放射線測定器と活用

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放射線測定器を試作しました。また,その活用事例を紹介します。動画もご覧いただけます。

放射線測定器は,10mm角(ダイサイズ)のPINフォトダイオードをセンサーにしています。このセンサーで検出できるのは,ガンマ線です。アルファ線やベータ線の検出はできません。
しかし,放射線を出している元素が特定できる利点があります。この性質を使って,セシウムなどの原発事故由来の放射性物質が検出できないか?というのが,この放射線測定器を試作した動機です。

ここで,放射線について説明します。放射線は,陽子・中性子・電子で構成される原子核が崩壊するときに放出されるエネルギーです。原子核の崩壊とは,陽子や中性子の数が変わったり,構成が変わったりすることを意味します。このとき,崩壊に応じてアルファ線・ベータ線・ガンマ線が放出されます。これらがすべて同時に出るわけではなく,原子核の崩壊によって「どれが出るか?」が決まります。
ガンマ線は,多くの原子核の崩壊で放出されます。また,そのエネルギーが原子核ごとに異なるため,エネルギーを測定することで原子核(元素)が特定できると言うわけです。私の放射線測定器では,捉えたエネルギーをアナログメーターで一定時間指示するようにしました。
放射線は,原子核が崩壊する瞬間に1発だけ弾丸のように放出されます。ニオイのように,常に出ているわけではありません。また,放射線はあるエネルギーの塊であり,それ自身でエネルギーは減衰しないようです。そのエネルギーを捉えれば,少々離れた場所でもエネルギーは同じなんだそうです。ただ,空気の分子や水の分子やコンクリートなどの遮蔽物に衝突すると,それより先へは行きません。ガイガーカウンタのような線量計は,この弾丸のような放射線がセンサーに衝突して電気信号に変換され,「何発衝突したか?」を表示する装置です。私の放射線測定器にも,この機能を持たせました。製品としての線量計は,衝突回数と計測時間からシーベルトなどに換算して表示させています。

2011年10月12日,「東京都世田谷区で,高い放射線量が確認された」と報じられました。翌13日に放射線測定器を持って,現場へ行ってみました。「放射線の元素が特定できれば,原発事故由来かどうか?が判断できる」と思ったからです。
現場周辺には,既に報道陣が50名くらいいました。早速現場で,5分間のエネルギーのデータを取りました。また少し離れた公園で,同様に5分間のエネルギーのデータを取りました。さらに,現場周辺の1ブロックほどを線量を見ながら歩いてみました。
現場は,特に民家の板塀の線量が非常に高く,範囲も極めて局所的(例えば,数mのような範囲)でした。雨水が集中するような状況もありませんでした。「これは,誰かが放射性物質を撒いたのかも?」と思いました。
線量測定で歩いているとき,立ち話をしていた近所の方から「放射線は出てますか?」と尋ねられました。私は,「出ていません。問題になっている場所だけです。いたずらかもしれませんね」と答えました。その方は,「あ,いたずらか」と納得されたように見えました。原発事故由来なら,それこそ大変ですからね。

自宅に戻り,取ったデータをグラフ化して,千葉県柏市の放射能汚染土壌で同様に取ったデータと比較しました。すると,グラフのパターンが大きく異なることが分りました。世田谷区のパターンは,柏市のそれよりも低いエネルギーの放射線が多数を占めていました。これで「やはり,原発事故由来ではない」と思いました。

その後のニュースで,世田谷の放射能は「主に放射性ラジウムで、長年放置されたもの」と報じられました。放射性ラジウムは,放射性セシウムよりも低いエネルギーを持つ放射線が多いそうです。私のデータと符合する結果です。
線量だけを見れば大騒ぎですが,エネルギーを測定することで状況がより正確に判断できた事例です。

線量計を購入しても,価格の割に使用頻度は少ないと思います。線量は,測定に必要な時間だけ立ち止まって測定する必要があります。ですから,公的機関にしらみつぶしに調べることを求めるのも,現実的では無い気がします。公的機関が線量計を準備して,住民へ貸し出す態勢を作ることが良いのかなと思います。
放射線を不安に思っている人は少なくないようです。当日の世田谷で立ち話をしている人の多くが,放射線の話をしていました。線量計を持っている人は,地域貢献だと思って近所を調べてあげるのも良いと思います。

私の放射線測定器は,「食材などで,放射性セシウムのような有害な元素を捉えられたら」と思い試作したものです。単なる線量計では,放射性カリウムのように汚染されていなくても放出されている放射線が分離できないためです。
動画は,こちらからYouTubeでご覧いただけます。 しかし試作器はアナログメーターで,実用性はイマイチです。。。信号処理方法などを含めて,「もう少し,がんばりましょう」です。

2011年10月14日
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