GM作物普及団体が栽培面積大幅増加を報告、だが栽培国・作物にはなお限界

農業情報研究所(WAPIC)

05.1.18

 農業バイオテクノロジーの国際普及促進団体であるISAAAが12日、04年の遺伝子組み換え(GM)作物商業栽培の世界的状況に関する報告書を発表した。それによると、04年の世界全体の推定GM作物商業栽培面積は前年に比べて15%増加、8,100万haに達した。GM作物栽培農民は03年の18カ国700万人から17ヵ国825万人に増えた。その90%は途上国農民である。ISAAAは、GM作物による所得増加が貧困軽減に貢献したという。5万ha以上を栽培した「メガ・バイテク国」は03年の10ヵ国から14ヵ国に増え、これには9途上国と5先進国が含まれる。ISAAAは、GM作物栽培の継続的増加は、生産性の大幅な改善、先進国・途上国双方における大小農民・消費者・社会により実感された環境・健康・社会上の便益を反映すると自賛する。だが、面積は増えても栽培国・作物は依然として限定されている。ISAAAは、とりわけ中国のGM米採用がこの限界の突破口を開くと期待しているようだ。

 報告の概要は次のとおりである。

 GM作物の国・作物・形質別栽培面積

 1.国別の動向

 04年のGM作物主要栽培国(「メガ国」)の栽培面積(1万ha)とその対世界比率(%)は、多い順に、米国:4,760(59)、アルゼンチン:1,620(20)、カナダ:540(6)、ブラジル:500(6)、中国:370(5)、パラグアイ:120(2)、インド:50(1)、南アフリカ:50(1)、ウルグアイ:30(1%未満)、オーストラリア:20(同)、ルーマニア・メキシコス・スペイン・フィリピン:各10(同)。

 03年からの伸びはインドが最高で400%。2年前から始まったBtワタの栽培が10万haから50万haへ(30万農家)。

 次いでウルグアイで200%の増加、大豆の99%以上がGM大豆になり、GMトウモロコシも増えた。

 オーストラリアはワタだけで、100%の増加。

 ブラジルは除草剤耐性大豆が300haから66%増えたと推定される。

 中国ではBtワタが7年連続で増加、前年の280万haから370万haに。中国のワタ作面積の66%がGMワタに。

 南アフリカはGMトウモロコシ・大豆・ワタを併せて25%の増。GMトウモロコシは食用・飼料用共に継続して増加、GM大豆は前年の35%から50%になり、既にワタ総面積の85%を占めるBtワタは安定。

 カナダはGMカノーラ・トウモロコシ・大豆を併せて23%の増加。カノーラの77%がGM品種。

 アルゼンチンの大豆は既に100近くが除草剤耐性GM大豆になっていたがなお増加、トウモロコシ、大豆を併せて過去最高の面積に(17%増)。

 米国ではGMワタは既に80%に達しているが、GM大豆に次ぐGMトウモロコシの増加で、全体ではなお11%の増加。

 パラグアイが国の大豆面積の60%に相当する120万haでGM大豆を初めて栽培。

 EUで唯一のGM作物商業栽培国のスペインでは、Btトウモロコシ面積が80%増加、トウモロコシ総面積の12%を占めるに至った。

 ルーマニアではGM大豆が大きく増加、メキシコ、フィリピン(トウモロコシ)も「メガ栽培国」の仲間入りをした。最近GM作物を導入したコロンビア、ホンジュラスでは僅かに増加、ドイツも僅かながらGMトウモロコシを栽培した。他方、ブルガリアのGMトウモロコシ、インドネシアのGMワタは許可の期限切れで栽培は報告されていない。

 2.作物別の動向

 商業栽培GM作物は、依然として大豆、トウモロコシ、ワタ、,カノーラに限られている。04年の作物別GM品種栽培面積とGM作物総面積、各作物総面積に対するその比率は次のとおり。( )内は03年。 

 

GM面積
1万ha

対GM
総面積

対作物
総面積

大豆

4,840
(4,140)

60

56
(55)

トウモロコシ

1,930
(1,550)

23

14
(11)

ワタ

900
(720)

11

28
(21)

カノーラ

430
(360)

6

19
(16)

 計

8,100

100

-

 GMトウモロコシは需要増加と新たな形質のものが利用できるようになるから、今後大きく増加すると予想される。また、Btワタも、インドと中国で増え、新たな栽培国も出てくるから、やはり大きな増加が予想されるという。

 3.形質別の動向

 96年から04年まで、常に除草剤耐性が支配的で、害虫抵抗性がこれに次ぐ。04年、除草剤耐性の大豆・トウモロコシ・カノーラ・ワタがGM作物総面積の72%(5,860万ha)を占めた。次いで害虫を殺すBt作物が19%(1,560万ha)、これら両方の形質を併せ持つワタとトウモロコシが9%(680万ha)。

 また、作物・形質の組み合わせで見ると、除草剤耐性大豆が全体の60%(9ヵ国、4,840万ha)、Btトウモロコシが14%(9ヵ国、1,120ha)。除草剤耐性・害虫抵抗性を併せ持つトウモロコシとワタが大きく増加している。

 将来の展望

 報告は、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々の貧困、栄養不良、飢餓の軽減を目指すGM作物採用の増加、新たな形質の導入による北米での一層の増加、EUのGMO新規承認のモラトリアム解除でGM作物の導入に拍車がかかる、2010年には30ヵ国の1,500万の農民が1億5,000万haにGM作物を栽培すると展望する。

 報告は、とりわけ五つの主要途上国ー中国、インド、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカーの影響力に期待する。中でも中国はアジア、ブラジルはラテンアメリカ、南アフリカはアフリカに最大の影響力をもつ。しかし、中国の政治家が、「食料、飼料、繊維の安全保障を輸入技術に依存することには受け入れがたい危険がある」としていることに懸念を表明する。だが、中国は05年にもBt米を承認することになりそうだ[この見通しは甘すぎると思うー農業情報研究所]。ワタしか認めてこなかった中国が食用GM作物の承認に踏みきれば、世界のGM作物受け入れは一気に進むと期待する。そうなれば、GM作物は2015年までに貧困人口を半減させるという国際社会の目標に大きく貢献できると言う。

 「世界の一部が過剰分析を通して麻痺状態に結果したバイテク作物論争になお明け暮れているとき、バイテク作物の採用でリーダーシップを強めつつあり、問題に取り組む勇気を持つ中国、インド、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカに導かれた南の諸国こそが、自身の生き残りと運命を決することになる」。まるで、貧困軽減の目標の達成はこれら5ヵ国によるGM作物の率先採用にかかっていると言わんばかりである。中国がGM米の承認を拒否すれば、あるいは先延ばしすれば、何と批難されるのだろうか。

 関連情報
 GM作物は今後10年で世界的に普及する―米国の研究報告,04.12.11
 
世界のGM作物栽培、7千万haに迫る―03年の世界での栽培状況,04.1.15