する。他方、人間はNeu5Gcに対する強い抗体を生産する。

 研究はこの物質に焦点を絞り、研究チームの3人が実験台となる実験を行なった。豚肉から精製されたNeu5Gcの溶液を飲み、大部分は対外に排出されたが、小量は血管などの体組織に吸収されることが確認されたという。二日後にはそのレベルは2倍から3倍になり、4日から8日のちには元のレベルに戻った。この実験により、これは自然には体内に存在しないのだから、免疫システムにより侵入者と見なされることも示唆された。アジト・ヴァーキによれば、Neu5Gcは直接には毒でないことはほぼ確かだし、肉食の長い歴史のなかで人間が耐性を獲得した可能性もある。そのダメージがあるとしても、長い時間をかけて現われることになろう。それにもかかわらず、人間の寿命は延びているから、Neu5Gcの蓄積と抗体の出現が、人生後期の何らかの病気に関係することがあるかもしれないという。また、Neu5Gcは、豚などの動物から人間への臓器移植の最大の障害になるかもしれないともいう。

 たった3人の実験で確定的結論ができるわけではないだろうし、養牛・養豚農家には差し障りがあるかもしれないが、ともあれ、果実、野菜、繊維に富んだ低脂肪・低レッドミートのバランスの取れた食事、あるいは米と魚と野菜を主体する和食が病気のリスクを減らすであろうことは確認できよう。

 *Pam Tangvoranuntakul, Pascal Gagneux, Sandra Diaz, Muriel Bardor, Nissi Varki, Ajit Varki, and Elaine Muchmore,Human uptake and incorporation of an immunogenic nonhuman dietary sialic acid,PNAS published October 1, 2003, 10.1073/pnas.2131556100

農業情報研究所(WAPIC)

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