お前が言ったんだぞ
魔界の奥深くまで入り込んだあの場所で、スタンと、ソーディアンとなったディムロスは、バルバトスと戦っていた。不死身かと思われた
かの男も、カイルとリオンの参戦により、辛うじて倒すことができた。二人の復讐に、幕は降ろされたのである。
だが、退路を断たれた。ラタトスクの門が閉じてしまったのだ。
それでも三人…いや、ディムロスも含めた四人は、見事に生還して見せる。
カイルとリオンが手に入れた『大いなる実り』への願いによって、不可能と思われていた魔界からの脱出を可能にしたのだ。
こうして四人は無事魔界から精霊闘技島へと戻り、『大いなる実り』を騎士国家(フレスヴェルグ)へ持ち返ることに成功したのだった。
「我が国のシグルス、リオン・マグナスとカイル・デュナミスに栄光あれ!」
華々しく迎えられた二人の影で、前大会で『大いなる実り』を得られなかったばかりか相棒(パートナー)を失い行方をくらましていた
スタンは、ひっそりと国に戻った。
国王陛下に事の次第を報告したスタンは、その場で正式に騎士団長を辞する決意を伝える。
「しばらくは僕が二つの騎士団長を兼任するよう、命が下った」
城の廊下を並んで歩きながら、お互いに経過報告。
「悪いなリオン、大変だろうけど」
「フン。お前が行方不明になっていた三年間、ずっと兼任してきたんだ。別に何が変わるわけでもない」
「…そうか。…そうだよな。すまない」
神妙な顔をする親友にして義理の兄に、リオンは小さく溜息。
「…騎士団のことだけじゃない。カイルのことも、ありがとう。…見違えたよ…随分強くなった」
「ああ」
「リオンが稽古付けてくれたんだな。時々、リオンに似た太刀筋を見せることがある」
「時々、というのは、まだ不安定な証拠だ。逆に言えば、まだまだ伸びる余地がある。成長期の子供なんだから当たり前といえば当たり前
だがな。…カイルが目に見えて強くなり始めたのは、シグルスとして実戦を始めてからだ。そんなところもお前に似ている」
「ははっ、そうか」
嬉しそうに笑うスタン。笑い顔から成長のし方から、本当に似たもの親子だ。
「…リオン」
「何だ」
「お前には、本当に感謝してるよ。オレの勝手な、遺言みたいな頼み、聞いてくれて」
「………カイルを頼む、か。…スタン」
「何だ?」
「騎士国家(フレスヴェルグ)が血統を重んじる国でなくて良かったな」
「は?」
「ああ、しかしルーティは何と言うかな…。まあ、あいつが何か言ったくらいでどうこうするつもりもないが」
「あのー、リオン? 話が見えないんだけど…?」
「お前の血統を残したいならもう一人子供を作れという話だ」
「へ? ああ、二人目か。うーんちょっとカイルと歳が離れすぎじゃないかー? …でも娘っていうのもいいな〜……… え?」
ぴたり、とスタンの足が止まる。
そして、さーっと血の気が引いていく。
三歩先で立ち止まったリオンは、クス、と勝ち誇ったかのような微笑みを浮かべてスタンを振り返った。
「ちょ…、待てよ、血統を残したいなら二人目、って…まさか」
「まさか、何だ?」
「だっ…だめだだめだ!! いくらお前でも、カイルを養子にはやらないぞ!!」
「お前が言ったんだぞ。カイルを頼む、と」
「そういう意味で言ったんじゃないっ!! オレが帰るまで、それまで頼むぞって」
「そうは言ってなかったな。僕が聞いたのは、『カイルを頼む』という一言だけだ」
「だっ、だからっ、それは!!」
「だからこの僕が頼まれてやったんだ。お前の言葉通りに」
「なっ、そっ、わっ、…ああもー!! だから、そういう意味じゃないんだってば!!」
「僕が言っているのもそういう意味じゃない」
「はあっ!?」
ふ、と誰もが背筋を凍らせるような冷笑を浮かべるリオン。
この廊下に人の気配はない。皆、陛下の許しが出たため、広場での祝賀祭典に出ているからだ。
それでも周囲に視線を走らせ、誰もいない事を確認してから、リオンはすっとスタンの耳元で囁いた。
「カイルを僕の人生の伴侶として貰い受ける、と言ってるんだ」
ぱかっ、と顎が外れるほどにスタンの口が開く。
金魚の口になり、目はドライアイになるほど大きく見開かれたまま。
その反応を愉快そうに見遣って、リオンはとどめの一言。
「他ならぬお前から託されたんだ。受け取らないわけにはいかないだろう? もっとも、今更返せと言われても応じる気はないがな」
石化したスタンに、大変楽しそうかつ皮肉げな微笑みを残して、リオンは一人でさっさと廊下の奥へ去っていく。
『………ス、スタン……すまん。我のために、カイルが嫁に行くことになろうとは…』
「……………な………な………な………」
人気の薄い城の中に、スタンの悲哀と混乱に満ちた絶叫が響き渡った。
そのあまりの音量に、ソーディアン・ディムロスがしばらく意識を失っていたらしいという事は、後日ハロルドのメンテナンスによって
明らかになる。
END
UPの際の海原のツブヤキ…興味のある方は↓反転して下さい(大した事書いてません)
あれっ地上に帰ってめでたしめでたしじゃないの!?
と、あのちょん切れたような終わりにはびっくりしました。リオン&カイル編。
多分スタン編やれば答えが出るんじゃないかなーとは思ってるんですが。
しかし後半怒涛のようにリオンとカイルが二人してスタン追っ駆け隊になっていったのはびっくり。
ていうかある意味原作と立場が逆転してませんか、スタンとリオン。
で。いきなりED後から書いてしまいましたが、この二人(スタンじゃなくてカイルとリオンね)は旅立つ前辺りからちょこちょこ妄想が
走っているので、熱があるうちに形にしたいなーとか思ってます。
***(2009/09/06加筆訂正)
やはしスタン編で答え出ましたね(笑)
ずっと一人で戦ってきたので、カイルとリオンが駆け付けてくれたのはすごい嬉しかったです。
バル子さんのアホみたいにケタ違いなGPにはのけぞったけどな!!
あれはまじでびびったー…勝てて良かった。