マンデルソンEU新通商担当委員(候補)、自由化は目的ではなく手段

農業情報研究所(WAPIC)

04.10.6

 長期にわたり通商交渉を主導してきたフランス出身のパスカル・ラミーEU通商担当委員の任期が今月末で切れる。11月からは、英国出身のピーター・マンデルソン氏がこの任に就く予定である。10月4日、彼を委員として承認するか、否認するかの権限をもつ欧州」議会がヒアリングを行った。フランスとは対照的、徹底した自由主義路線で知られる英国からの新委員が今後のEUの通商交渉にどんな変化をもたらすかと注目されたが、どうやらラミー氏の路線と大きく異なることはなさそうだ。

 WTOについて言えば、カンクン閣僚会合の失敗ののち、ラミー委員は、WTOの前進を阻む全会一致の決定方式に苛立ちを顕わにし、WTO改革を唱えた。7月末のドーハ・ラウンド交渉枠組み案は、ブラジル、インドを巻き込んで、事実上、5ヵ国・地域で決めてしまう挙に出た。しかし、多角的交渉・組織の維持と発展、とりわけ途上国重視の姿勢は一貫して変わることがなかった。決定過程効率化の主張も、何よりも、それを実現するためのものであったということができる。マンデルソン氏の姿勢も、基本的には変わらないようだ。WTOは恐ろしく非効率とは思わないが、十分に効率的とも言えないと言う。多角的交渉の推進でWTOが演じる役割の重要性を認めた上で、ドーハラウンドは06年には完成すると楽観論を表明した。しかし、そのためには、すべてに公平な「貿易ルール・ブック」が必要だと言い、農産物輸出補助金の撤廃というEUの5月の提案に米国が同調するように要請、もしそうしなければ、「途上国の利益は大きく損なわれる」と述べた。

 ラミー委員と、やはり今月で任期が切れる農業担当のフランツ・フィシュラー委員は、南米共同市場・メルコスールと自由貿易協定(FTA)を任期中に締結、世界最大規模の自由貿易圏を設立しようと勢力的に動いてきた。先月29日には、工業品の65%は協定発効と同時に輸入関税を撤廃(最長の10年で撤廃は9%)、実質的にすべての農産物の関税の撤廃か削減(ごく少数のセンシティブな品目では割当の拡大)、すべての商業的サービス部門の開放、飲食品・繊維衣料品・航空機部門を除く政府調達市場の開放などの最終オファーを提案した。だが、メルコスル側の最終提案は、EUによれば従来の交渉での約束を反故にするほど後退したもので(関税撤廃工業製品品目は87%から77%へ、政府調達市場の開放もEUの要求にほど遠い)、今月中の妥結はほぼ絶望的になっている。こうした状況のなか、交渉を引き継ぐことになるだろうマンデルソン氏は、スピードよりも内容が重要と警告した。

 印象的なのは、自由化の影響で失業率が20%に達したときに彼が議員を務めることになった英国の町・ハートルプールに言及、自由化はそれ自体が目的ではない、「それはよりよい・より公正な社会を創りだし、人々の生活を改善する手段だ」と述べていることだ。私は「リベラル」だが、「我々は自由市場の犠牲者ではなく、自由市場が我々への奉仕者なのだ」と言う。

 FTAがWTOにより許された例外的協定であることさえ忘れて二国間協定に狂奔、自由化に伴う自国と相手国、しかも途上国の環境や社会の毀損などには目もくれずに自由化だ、改革だと叫ぶだけのどこかの国の指導者に聞かせたい言葉だ。彼のスピーチや欧州議会議員とのやりとりは、欧州議会ホームページにアクセスすればで、ライブで聞くことができる(⇒MANDELSON MP3)。