福島県会津といえば、米処、酒処、そして「そば処」としても全国的に知られていますが、その中でも西会津山都町のそばは格別で、町の北にそびえる飯豊山の万年雪から溶け出す冷水と冷涼な気候が育む良質のそばの喉ごしは絶品です。

飯豊山麓の山深い地区で住民が民家をそのまま開放し蕎麦を振舞ったら大好評、近年はマスコミにも取り上げられている話題の地区である山都町。その中でも今回訪れた「宮古(みやこ)地区」は、全30軒ほどの農家のうち13軒が自宅を開放してそば屋を営んでいるスポットで、年間を通して多くのそば好きが訪れます。どこの店も十割そばで、水だけで食する「水そば」が有名です。

共同駐車場(無料)に車を置いて歩いて行くと、道ぞいの倉庫で地元の野菜や山菜などの販売所を開いているおじさんがいたので、おすすめのそば屋さんを聞いてみたところ「どこもうまいよ。」とのこと。その中でもおじさんのおすすめは?と尋ねると、「そうだなー西村屋さんでも行ってみれば、すぐそこだし」というので、今回は「西村屋」さんに決めました。
ほどなく西村屋さんに到着。ふと玄関の扉を見ると「準備中」の札が下げてあります。なぁーんだやってないのかと中を覗いてみると、奥の厨房でおばあちゃんがひとり作業をしています。「お休みですかー」と声をかけると、「やってますよ、いらっしゃい、どうぞ」とのこと。
大広間に通され、お客は私たちだけで貸し切り状態。
宮古地区にあるほとんどのそば屋さんは、もともと地元の農家が自分の畑や山で獲れるそばを使って副業として始めたものなので、食堂というよりは普通の農家でごちそうになっている感覚です。
待つことしばし、お膳が運ばれてきました。山都そばをメインに「こんにゃく」がセットされます。このあたりは「こんにゃく」の産地でもあり、どの店でも「そばとこんにゃく」が大量に並びます。(店によっては「こんにゃく」を先に出すところもあり、おいしいからと、こんにゃくをたくさん食べてしまうと肝心のそばが、おなかいっぱいで食べられなくなることもあるのでご注意。)
つなぎを全く使わないそば粉100%の純白に近いそばは、のどごしの良さが自慢。しかも食べきれないほどの量です。山菜や漬物もおいしいです。

お客さんが、わたしたちだけなので、おばあちゃんといろいろ話すことができました。
そばの里として脚光をあびるようになったのは10年ほど前からで、それまではこれといった産業もなく男衆は出稼ぎに行くしかなかった。そんな折、少しでも村おこしになればと村で取れるそばをお客にふるまったところ、そのうまさが口コミで広がったという。
特に新そばが出る秋口からは大忙しになるんだとか、「関東方面からもたくさんのお客さんがいらっしゃるんだよ。テレビにでてる、ほら、あのお笑いの若いふたり組、大きいのとちっちゃいのもよく来るんだよ。すごい車に乗って来るんだよ。『おばあちゃーん、また来たよー』って。里帰りみたいに来てくれるんだよ。」なんて言ってました。

それにしても私たちが食べている間、お客さんがぜんぜん来ないのです。庭先まで来ても帰ってしまう人もいます。はっ!と思い。「玄関の札が準備中になってましたけどいいんですか?」と言うと。あわてておばあちゃくは見に行き「あらら、風でひっくりかえっちゃったんだ。お昼時なのに、今日はなんだかお客さんが来ないと不思議に思ってたら…これじゃだ〜めだ、あはははは」となんとも元気なおばあちゃんなのでした。
(そんな大事なこともっと早く教えてやれってか。…ついつい、そばのうまさと居心地のよさに気を取られてしまい、すみません忘れてました。おかげでのんびりと食事をいただけました。)
宮古地区には3匹の犬がいて、そのうちの2匹が西村屋さんの黒い犬「ラッキー」と隣の家の柴犬?「ハッピー」です。どちらも人なつっこくてかわいい。
宮古地区は東北の山間を走るとどこにでもある典型的な山村集落です。狭い谷間にはりつくような集落は、食後に散歩するのもなかなかの風情を楽しめます。
冷たくておいしい水場もあります。
■山都町宮古地区
●住所:福島県耶麻郡山都町宮古地区
●【交通】磐越西線山都駅から車で約20分/盤越道会津坂下ICから国道459号線経由で約45分
●共同駐車場有り

宮古地区