農業情報研究所

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フィリピン:新ラウンド失敗は「大事」ではない

農業情報研究所(WAPIC)

03.4.11

 フィリピンはWTO農業交渉で工業製品同様の自由化を農業についても求めるケアンズ・グループの一因であるが、一層の自由化には極めて消極的になっているようである。

 昨年は、ツナ缶輸入規制をめぐるEUとの争いでの支援がないとして、グループ脱退さえ示唆していたし(フィリピン:ケアンズ・グループからの離脱の構え,02.2.11)、グループの盟主・オーストラリアに対しては、その果実等の検疫制度が非関税障壁に当たると激しく攻撃している(フィリピン:農業チーフ、オーストラリア貿易政策を酷評,03.2)。こうしたグループ内での軋轢は、直接には貿易自由化に対する消極化につながるわけではない。しかし、こうして醸成されるグループ離れの気運は、必ずしもグループの基本的主張に拘らない態度にるながるであろう。現実にも、フィリピン農民は中国や台湾からの安価な密輸・輸入農産物の洪水のような流入ろ激しく闘っる(フィリピン:農民と畜産農家、ルソンで食料封鎖を開始,03.2フィリピン:ベンゲット州農民、輸入品に対する戦いで結束,02.11)。一層の自由化どころの雰囲気ではない。

 先頃は、内閣関税及び関連問題委員会が、アセアン−中国の自由貿易協定がスタートする前に一定の商品に特恵関税を許す「アーリィ・ハーベスト」計画への参加の拒否を採択した。中国への輸出の増加による利益も、中国からの農産物、特に野菜の流入の増加によって相殺されてしまうと判断されたためという(フィリピン、アセアン−中国自由貿易協定の「アーリィ・ハーベスト」に参加せず,03.3)。さらに、ASEANの地域統合の深化そのものにも疑念を呈している(フィリピン、ASEANに市場開放のペースの減速を求める,03.3)。

 こうした消極的態度は、現在のWTOの多角的貿易交渉にも及んでいる。4月9日付のフィリピンBussinessWorld”(Phillipines Says No New WTO Round Not A Cause Of Greatによれば、貿易産業相・ロハスが、8日、フィリピンは新ラウンドがなくなっても「アンハッピー」ではないと語ったという。ロハスは、フィリピンの立場を、先週のラオスでのASEAN経済閣僚会議で表明したと言う。同紙によれば、フィリピンの代表が加わる様々な国際NGOが既に新ラウンドへの反対を表明しているが、先月には、フィリピンでも、有力NGOが「ストップ・ザ・ニュー・ラウンド!」と称する連合を結成し、セイフティー・ネットなしのさらなる自由化は国内産業を危機に陥れるだけだと警告したという。さらに、WTO新ラウンドに関するフィリピンの立場は、自由化を遅らせようとするアロヨ大統領の政策変更にも対応するという。

 一般に、新ラウンドに対する途上国の立場は一枚岩ではなく、ケアンズ・グループの大半を構成する途上国の立場は、一層の自由化に強硬に反対するインドなどの立場とはかけ離れていると言われる。しかし、現実には、グループ内の途上国も決して一枚岩ではなさそうである。