計算尺のメカニズム

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計算尺・・・

エレクトロニクスに携わる私たちには,特別なきっかけでもなければ「いまさら計算尺など・・・」と思うのが普通の感覚でしょう。 私は,携行性の良さなどから計算尺も使っています。計算尺ユーザーとして,「計算尺のメカニズムについて知っておくことは,有益だ」と思います。そこで,「計算尺のメカニズム」を話題に取り上げます。

「計算尺」のキーワードでインターネット検索すると,「C尺」や「D尺」などの用語を使い「計算尺で,数値を機械的に得る方法」が,たくさん出てきます。しかしこれらの解説は,私にはなじみ難く感じるのです。「計算尺で計算ができるメカニズムが解説されていない」ことが,その理由です。
そこで,ここでは「計算尺が無くても,計算尺のメカニズムが理解できる」ような解説をしたいと思います。

計算尺で計算ができるメカニズムの基本は,「対数の加減算による乗除算」と「換算表」です。

乗除算演算を,手始めに「2本の定規を組み合わせ」から考えます。定規は,小学生でも持っている普通の定規です。2本の定規の識別を,計算尺に合わせて「C定規」と「D定規」にしましょう。C定規の5cmの位置に,D定規の0cmを合わせます。この状態でD定規の2cmの位置は,C定規の7cmになります。これは,5cm+2cm=7cmの加算を意味しています。ほかの数値の組み合わせでも,同様に加算できることがわかります。この例では「C定規に対して,D定規は5cmのオフセットがある」と考えれば,C+Dの理解は容易です。このメカニズムが理解できれば,逆演算の減算も容易です。

ここでC定規・D定規を共に「対数スケール」にすると,同じメカニズムで「対数の加算」ができます。イメージ的には,対数のグラフ用紙を2枚突き合わせる感じです。対数の加算が,真数(A=logBのとき,「Bは,対数Aの真数」と呼ぶ)の乗算になります。逆演算の減算をすれば,除算になります。
計算尺は,この原理を使って乗除算演算をしているわけです。おおむね,0.1%程度の精度で読み取れます。ただし指数部は,暗算になります。

計算尺での計算過程を,具体例で説明します。
3300×63000
を計算尺で計算する場合,
3.3×6.3=2.08×10
を計算尺上で得ます(正確には,2.079×10ですが,私の計算尺ではそこまで読めません)。同時に指数部を
10×10=10(3+4)=10
と暗算します。これらを組み合わせて,
2.08×10×10=2.08×10
と計算するわけです。

計算尺のもう一つの機能が,「換算表」です。私の計算尺には,2乗値や3乗値,逆数,常用対数,自然対数,三角関数が用意されています。いずれも,一つの値が定まれば,一意的に他方の値が定まる性質を持つものです。また換算表で逆演算ができるように,それぞれ逆関数演算もできます。

電卓に慣れきった私たちは,例えば「べき乗(累乗)計算で,2乗や3乗以外はどうするのか?」などと心配します。これは,2乗と3乗を組み合わせればよいのです。
4乗=2乗の2乗,5乗=2乗×3乗,6乗=3乗の2乗,7乗=3乗×4乗,8乗=2乗の3乗,9乗=3乗の2乗
と,2乗と3乗の組み合わせで計算できます。
他の例を挙げると,CR充放電の計算では,ネイピア数(e=2.718・・・)の指数部が負の数値になります。計算尺の指数部は,正の数値しか用意されていません。そこで例えば,
e−1=e(1−2)=e÷e=2.72÷7.39=0.368
と正の数値の指数部と除算を組み合わせて目的の数値を得ます。
また計算尺を使った計算では,計算尺が0.1%程度でしか読めませんから,繰り返し計算すると誤差が大きくなります。そこで,公式を利用して計算の手間を少なくしたり,よく使う対数や平方根などは数値を暗記しておくことが有益なんです。
このように計算尺を使うと,計算上の工夫や公式の便利さを痛感します。

電卓に頼りきると,このような性質の暗記も不要です。しかし私は,高度な機械に頼りきることに一抹の不安を覚え,もう一つの選択肢として計算尺を使っているものです。また,以前に比べて暗算が少し上手になりました。

私が愛用している計算尺は,直径が11cmの円形のものです。棒状の計算尺は,すでに入手困難になっています。棒状の計算尺は高精度ですが,電卓のそれには及びません。携行性も良くないと思います。「高精度計算は,電卓」と割り切っても良いと思います。円形の計算尺であれば,現在も日本国内で生産・販売されていますし,3000円でおつりがきました。
欲を言えば,雑音計算用に「正規分布と確率」の換算表があると良いと思います。そのような計算尺もどこかにあるのでしょうが,私の計算尺にはついていません。

以上の知識を元に,計算尺に取り組めば,数日の練習で計算尺が使えるようになると思います。また,「計算結果が得られた!」という不思議な喜びを体感できます。3000円で,これほど楽しめ・愛着の湧く製品は,なかなかありません。これが,アナログなんですね。。。

2008年10月17日
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