中波受信用 MLA について

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中波受信用 MLA (Magnetic Loop Antenna) について説明します。

■ MLA の基本
 写真1左は、当方でオプションにしている MLA キットを組み立てたものです。写真1右は、その電気的配線図です(※ キットに MLA → 受信ブースター間の同軸ケーブルは付属しません)。同軸ケーブルをループ状にして、ループ開始点の外周電極に、同軸ケーブル先端の中心電極を接続すれば完成です(同軸ケーブル先端の外周電極は、どこにも接続しません)。

写真1. オプションの MLA (左) と 電気的配線図 (右)

 写真2は商品ではありませんが、私が実験で用いている MLA で、配線が分かりやすいので示しておきます。実験ではコネクタの脱着回数が多いので、機械的に堅牢なM型コネクタ (MLA キットは、F型です) を使っています。角座M型コネクタ(メス)の取り付け穴を使って、写真2の左を右のように組み立てます。
 本文は MLA を自作されることを視野に入れて解説していますので、このようなアイデアが自作の際のご参考になればと思います。

写真2. 実験用 MLA 組み立て前 (左) と 組み立て後 (右)

 この同軸ケーブルを利用した MLA の動作原理は、次の通りです。
電波は 「電磁波」 とも呼ばれ、電界波と磁界波が交互に生じて空間を伝播します。界と界の組み合わせのですから、「電磁波」 なのです。この組み合わせは図1のとおりで、赤色で示す電界波によって黄色の磁界波が生じ、その磁界波によって電界波が生じ、その電界波によって・・・の連鎖で、電波が空間を伝わります。

図1. 電波伝播の様子

 ここで MLA の動作ですが、MLA は磁界波のみを受信電流に変換し、電界波には応答しません。MLA の動作は、理科の実験で習った 「コイルに電流計(検流計)を接続して、コイルの中で磁石を動かすと電流計が動く」 のと、本質的に同じです。MLA では、そのループ内を通じる磁界の変化(磁界波)によって、MLA に電流が生じます。

 では、電界波に対する MLA の動作は? といえば、「静電シールドによって、反応しない」 と言い得ます。これを示したのが図2で、単純なループアンテナは図2の左で、ループ部分を静電シールドすれば図2右のようになり、これを 「MLA」 と呼んでいます。図2の左・右はいずれも、中心電極をループ状にして外周電極に接続していますので、電気的接続は同じです。電界波に対する遮蔽 (静電シールド) の有無だけが違います。

図2. シールド無しのループアンテナ (左) と シールド付きのループアンテナ (右)

 ここで、「なぜ、図2右のように電界波に反応しない MLA にするのか?」 と言う根源的な疑問が生じます。結論は、「人工雑音(都市ノイズ)の影響を受け難いから」 です。
 人工雑音とは、例えば、「パソコンのそばでは、雑音で AM ラジオが聴こえなくなる」 ということがあります。パソコンのような デジタル電子機器 が出している 高周波雑音 を、特に 「人工雑音」 と呼んでいます。そんな人工雑音は、電界波を主成分にする機器が多いのです。パソコンなどの電子機器からの人工雑音は、電界波が中心です。磁界波を出す人工雑音源もあり、エアコンなどのインバーター機器です。MLA は電界波に応答しないことから、MLA 以外のアンテナ、例えばホイップアンテナなどに比べて、雑音が小さくなります。私の経験では、DIAMOND社の D303 というホイップ系のアンテナで ラジオ福島 は受信出来ませんが、MLA を使うと受信出来ます(@神奈川県川崎市)。

 MLA は、その原理を知って使わないと受信感度は上がりません。先に 「MLA は、磁界波を受信電流に変換する」 と書きました。これが大切な原理です。多少厳密性に欠けますが、「ホイップ系のアンテナは、2つの電極間に生じる電圧を受信信号にしている」 と言え、「MLA は、ループに生じる電流を受信信号にしている」 と言えます。ラジオによっては外部アンテナ端子がありますが、その入力インピーダンスは高く、MLA のような電流を受信する回路になっていません。このことから、「MLA を直結してみたが、大して感度は上がらなかった」 と感じている人が多いと思います。当方の共振型受信ブースターは MLA を前提に設計しましたので、これまでに誰も経験したことがない高感度で低雑音な受信ブースターになっています。

 磁界波の受信では、音質が悪くなったりしないのか? という疑問を持たれるかもしれません。結論から言えば、音質に影響はありません。図1に示したとおり、電界波→磁界波→電界波→・・・の連鎖が電波です。この連鎖では、電界波の強さに比例した磁界波が生じますので、磁界波のみの受信でも音質に影響はありません。


■ MLA は、計算どおりに動作する
 MLA が計算どおりに動作することは、「幾多の実験を積み重ねなくても、計算で必要な大きさが求められる」 ことを意味します。

 具体的事例を挙げて、説明します。
 当方でオプションにしている 直径60cmで1ターンの円形 MLA を共振型受信ブースターと組み合わせると、SONY ICF-EX5MK2 や、シャンテック電子のループアンテナと同等の感度が得られます。
 ここで MLA は、ループ内を通じる磁界波が受信電流になりますから、受信電流 (=受信感度) はループ面積に比例することが分かります。
 一例を挙げれば、直径60cmで1ターンの MLA のループ面積は πr より、1.13u です。この受信電流を2倍にするには、2.26u にすればよいのです。

 ここで、一つの重要な関係を示します。重要な関係とは、面積と円周の関係であり、すなわち “ループ面積” と “同軸ケーブルの長さ” の関係です。
 半径r と 円周L の関係は、L=2πr より r=L/(2π) です。これと円の面積Sである S=πr を組み合わせれば、S=π(L/(2π)) となり、式を整理すると S=L/(4π) を得ます。このことは、「面積S は、円周L の2乗に比例する」 ことを意味します。例えば、「円周(=同軸ケーブルの長さ)を 1/2 にすると、面積 (受信電流) は円周の2乗なので 1/4 になる」 ということです。

 この関係の応用例を示します。同じ同軸ケーブルで、1ターンにしたときと2ターンにしたときで考えます。2ターンにしたときの円周は、1ターンの半分です。つまり、面積は 1/4 ですが、2ターンでは2つ分の面積がありますから 1/4 の2倍の 1/2 になります。つまり2ターンでは、1ターンと比べて受信電流が半分になってしまうのです。
 これを計算式で示せば、ループ面積S と 同軸ケーブルの長さL の関係式である S=L/(4π) に、ターン数T を加えればよいのです。つまり、S=T×(L/T)/(4π)=L/(4πT) です。ここで L一定で、SとTの関係を見れば、「Sは、1/Tになる」 と言い得ます。面積は受信電流に比例しますから、ある長さの同軸ケーブルが1ターンのときと、Tターンのときで比べれば、「Tターンにしたときの受信電流は、1ターンのときの1/Tになる」 と言い得ます。
 これをデシベルで言えば、1ターン時の面積(=受信感度)を基準(ゼロデシベル)として、Tターン時の減衰量は、20Log10(1/T)として計算できます。

 ターン数T は一般に整数ですから、下表に1ターンを基準にしたときの1〜5ターンまでの減衰量を示しておきます:

ターン数
受信電流での減衰量1/21/31/41/5
デシベルでの減衰量−6−9.5−12−14

 最近はDSPラジオを中心に、電界強度表示(dBμで表示)のあるラジオが出まわっています。これらラジオを使うと、デシベルでの計算値と一致することが分かります。例えば1ターンのとき 60dBμ であれば、2ターンにすると 6dB 低い 54dBμ になります。

 このことは、「ターン数で感度調整が出来る」 ことを意味します。例えば、当方の受信ブースターを全長5mで1ターンにして東京23区内で使うと7つあるローカル局が強すぎ、ラジオが飽和することで混変調が生じて使い物になりません。しかしこの同軸ケーブルを4ターンにすると、1ターンの1/4に受信電流を減らすことができて、使えるようになります。

 ここで、「なぜ MLA は、円形が好まれるのか?」 も、同様に考えれば理解できます。結論は、「同じ長さの同軸ケーブルでは、円形のとき最大の面積 (受信感度) が得られるから」 です。例えば、正方形と円形を比較すれば、正方形の 面積S と 外周L の関係は S=(L/4)=L/16 で、円形のそれは前出の通り S=L/(4π)=L/12.6 です。分母をみれば、正方形よりも円形のほうが面積が広くなる (高感度になる) ことが分かります。

 さて、以上の知識を元に実際的な応用を考えます。当方の共振型受信ブースターを使うことを前提に SONY ICF-EX5MK2 程度の感度を求めるなら、当方のオプションの MLA キットを使えば済みます。
 受信困難地域で 「SONY ICF-EX5MK2 よりも、高い感度が必要」 であれば、必要に応じて MLA の大型化を図ります。この場合にお勧めできる方法は、共振型受信ブースターの許容範囲いっぱいの5mの同軸ケーブルで1ターンで試して、感度が高すぎればターン数を増やして感度を下げます。ここで、「なぜ、感度を下げるんだ?」 と不思議に思われるかも知れません。昼間は1ターンで問題なくても、夜間の電離層反射波で混変調がひどくなる恐れがあるものです。一般に安価なラジオほど、混変調がひどくなります。


■ MLA 製作上の注意
 受信困難地域では、昼間用と夜間用の2つの MLA を使う方法が考えられます。このとき、「異なる直径の MLA を、同心円状に配置しない」 ことが重要です。私の実験では、互いに干渉するためだろうと思いますが、同心円状に配置すると感度が大きく下がります。

 また MLA のような受信アンテナでは、しっかりした電気的接続が必要です。ミリアンペアオーダーの電流が通じる回路であれば 「接触していれば、電気は通じる」 でもよいのですが、ナノアンペアのような微小電流回路でネジ止めを使う場合は、しっかり締めこむことが必要です。例えば写真2では、同軸ケーブルの先端のネジ止めでスプリングワッシャを使っています。実験では頻繁にアンテナの方向を変えるなどしますので、緩むことが無いようにしています。

 

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