50・食わず嫌い
もう、アスランに頼るのはやめようと決めた。
それは決別の決意ではない。逆だ。彼と共にあるために。
頼るのではなく、甘えるのではなく、自分も彼を支え、お互いがお互いの力になってゆけるように。だから、自分で対処できることは
自分で対処しようと、すぐにアスランを呼んで助けを乞うのはやめようと決めた。まずは自分で考え、立ち向かうこと。
だから、今こうして、『それ』を目の前に一人、考えている。
………だが、考えても考えても、わからない。
ついにキラは、モニターの操作パネルへ手を伸ばした。
「…で、散々迷った末に俺を呼び出したってわけか」
「うん…」
原因となった『それ』を見て、開口一番になんだこれはとぼやいた彼の反応から、決定的な解決にはならないだろうと感じた。けれど、
一人でどうにもならなかった事も、二人ならどうにかなるかもしれない。
とにかくここまでの顛末を話したキラは、腕を組んでどんどん眉間にシワが増えて行くアスランの顔を、恐る恐る覗き込む。
「…えっと…、なんか、怒ってる?」
「怒ってるんじゃない。呆れてるんだ」
はぁ〜、と魂が出てきそうな長いため息をついて、アスランは『それ』をひょいと手に取った。
「わっ、あっ、危ない!」
「どうして」
「だ、だって…何だかよくわかんない物、素手で触らないほうが…」
「何だかよくわからないが、食材だってことははっきりしてるんだろ」
「食材のボックスの中にあったってだけで、ひょっとしたら違うかもしれないじゃないか」
「危険物反応も生命反応もなかったんだろ」
「そりゃそうだけど、もし毒でもあったら…」
「だったら、まずとっくにキラが発症してる。お前も素手で触ったんだろ?」
手袋も何もしていないキラの両手にちらりと視線を落として、大変ごもっともな意見を述べる。うう、と視線を床に落としてしまう
キラに優しく苦笑して、アスランは『それ』をまな板の上に戻した。
「とりあえず切ってみよう」
「ええええっ!!! ちょっ、やめてよ!!」
アスランが取り出した包丁を強引に奪い取り、即座にズザザッと壁際へ退くキラ。
「危ない!! いきなり何を…ああっ、包丁を抱え込むな!! もし怪我でもしたらどうする!」
「だって! 中から何か出てきたらどうするんだよ!!」
「…何か、って…こんなものから一体何が出てくるっていうんだ…」
「い、いきなり目玉がギョロッと出てきて叫び声あげられたりしたら…、そうだよ、なんかそのへんから口がぱかって開いて噛み付かれたり
したら大変じゃないか!! ひょっとしたらそのイボイボしたのがゾワゾワ動き出したりするかも…うわあああやだやだ気持ち悪いっっっ」
「………」
だから生命反応はないというのに。と言いたげなアスランの顔。
これが第三勢力の守護神たるフリーダムのパイロットの姿とは、到底思えない怯えっぷりである。
そもそも事の発端は、ある一人のアークエンジェル厨房担当者。
いつものように、潜伏先で密かにジャンク屋を介して補給物資を受け取った三艦。たまたま搬入が長引いたアークエンジェルを手伝いに
きたキラは、仕事を終わらせると、一息いれようとして食堂へやってきた。そこで彼につかまったのだ。
厨房に引っ張り込まれ、「搬入された食材の中に、何だかよくわからん不気味な物体が入っていた。すまないが調べてくれないか」と、
『それ』を渡されたのである。
ちなみにその担当者は夜勤明けにそのまま食材搬入へ駆り出されたらしく、もう限界だと言い残してフラフラと部屋へ帰ってしまった。
恐らく今頃爆睡していることだろう。
かくして一人厨房に取り残されたキラは、『それ』とにらめっこするハメになったのだった。
横から見てみたり縦にしてみたり、表面を隙間なく覆うブツブツとした突起を摘んでみたり。しまいには、ヘタをコンコンと叩いてみたり。
色々試しているアスランの隣で、おっかなびっくりキラが様子を見守っている。
くん、と匂いを嗅いでみるが、よくわからないという顔をして首を傾げた。
「…生で食べられるものなのか?」
「さあ…」
「…あまりこのまま齧りつきたいとは思わないんだが」
「うん…」
「皮を剥く…のか? そうすると、この…なんだかイボイボしたのは全部切り落とすことになるのか」
「さあ…」
「キラお前、さっきから生返事ばかりじゃないか。お前ももうちょっと何か考えろよ」
「だから、さっきまでずーっと考えてたけどわかんなかったからアスランを呼んだんだってば」
だからって俺に丸投げされても…とブツブツ言いながら、まな板に『それ』を戻すアスラン。
「埒があかない。やっぱり中身を確認する」
「や、やだっ!! それはやめてって言ってるだろっっ!!」
「そんなこと言ってたって、このままじゃどうにもならないだろう。ほら、包丁貸して。俺がやるから」
「〜〜〜っっ」
涙目になって包丁を奪われまいとするキラに、苦笑しながら手を差し出す。
まったく、オーブで再会した時には急に大人びて見えたのに、こうしているとあの幼い頃とちっとも変わらない。
差し出した手でトントンとまな板の上を突付くと、キラは観念して包丁をそこに置いた。
よろしい、と微笑んで見せて、おもむろに『それ』を縦向きにし、包丁を―――
「○×▼#ゞ!!!!!」
解読不能な短い悲鳴。そして再び包丁が奪い取られた。
「…あのな…」
「そそそそんな切り方したら、中身が全部出てくるじゃないか!!!」
「だから! その中身を確かめるために切るんだろう!」
「やだ!! もう、アスランはすぐそうやって怖いこと平気でやるんだから!」
ついでに『それ』も奪い取ると、乱暴に横向きでまな板に置いた。そして、丁度半分になる場所へ包丁の刃をあてがう。
「………」
うる、と瞳が潤む。澄んだアメジストが揺れるのは綺麗だが、目の前にある物体の形状の奇妙さが、なんだかおかしな光景にして
しまっている。大変もったいない。
「…〜〜〜〜〜っ」
えいっ、とばかりに切り落とす。すとん、とピーマンかキュウリを切った時のような音と共に、『それ』はあまりにもあっさりと二つに
分かれた。
「なんだ。普通に切れるじゃないか。別に何も出てこないし」
「………」
ひょい、と片方を取り上げるアスラン。キラも恐々と包丁をまな板に寝かせ、残ったもう片方の断面を見る。
濃い緑色なのは表面だけで、内側は薄い薄い緑色。なんだかスイカの皮みたいだ。厚みも丁度そのくらい。真ん中にはマシュマロを
彷彿とさせる白いふわふわした物体がたっぷり詰まっていた。
「…な、なにこの白いの…気持ち悪っ…!!」
「別に気持ち悪くはないけど…、何なんだ? これ」
言いながら、平気で白いふわふわを指でつまむアスラン。その隙間からもぞっと顔を覗かせた、やや黄色がかったクリーム色の物体。
「◇●×〆≦★⇔√Ж♂!?!?!?!!!」
泣き声の混じった意味不明な悲鳴が、厨房どころか食堂にまで響き渡った。キラが手にしていた半分の『それ』は、放り投げられて
空中で弧を描く。
「…キラ…お前な…」
「う、動いた!! 今何か動いた―――――っっ!!!」
「えぇ?」
怪訝に『それ』を覗きこむアスラン。放り投げられたほうの『それ』は、幸いテーブルに出してあった清潔なトレイの上に転がった。
天井にぶつかった様子もないから、そのまま普通に食材として使えるだろう。
「そ、そ、その、クリーム色みたいな…!!」
「ん? これか?」
ちょっと頭を見せているクリーム色の物を平然とつまみ出すアスラン。
「うわああああっ!! ちょっとやだよやめて出さないで―!!」
「………。これ…種じゃないか?」
「…へっ?」
アスランがまじまじとつまみ出した物体を検分する。丸い形状、手触り、固さ。加えて、瓜のような『それ』の特徴。つまり『それ』は
植物の実ではないか。ならば中から出てきた物は当然種であろう。
「何かあったの?」
プシュンとドアが開き、やや強張った表情のマリューが入ってくる。恐らく先ほどのキラの悲鳴を聞きつけたのだろう。彼女の後ろからは
ディアッカが続き、珍しいツーショットだなとアスランは少々驚いた。
「…あら? 二人ともどうしたの、そんなところで…」
「は、はあ…」
とりあえず事件事故の類ではないようだと察したマリューは、緊張を解いて厨房に入ってくる。涙目のキラを見てぎょっとしたようだが、
彼女が声をかけるより先にディアッカが口を開いた。
「あれっ! うっわ、めっずらし〜モンがあるじゃん」
「え?」
アスランが手にしていた『それ』をひょいと取り上げるディアッカ。キラもマリューもきょとんとして彼を見ている。
「ってーか、何だよこの切り方。ニンジンじゃあるまいし。これじゃわたがちゃんと取れねーだろ」
慣れた手つきで『それ』をまな板に戻し、包丁を握ってまずは先端の部分を切り落とす。それから縦にすとんと切って、抽斗を探って
スプーンを取り出し、ぐりぐりと白いふわふわを掻き出していく。
「で? もう半分は?」
「…ああ、これかしら?」
アスランとキラが示すよりも先に、マリューがトレイから『それ』を取り上げ、ディアッカに渡す。
「ども。…あのなぁ、ヘタくらい落とせよ。お前ら二人とも料理できないヒト?」
言いながら手早くヘタを落とし、さっきと同じように縦に切って、やはりスプーンで白いふわふわを掻き出す。
「…ディアッカ…? これが何か、知ってるの?」
「はぁ?」
ぽかんと呆れて涙目のキラを振り返ったディアッカは、さらりと続けた。
「これがゴーヤ以外の何に見えるって?」
…とりあえず、『それ』の名称はゴーヤというらしい。
意外な料理の才能を見せたディアッカは、ゴーヤを使って手早く簡単なサラダを作ってみせた。
「トーフやポークパテがあればチャンプルーにしたんだけどな」
「ちゃん、…何だって?」
「チャンプルー。民族料理の一種、ってことになんのかな? どっちかってーと郷土料理か」
「へぇえ、あんたが料理できたなんて、意外」
三ミリほどの厚さにスライスしたゴーヤをさっと湯通しし、ごく薄くスライスして辛味抜きをしたタマネギとツナを加え、少量の
マヨネーズで和えて塩胡椒で味を整える。ただそれだけの大変シンプルな一品が、五人の前に置かれていた。
四人ではなく、五人。増えた一人はミリアリアで、折角だからとディアッカが呼んだのだ。
「もっと量あればクルー全員分作ってやれたんだけどなァ」
取り皿替わりのトレイと箸とフォークを人数分持って来たディアッカは、トレイだけをめいめいの前に置き、箸とフォークだけは纏めて
置いた。
ディアッカとミリアリアとキラは箸を、マリューとアスランはフォークを取って、大皿替わりのバットに盛られたゴーヤサラダを自分の
トレイに取り分けて行く。
「それじゃディアッカ君、いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
「どうぞ、召し上がれ」
あっさりとサラダを口に運ぶ。マリューは珍しそうにゴーヤをしげしげと見てから口に入れた。
キラだけは手を付けず、皆の反応を伺うように様子を見ている。
「うん、我ながらいい出来」
「………なんか…このゴーヤっていうの、苦い」
「あら、そう? 私は美味しいと思うんだけど。あ、さてはミリアリアさん、ピーマン苦手でしょう?」
「…正直言って美味くも不味くもない…」
好評なのは作った本人とマリューだけで、ミリアリアは苦いと顔を顰め、アスランは無感動な顔で黙々と食べている。
「なんだよ〜、みんなテンション低いなァ〜」
「正直な感想だ。けど、まさかディアッカが料理ができるとは思わなかった。腕はいいんだろうなと思うよ。手馴れた様子だったし、
野菜の厚みもちゃんと均一だし」
「あっそ。フォローあんがとさん」
なんだよ折角人が腕振るったのに、とブツブツ言いながら食べ進めるディアッカ。だが、キラがまだ一口も食べていないことに目聡く気付く。
「なんだよキラ、食ってみろって」
「えっ、う、うん…」
うんとはいうものの、先程からつんつんと箸先でつつくばかりで、サラダを口に運ぼうという様子がない。
「? 美味しいわよ、キラくん」
「えっ、あ、は、はい…」
「そーよ、キラの感想も聞かせてよ。あたしは絶対苦いと思うんだけどなぁ…どうしてみんな涼しい顔して食べられるの?」
女性二人からも促され、小さくため息。やがてそろそろと箸が動き、ツナとタマネギだけをつまんで口に入れようとするが。
「キーラ。食わず嫌いは良くない」
しっかりそれを見ていたアスランに言われ、うっと止まってしまう。
「ほら、ゴーヤも取って」
「わっ、わかってるよっ」
「あっれ〜? なになに、キラひょっとして〜?」
「茶化さないでよディアッカ!」
にやり、とディアッカの顔が悪戯っ子のように笑う。彼がちらりとアスランを見ると、彼はやれやれとため息をついて、しかしどこか
愉快そうな目で頷き返した。
嫌な予感。さっとキラが席を立つ。
「あっ、こら逃げるな!!」
「逃がすかよ!!」
「うわっ、ちょっと二人がかりって卑怯じゃない!?」
逃げようとドアへ向かったキラをアスランが追い、ディアッカが先回りしてドアの前に立ちはだかる。残念なことにディアッカの席の
ほうがドアに近かった。
「もうっ、頼むから勘弁してよ!!」
「食わず嫌いは駄目だって昔から言ってるだろう!」
「あんなの食べられなくても別に困らないもん!!」
「うわっ、おっ前よくそんな失礼なこと言うよなァ、作った本人に対してさァ」
「ディアッカには悪いけどっっ!! 今度何か別のもの…うわっズルイ!! テーブルの上飛び越えるなんてずるいー!!」
「狡くない! 食堂で走り回るなお前は!!」
「いや、テーブル飛び越えるお前もお前だろ」
「ディアッカ! どっちの味方なんだ!」
ドタドタ、バタバタ。
突如始まった追いかけっこに、女性陣は呆れるやら笑うやら。
「ちょっと! こんなところで暴れないでよ、危ないでしょ!」
「ご、ごめん! ほら〜、ミリィが怒ってるじゃないか!」
「お前が大人しくサラダを食べればいい話だ」
「そーそー」
「なんでそこに話が戻るんだよ!!」
と、結局またドタドタ、バタバタ。ミリアリアの喝もほんの数秒しか効果がなかった。
「まったくもう…! まるで子供みたい。キラまで一緒になっちゃって」
「いいじゃないミリアリアさん。あの子達、まだ子供よ。あなたも、だけどね」
「あ…」
バカみたいなことで必死に走り回ってむきになる。そんな、少し前までは当たり前だったささやかな日常。それを今彼らは、そして
きっと自分達も、取り戻しているのだ。例えそれが、ほんの一時のものであったとしても。
あの頃は、キラがいて、サイとカズイ、そしてトールがいた。
今はキラとアスランとディアッカ。戦い合って来た友達が、ほんのちょっと前までは顔も知らない敵だった人が、あの頃と同じように
じゃれ合って、屈託なく笑っている。
「それにね。男なんていくつになっても子供みたいなものよ」
「…な、なんかマリューさんがそれ言うと、すごく説得力ありますね…」
感慨にふけりそうになったミリアリアの思考を、マリューの大人の意見が我に返らせた。そして、どうやら三人の追いかけっこにも
決着がついたようだ。
「うわあっ、ちょっとアスラン、離してよ!! 離せー!!」
「駄目だ。ディアッカ、今のうちに」
「オーケー」
隣のテーブルに、キラを押し倒すように固定したアスラン。ディアッカはニヤリと笑って、キラのトレイと箸を持って楽しそうに近づいて来る。
「ほぉ〜らキラ、美味いぞ〜」
「や…やだやだやだっっっ、僕はいいってば!! ほ、ほら、マリューさんが気に入ったみたいだし、僕の分も」
「ええ。美味しいから騙されたと思って食べてごらんなさい」
「マリューさんまで〜!!」
「観念しろキラ」
なんとかアスランの腕を外そうともがくキラだが、純粋な腕力ではかなわない。しかもこちらは、テーブルに仰向けにされているという
不安定な姿勢。
ほらほら、とゴーヤを見せ付けながら近づくディアッカ。
その瞬間、キラの頭のネジが一つ飛んだ。
「!?」
「え…っっ」
「あら」
「キ、キラ!?」
全員、フリーズ。
なんと切羽詰ったキラは、強引に首を起こして、目の前にあったアスランの唇に自分の唇を押しつけたのだ。
「―――――っっ…!! キラっ!!! お前な…うわっ」
「え、えっ!?」
ほんの二秒ほどのキスだったが、アスランを動転させるには充分すぎる。キラの目論み通り拘束は解かれたが、次の瞬間動揺して足元を
もつれさせバランスを失ったアスランがそのままキラの上に倒れて来た。
咄嗟にテーブルに手をつくアスラン。咄嗟にアスランの肩を受けとめるキラ。
それでも、かちっという小さな音がして、二人の歯が当たった。
唇も、また重なる。
柔らかい唇。間近にある美しいアメジスト。
吸い込まれる。離せない。………酔ってしまう。
一瞬。ほんの一瞬だが間違いなく、アスランは自分の意志で、離れかけたキラの唇を追って重ねた。
静寂を破ったのは、シュンと扉の開く音。弾かれたように二人は体を離した。
「なんだ、こんなとこに集まってどうしたんだ?」
きょとんとしているムウに、救いの神来たりとばかりに顔を輝かせるキラ。即座にアスランの側から飛び退いて駆け寄った。
「ムウさん! ディアッカが珍しい野菜使ってサラダ作ってくれたんです! 僕今おなかいっぱいだから、ムウさん僕の分食べてください!」
「おっ、そりゃあいいとこに来たぜ。んじゃ、遠慮なく」
「それじゃ、僕先にエターナルに戻ってるね!!」
はっ、とアスラン達が我に返る前に、キラは満面の笑みを浮かべながら手を振って、そのまま走っていく。音符を弾ませていそうな
背中を、シュンと音を立てて閉じた扉があっさりと隠した。
「…あ、あいつ…っ!!!」
かあぁぁぁっ、と真っ赤な顔でドアの向こうを睨むアスラン。ゴーヤを食べさせることができなかったのが悔しいのか、偶然とはいえ
二度もキスしてしまったことに何も触れずにさっさと行ってしまったことが腹立たしいのか、事故とはいえよく知っている人達の前で
キラとキスしてしまって恥ずかしいのか、なんだかもうよくわからないごちゃ混ぜの感情がぐるぐると高ぶってきてしまう。
「キラの分は…っと、これだな。じゃ、いただきまーす」
「………うわっおっさん待てよ!! それ…」
はっと気付いたディアッカが制止するも間に合わず。ムウはディアッカのトレイの前に座り、ディアッカが食べかけていたサラダを
口にした。当然、ディアッカが使っていた箸をそのまま使って。
「……うん! 旨い!! キラのヤツついてないねぇ、こんな旨いモン食いっぱぐれるなんてさ。あ、悪ィ、やっぱ箸は使いにくいわ。
フォーク取ってくれよマリュー」
「…え、ええ…はい」
「サンキュ。…うん、マジで旨い!! ディアッカ、お前戦争終わったら料理人になれよ。絶対成功するぜ」
「……………」
上機嫌なムウに、あんた今オレと間接キスしたんだよ、と言ってやるのもバカらしくなり、一つ大きなため息。ディアッカは手に
持っていたサラダをそのまま食べ始めた。
「…あ、あんた今キラと間接キ………」
「ミ、ミリアリアさん、苦手だったら私がもらいましょうか?」
「あ、ああ、そ、そうですね、お願いします」
これ以上事態をややこしくするのは得策ではない。というか、こっちの精神衛生上よろしくない。そんなマリューの内心を察してか、
ミリアリアも途中で口を噤む。
慌ててミリアリアからサラダを受け取ったマリューが、一緒に箸まで受けとってミリアリアと間接キスになってしまったことは、
二人とも後から気がついた。
それからしばらく、マリュー、ミリアリア、ディアッカの三人がアークエンジェルの食堂で顔を合わせる度、微妙な雰囲気になって
しまったという。
そして、ばっちりキスしてしまったキラとアスランはというと。
「おい。二人とも、あたしたちに内緒で自分達だけ珍しい料理を食べたって本当か?」
「あら、わたくしは高級珍味をこっそり半分こなさったと伺いましたわ」
「なんだって!? 尚悪い!! どうしてあたし達を呼んでくれなかったんだ!! ずるいぞ、お前達だけ!!」
「今はこういった状況なのですから、分け合えるものは、できるだけ皆で分け合うのが筋ですわよね?」
「…ラ、ラクス、誤解だよ」
「そ、そうだぞ。カガリも落ち着け」
「これが落ち着いていられるかっ!! クルー全員の信頼に関わる、由々しき事態だぞ!! わかってるのか!?」
「落ち着けと言ってるだろう!! 大体、あれはそもそもキラが騒ぎ出したのが発端で…!!」
「ちょっ、人のせいにしないでよ!! アスランだって結局あれが何かわからなくてバタバタしてたくせに!!」
「あらあら。わたくし達に内緒で何か召し上がったことは事実のようですわね」
「………」
「………」
怒らせると一番怖いお姫様二人の怒りを一身に浴びるハメになり、気まずくなるどころではなかったという。
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
他の人が口をつけたお箸とかペットボトルとか、気になる性分の方はやっぱりかなり気になるそうですね。
海原はわりと平気なので友達とは回し飲みとか(勿論そういうのが平気な相手となら、ですが)しちゃいます。でも、やっぱり知らない
人とかまだそんなに親しくない人とだと気になります。
あと、姫君だろうと歌姫だろうとおなかは空くわけで、つまりやっぱり食べ物の怨みはコワイ。…ということで(笑)