農業情報研究所意見・論評・著書等紹介2013年3月19日 :3月21日追記

ダーウィン主義のTPP 何が「力による支配ではなく」、「自由と民主主義」だ

  「力による支配でなく、法による秩序をつくるパートナーは同盟国の米国だ。TPPには自由と民主主義などの政治的価値を同じくする国々が参加する」

 3月18日の衆院予算委員会・TPPに関する集中審議で、安倍晋三首相がTPPの意義をこう強調したということだ。

 ところで、「力による支配」とは何だろう。徹頭徹尾秘密主義に貫かれたTPP交渉は「自由と民主主義」に適うのでしょうか。今や人気絶頂?の首相が言うことの中身は空っぽだ。

 そもそもアメリカのTPP参加自体が、弱小国を力で支配しようとする邪悪な魂胆に基づくものではなかったのか。

 米国は北米自由貿易協定(NAFTA)を勝ち取ったあと、キューバを除くアメリカ大陸の諸国全体を包含する一大自由貿易圏の設立を目指したが、大国・ブラジルなどが言うことを聞かず失敗した。

 開発ラウンドとも称されるWTOの下での多角的通商交渉では、自国の農業補助金はそのままに途上国に一層の市場開放を迫り、最終的にはインドの断固とした抵抗を招き、結局は多角的交渉を破産させてしまった (ドーハ・ラウンド 米国が補助金頼みの輸出農業を棄てないかぎり妥結はない,08.7.30)。

 日本が経済連携協定を結んだタイやマレーシアからも、アメリカの要求を飲めば国家主権が脅かされると、自由貿易協定締結を断られた。

 これらの国に一方的な貿易自由化・規制撤廃要求を蹴とばされて「世界の孤児」となってしまった米国が、これなら言うことを聞かせられようと乗り込んだのが、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4ヵ国ですでに形成されていた環太平洋パートナーシップ協定(TPP、2005年5月28日発効)である。

 こういうさもしい魂胆で始まった現在の拡大TPP交渉、それは首相や大手マスコミが言うように21世紀の理想の自由貿易体制の端緒を開くものではさらさらなく、世界をまさしく弱肉強食のダーウィン的世界に導こうとするものにほかならない。それがどうして「力による支配」ではないのか。どうして「自由と民主主義」なのか。首相もマスコミも弱肉強食の世界で生き残る道はこれしかないと思っているのかもしれないが、自分もアメリカに食われてしまうとは夢にも思わないのだろうか。

  (3月21日追記:ここでダーウィン説=弱肉強食説のごとき言い方をしたのは、「アメリカナイゼーション」に「適応」できない国は容赦なく切り捨てるということを分かりやすく表現しようとしたからで、生物進化に関するダーウィン説をねじまげる意図は毛頭ありません。ちなみに、カナダの”Globe and Mail”紙の最近の記事は、貿易交渉の焦点が小国が大国から一定の勝ち点をあげるチャンスのあるWTOの下での多角的交渉から二国間・地域交渉に移りつつあることで、グローバル貿易交渉は一層「Darwinianになる。最強のものと最も適応するものだけが生き残ることになろう」と論じています。→Global trade talks bound to turn more Darwinian,Globe and Mail,13.3.15)