++50 title「内緒話」++

10・内緒話








「キラ、………」

 ルームコールもかけずに扉を開けたこちらが悪いといえば、確かにそうなのだが。



 二日酔いでダウンしていたはずのキラがベッドの上に座って、男の肩にしなだれかかっていたりしたら、顔が険悪になるのは自然現象 というものだ。
 しかも男の手はキラの腰に回っている。殴りかからなかった自分を褒めてやってもいいと思う。

 (実際は、ひそひそ話をしようとしたキラが体を起こし、サイの耳に手と唇を寄せたら眩暈を起こしてしまったため咄嗟に肩に掴まり、 サイもそれを悟ってキラの上体を支えただけなのだが、今のアスランにそれを悟れと言っても無理な話。)

「あれ…アスラン? どうし」
「邪魔だったみたいだな」
 刺々しい声で、キラの言葉を切る。
「え? 邪魔って、なんで」
「食事、ここに置くから。気が向いたら食べておけよ」
「だから、…ちょっとアスラン、何怒ってるんだよ」
 反射的にぎろっと睨みつけてしまうアスラン。
 わけがわからないといった様子で困惑していたキラはびくっと体を硬直させたが、構わずに部屋を出た。
「アスラン!!」
 閉まる直前の扉の隙間からキラの声が追って来たが、それでもやはり振り向くことはしなかった。



「アスラン! ちょっと待てって」
 とんと肩を叩かれて、仕方なく磁場レールから手を離す。
 不機嫌を隠せずに振り返ると、度が入っているのか四六時中かけっぱなしの黄色いサングラスの奥から、穏やかな瞳が苦笑を返してきた。
「やっぱり。誤解してるだろ」
「別に」
 着衣こそ乱れていなかったものの、キラがベッドの上で男と密着していたことは事実だ。
 その男はやれやれとため息をついて、それからクスクス笑い始めた。
「………何がおかしいんだ」
「ああ、ごめん。悪気があるわけじゃないんだ。…さっきのは、ほんと誤解だから。話してただけだよ」
「話をするだけであんなに密着する必要があるのか」
「あ。ほら、やっぱり誤解してる」
「………」
 言質を取られてしまった。これは自分で自覚している以上に動揺しているようだ。
「大きな声では、さすがに言いにくいらしくてさ」
「……………」
「キラが俺に何言おうとしてたか、気にならない?」
「別に。君とキラの話だろ。俺には関係ない」
 視線を外したまま即答して、立ち去ろうとした背中に。
「キラの好きな人の話」

 爆弾発言が投下された。


 キラの好きな人!?
 キラの、好きな人!??


 がんがんと頭の中で鐘が鳴る。大変に煩い。

「ま、気にならないんならいいや。結局俺も、聞き損ねたし。とにかく、別にヘンなことしようとしてたわけじゃないから。それじゃ」
 硬直してしまったアスランの様子に、自分の放った爆弾の威力を察して、クスクス微笑しながら去っていくサイ。

 マヌケ顔のまま呆然とそこへ漂っていたアスランは、十ニ分後に後ろからカガリにどつかれて、やっと我に返るのだった。



「あははっ、ははっ、ははっ、あっはっはっはっは!!! ははは、ひーっ」
「…笑い過ぎだ」
「く、苦しい〜!!」
 さっきからこの調子である。これが本当に一国の姫か、と口に出したら今度は怒り出すだろうか。
「お前、バカじゃないのか!?」
「は!?」
 笑いながらとんでもない暴言を吐いてくれる。
「完っ璧にサイの思うつぼにハマッてるぞ」
「…何が」
「嫉妬しまくりの次はショックだろ? お前それ、自分はキラのこと好きですーって言いふらしてるようなもんだぞ」
「………」
 いくら食堂には今自分達二人しかいないとはいえ、デリカシーというものがないのか。
「ま、サイが相手ってのは絶対有り得ないから安心しろよ」
「………」
 絶対有り得ないなんて、どうしてカガリに分かるというのか。実際ベッドの上であんなに密着して、しなだれかかっていたというのに。
 憮然とした顔に、カガリはやれやれと一つ息をつく。
「お前さ、マイクロユニット得意なんだろ? トリィもハロも、作ったのお前なんだよな」
「え? ああ…まあ」
 何故いきなりそんなところに話が飛ぶのかと怪訝に答えると、カガリはそんなこちらの様子にはお構いなしにガタッと立ち上がった。
「協力してやるから、お前も協力しろ」
「は?」
「だから、お前の告白に協力してやるって言ってるんだ」
「はあ!?」
 元々キラとサイの急接近について話していたはずなのに、それがどうして自分の告白に繋がるのか。この暴走姫の頭の中を一度 見てみたい。…理解できる自信はないが。
 などと思っていると、カガリはさっさとドリンクの容器を片付け、呆然としているアスランの腕をぐいっと引っ張って、食堂から出て 行く。
「え、ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺は何も」
「お前ら二人とも、見てるこっちがじれったくなってくる。さっさとカタつけろ」
「なっっ、ちょっと待て! カガリ!!」
 ずるずると引っ張り出されるアスラン。

 結局、カガリの勢いのままどんどん話は進んで行ってしまった。




☆sorry! to be continue.

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