アナログ回路設計の世界

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 私は、アナログ電子回路設計に軸足を置く技術者です。そんな技術者目線で、アナログ回路の世界を紹介します。

■ アナログ回路設計はアウトドア!
 アナログ回路設計は、自然科学や物理の世界です。デジタルのような人為的な決め事は無く、大自然の中にいる感じです。
 こんな世界ですから、様々な物理現象が人間の都合を無視して容赦なく飛び出します。

 とは言え、物理現象は自然界の法則に必ず従います。「不都合な動作」には、必ず「そうなる理由」が潜んでいます。
 アナログ回路では、この理由に先回りして手を打ち、所望の動作を得るように設計します。
 

■ アナログ技術者がいない・育たない
 「アナログ技術者の育成には、時間(費用)がかかる」とされます。また「アナログ技術者は、なかなか見つからない」とも言われます。

 技術者には、物理現象を定性・定量の両面でイメージできる資質が求められます。またその物理現象は、いくつも考えられます。
 これらを一つひとつ、体験から身に着ける感じで技術者が育っていきます。すると、10年のような時間はあっという間に流れます。
 これが、一朝一夕に技術者が育たない理由です。

 アナログ技術者は、日々その技術に接している必要があります。しかし現在にあって、そのような環境が継続的に与えられる企業は少ないと思います。
 この結果、アナログ技術者が少なくなっているものです。
 

■ アナログ技術者はアイデアマン!
 アナログ回路設計で重要なのは、「アイデアの発想力と、それを具現化できる設計能力」です。

 設計課題には「満たすべき要件」があり、これを達成するための「作戦(手段)」としてアイデアが必要になります。この時点で具体的な回路案はなく、まだ動作イメージの段階です。この動作イメージの段階で、新規性のあるアイデアが出て来ることが多くあります。
 動作イメージが決まると、具体的な回路構成を考えます。この回路構成は、まだブロック図やシグナルフローの段階です。
 回路構成が決まると、具体的な回路図にしていきます。大抵は複数の回路案が出てきますから、ベストな手段を検討して最終回路に仕上げます。

大雑把には、このような感じで回路設計をします。

 このように設計した回路は、「2つと同じモノが無い」と感じています。この背景には、「何かしらの性能を際立たせるとき、そこにはオリジナリティーが不可欠になってくる」ことがあると思います。
 

■ ツールは数学
 アナログ回路設計では、数学をよく使います。
 数学的なモデリングが正しければ、実際とよく一致するからです。このモデリングには、経験や勘によるところが大きいと感じます。

 計算は、性能の予測や、部品定数の決定などで用います。

 その計算量は、100を超えることが珍しくありません。私は便利さから、表計算ソフトをよく使います。1つのセルが1つの計算で、これが100セルを超える計算量になると言う意味です。

 この計算に決まった手順や方法は無く、動作イメージの中で計算を組み立てていきます。
 計算を進めるうち、何らかの問題に気づくことがあります。この場合、回路構成の考案過程に戻って再考し、計算も最初からやり直しです。
 これを繰り返し行うことで、回路は「ベスト」と言える状態に収れんしていきます。

 計算上で問題が無くなると、試作などによって必要な確認を行い完成します。
 

■ こんな回路にご用心!
 アナログ回路でよく見かけるのが、「既成・定番回路のつなぎ合わせ」です。これは設計ではなく、もはや「作業」です。

 私は、問題を抱えたアナログ回路の調査・改修をいくつも経験してきました。そのほとんどが「作業の尻ぬぐい」でした。

 作業で作成された回路に、設計者に求められる「深い考察・理解・検討」や「工夫」は期待できません。
 このため「絶対最大定格違反」「不適切な部品選定」「不適切な部品定数」「必要部品の欠落」などのイージーミスをよく見かけます。中には、データシート掲載回路からの「写し間違い」までありました。
 このような回路は「何かしらの問題を抱えている」と言うのが、私の印象です。

 これらが放置される理由に、「直ちに不良症状が現れ難い」と言う問題があります。既成回路のつなぎ合わせでは「それなりに動作する」ことが多いため、問題に気づき難いのです。不幸にも問題が露呈すると「出荷済み製品への対応」「基板の改版」など、余計な仕事・費用が発生します。

 またこのような回路の性能は、「既成回路任せ」なので性能が良くないのが一般的です。性能面で工夫が無く、管理されていないためです。
 

■ 実施事例
 私の設計で、性能改善がよくわかる事例を紹介します。

 現行の計測器があり、この高性能版である新製品開発での話です。
 現行機種の回路は典型的な定番回路のつなぎ合わせで、前出の「作業」で出来ていました。やはり、いくつかの問題を抱えていました。

 完成した新製品では雑音性能が大きく向上し、現行機種の1/400になりました。この400倍の差が、設計と作業の違いです。
 新製品の雑音性能は計算で予想していた「センサ単体の雑音が支配的になる」で、「これ以上、雑音の下げようがない」と言い得る域に達しました。
 アナログ信号を扱う計測器で雑音は、計測範囲の下限値を決めますから大切な要素です。

 この案件で私がイメージした作戦は「センサと差動ADC(Analog to Digital Converter)の直結」でした。現行機種は、センサとシングルエンドADCとの間に複数の信号処理回路があり、この回路構成が性能を損ねていると見積もったからです。
 この案件では、直結するための周辺回路設計が業務の主体になり、特許権も成立しています。
 

■ アナログ回路設計はハードジョブ
 このようなアナログ回路設計は、かなりハードな仕事です。同じ設計課題でも、経験を積むほど仕事量が増えます。私も若いころは、もっと仕事が楽だったような・・・「知らぬが仏」でしょうか。

 前出の100セルの計算は、1つの回路当たりの計算量です。大抵は複数の回路案を検討しますので、数百セルの計算量ということになります。
 これらのセルは、一つひとつに「意味」があり「数値のボリューム感」があります。これらをイメージしながら、設計を進めます。

 こんな仕事で集中力が維持できる設計時間は、1日せいぜい5時間程度です。
 大抵の設計では、事実上の休日返上で完成まで一気に行います。間に休みを入れてしまうと、頭を元に戻すのが大変だからです。
 

 
 こんな仕事を、もうずいぶんとやっております。

では、また

 

2021年3月27日
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