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            39.しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる

  
1931年、エンパイア・ステイト・ビルが ニューヨークで一番高いビルとなった頃、
 消防艇ジョン・ジェイ・ハーヴィは、ハドソン川に登場しました。
 見開きいっぱいに描かれた ハーヴィの その赤い船体は かっこよくて ニューヨークの
 青い空に映えています。

 ハーヴィが登場したその年のニューヨークって どんなだったのか、
 それからハーヴィが どんなに勇ましく働き 活躍したか、
 矢野顕子さんの訳が 歯切れ良く 心に響いてきます。

 けれど、時は流れ 1995年、ニューヨーク市は、もう消防艇はいらないと決めてしまいました。
 ハーヴィは、鉄くず同然として 5年間何もせずにつながれていました。

    ところが びっくりするようなことが
          おこった。
      フロランというレストランに
     集まっていた なかまたちは・・・・

      「よしっ、ハーヴィを救おう!
     みんなでお金を出しあって買おう!
     べつに火事を消さなくたっていいさ。
     だって おもしろそうじゃないか?」
           そして
    ほんとうに買ってしまった!

 このニューヨークの人たちの心意気が 何とも気持ちがいいのです。
 ハーヴィを 生きた人間のように思っている人たち。
 皆が、ハーヴィを愛しているのです。

 よみがえったハーヴィを見て みんなうれしがった。
 でも、消防の仕事をすることは 絶対ないと思っていた。けれども・・・・

  真っ青な空に 高くそびえ立つ ツインタワービル
  そして そこへ向かっていく 2機の黒い飛行機
 
 2001年9月11日 世界中が震撼した。
 消火栓ががれきの下になり、消防車も水が使えなくなった。
 ハーヴィは 懸命に働いた。

 絵は、悲惨な場面を描きながらも 全編に暗さはない。
 そこには、元気で勇敢なハーヴィと、ハーヴィを愛する仲間たちが、気持ちのいいくらいに明るく
 かかれているのです。それは、あの大事件をも乗り越えて 生きていくことの希望を教えてくれます。

 あとがきに 矢野顕子さんは書いています。彼らは、9月11日がたとえ起きなかったとしても、
 その時ハーヴィが劇的な活躍をしなかったとしても、この船を、きっと愛し続けていただろうと。


                 
マイラ・カルマン 作
                       矢野顕子 訳
                       リトルドッグプレス
 





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         38.エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする

 
私の大好きなお話が、昨年、絵本になりました。
 エリナー・ファージョンの、「エルシー・ピドック、ゆめでなわとびをする」です。
 このお話は、ファージョン作品集「ヒナギク野のマーティン・ピピン」の中に入っています。

 はじめて このお話を聞いたとき、何とも言えない幸せな気持ちに包まれ、
 ファージョンが描く ファンタジーの世界に どっぷりと浸かったのでした。
 ですから、絵本になったのを見たときは、絵が、その世界を壊してはいないか不安でした。
 けれども、シャーロット・ヴォークの絵は、軽やかで、エルシーや、グラインド村の人たち、妖精たちが、
 そこここにちりばめられたように描かれています。(それでも、年をとったエルシーの姿は、やはり、
 私の思い描くエルシーとは重ならなかったのですが・・・)
 
 エルシー・ピドックは、生まれながらの縄跳び上手でした。
 エルシーは、七つになったとき、妖精の縄跳び師匠である アンディ・スパンディから 三日月の晩に
 ケーバン山で 縄跳びの秘術を教わります。その跳び方ときたら、
 
       高とび するりとび 羽のような軽とび
       長とび 強とび みんなでそろってとび!

       遅とび 爪先とび 二度ぐるりぐるりとび
       早とび おさめとび 心配ごとははねとばせとび!

 なんて素敵な跳び方なんでしょう。

 そして、それからずっと年をとってから、エルシーは、この縄跳びで ケーバン山を救うことに
 なるのです。この感動のフィナーレでは、私は、いつも、涙を流さずにはいられません。

 このお話が、絵本になったことで、一人でも多くの子どもたち、そして大人にも読んで欲しいと
 願うばかりです。

 エルシーは、今もケーバン山で、縄跳びを跳んでいることでしょう。

      アンディ・スパンディ さとうのキャンディ アマンド入り あめんぼう
      おまえのおっかさんのつくってる晩ごはんは パンとバターのそれっきり


                     エリナー・ファージョン 作
                     シャーロット・ヴォーク 絵
                       石井桃子 訳
                       岩波書店
 


 
                   37.アンディとらいおん

 
今にも表紙から飛び出してきそうな ライオンと少年と犬が描かれています。
 力強く、躍動感のある、黒の線画に、色は一色。これぞ まさに、ライオン色。
 どんなライオンのお話がはじまるのか、ワクワクしてきます。

 寝ても 覚めても、ライオンのことで頭がいっぱいのアンディに引っ張られて、こちらの頭の中も
 ライオンでいっぱいになってしまいます。
 読んでいて楽しいのは、おじいさんがアンディに、アフリカのライオン狩りのすごい話を
してくれるところ。

   どの はなしも、どの はなしも、おしまいはみんな、
   「そこでな、わしは そいつを ねらって、
   2れんぱつを ぶっぱなした。ぱ・ぱーん!」
   と いうことで おわりました。

 私は、すっかりおじいさんになってしまって、自慢げに このセリフをちょっぴり大げさに言うのが
 好きなのです。(これは 息子たちも かなり喜びます)

 そんなアンディが、学校へ行く途中 ライオンに出くわします。

  いわのかげから なにか つきでているのをみつけ
  そーっと ちかくへいくと
  へんなものが うごきました。
  ライオンでした!
  アンディは にげる
  ライオンも・・・・・

 この一連のお話のコマ割りは 絶妙です。
 スリルとユーモアで、子どもたちは引きつけられること 間違いなし。

 一見、ごちゃごちゃしたような絵に見えるのですが、まわりに余白をたっぷりとって
 スッキリとさせています。
 本当に飛び出さんばかりの ダイナミックな絵本です。


                          ジェームズ・ドーハーティ 文・絵                                                                    
                                    村岡花子 訳
                                    福音館書店

   

    




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                36.ふしぎな500のぼうし

 脱いでも 脱いでも 出てくる帽子。
 「王の前で 帽子を脱がぬとは!」と 怒る王様は 何とか脱がせようと 家来達に
 命令しますが、それでも出てくる バーソロミューの不思議な帽子。

  うろたえる アラリック卿
  お手上げの ナッド博士
  意地悪する ウィルフレッド王子

 お話は、次々に出てくるバーソロミューの帽子にあわせ、スピード感あふれ 息つく間もなく
 バーソロミューの住む町から、山の頂にそびえ立つ 王様のお城の塔のてっぺんまでへと
 場面は登り詰めます。

 1本の羽が、空に向かってピンっと突っ立っている帽子。
 黒の濃淡で描かれた絵の中で、バーソロミューの帽子だけが、赤く色が付いていて綺麗です。

 それまでずっと同じものだった帽子は、451番目から 少しづつ見事なものに
 変わっていきます。
 塔の石段に、順々に並ぶその帽子を眺めるのは、愉快です。
 そして、とうとう 500番目に現れた帽子は、何と素晴らしい帽子だったことでしょう。

 ナンセンス話を得意とする ドクター=スースの、傑作絵本です。


                        ドクター=スース 作 絵
                          わたなべ しげお 訳
                             偕成社

   
   

                 35.ゆかいな かえる


 青と緑と黒の三色という 一見 地味な色合いの本ですが、これぞ かえる色!
 かえるの本って感じです。 
 実は私、かえるはかなり苦手なのですが、でも この本のかえるたちは、その題の通り 
 愉快で楽しいかえるたちです。

 サギがやってきて ハスの葉の下に隠れたり、
 カメがやってきて カメの背中に隠れたり(?)
 
 サギやカメが かえるたちはどこへ行った?と 捜すのに、
 息子達は、「ここ!ここ!」と 絵を指さして、得意そうです。

 見返しには たくさんのオタマジャクシが泳いでいます。かえるが苦手な私でも 子どもの頃には
 田んぼで いっぱいオタマジャクシをつかまえて遊びました。
 今でも、どうしてこれが かえるになるのか 不思議でたまりません。
 絵本の中には、そんなかえるの生態も ちゃんと描かれています。

 簡単で単純な 絵とストーリー。
 かえる嫌いの私もおすすめの かえるの本です。


                           ジュリエット・キープス 文 絵
                             いしい ももこ 訳
                               福音館書店

 



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             34.アンガスとねこ

 「アンガスとあひる」に続いて、すぐに読んで欲しいので 今回また 「アンガスとねこ」を
 紹介します。

 アンガスは、成長しています。
 そして、アンガスの好奇心は進化しています。

    アンガスはいろいろなことを おぼえました。
    かえるが とべることや、
    じぶんが とべないことも、(池に落ちた哀れなアンガスと それを見て笑ってる
                     ハスの上のカエルの絵には 思わず吹き出してしまいます)
    ふうせんが、
    われることも!
    
    ソファのうえに ねてはいけないこと (それはお気の毒 素敵なソファなのに)
    じぶんのでないたべものを たべてはいけないこと

    そして、アンガスがしりたいもの、それは ねこでした。

 アンガスは、ねこに近づこうとするのですが、ねこはすぐに アンガスのせいでは届かない
 高いところに上がってしまいます。
 アンガスがねこを捜して、窓から外をのぞく鳥瞰図は素敵です。ねこは、アンガスには見えない
 屋根の上にいますし、生け垣の向こうには、あの 2わのあひるがいて 柳の木の下の
 水飲み場も見えます。
 
 アンガスはこねこをなくしてがっかりするのですが、
 食事の時間になると・・・・・・・・。

 子どもって こんな風に友達を作るんですよね。


                 マージョリー・フラック 作 絵
                          瀬田貞二 訳
                           福音館書店

    

 
              
                33.川はながれる


 新緑の 芽吹きの季節、開きたくなる本があります。「川はながれる」

 ロジャンコフスキーの描く自然は 美しく その色合いはやわらかで、それでいて正確です。
 
 遙か彼方の山奥で生まれた ちいさい川は、自分の行き先を探して、旅をします。
 それは、きっちり擬人化した 子どものように、不安な思いをしながらも、森の動物たちや、
 みずうみや 町の人々に出会いながら、やがて、海へと流れ込む、成長物語です。
 
 そこには、知識としての 川の成り立ちではない 物語があります。
 海に流れ込んでしまったら 自分はどうなってしまうのだろうと考える ちいさい川ですが、
 おしまいにはこう言います。

   ちいさい川にも やっと わかった、
   これまで たびしてきたところ どこにでも、
   じぶんがいるということが
   森のなかにも、岩のあいだにも、
   みずうみや 野原や 沼地のおくにも・・・・・

 自然に対する 愛情あふれる一冊です。

    
                      アン・ランド 文
                          ロジャンコフスキー 絵
                            掛川恭子 訳
                           岩波の子どもの本

                  


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            32.アンガスとあひる

 これほど単純なのに、素敵に可笑しいときてる。
 プレッツェルも、ハリーも好きだけど、犬が主人公の中では、やっぱり私は、
 スコッチテリアのアンガスが一番好きかな〜。
 
 アンガスの犬としての好奇心は、いちいちうなずけるものです。
  
   ソファの したには なにが いるだろう とか、
   かがみの こいぬは だれだろう とか。
   もってこられるものと、もってこられないものがあるってこと とか

  (これらの文に描かれた絵は素晴らしく、ここまでのわずか4ページで、誰でも
   アンガスという子犬の性格を知り、好きにならずにはいられないでしょう)

 そして、アンガスの 一番知りたがったのは、庭の生け垣の向こうから聞こえてくる
 やかましい音の正体でした。

 「アンガスとあひる」の中では、やかましい音の正体でもある、
 ガー、ガー、ゲーック、ガー という あひるの鳴き声が、何度か出てきますが、
 これがまた、絶妙なリズムで、笑いを誘います。

 最初は あひるを追いかけて優位のアンガスですが、その後、あひるの攻勢にあって、
 疾風のごとく逃げ出すアンガスの様は、見物です。
 
 そして、ラスト。沈黙の3ページ。
 で、私は、この絵本の 大ファンになってしまったのです。
 ソファの下で、べったりと、身じろぎもせず、固まるアンガスが、かわいくてたまりません。

 それと余談ですが、この青にオレンジの花柄のソファが とても素敵で、
 私は 是非、このソファに座ってみたいと思っているのです。

 シリーズで読むと、これが、また また 楽しいのです。


                     マージョリー・フラック 作 絵
                          瀬田貞二 訳
                           福音館書店
                
                31.時計つくりのジョニー


 アーディゾーニの絵のもつあたたかさを どう表現したらいいのでしょう。
 アーディゾーニのペンが描き出す線の 一本、一本が、ある時は 光と影をつくり、
 ある時は、ジョニーの心を写し出しています。
 明確すぎない線なのに、その表情と、性格は、キッチリ伝わってきます。
 アーディゾーニ独特の世界です。
 絵本は、水彩と白黒の交互になっていますが、線描が命となっていることは 間違いありません。

 おはなしは、手先の器用なジョニーが、もう百回も読んだ、「大時計のつくりかた」という本を見て、
 自分でも大時計を作ってみようと思いつくところから始まります。
 両親の無理解や、学校の先生や子ども達から、「そんなことできるわけない」と 
 からかわれたりしますが、ジョニーは困難を乗り越え、とうとう大時計を完成させる というものです。
 ジョニーの一途な姿が深く心に残るお話です。
 そして、ジョニーのそばには、いつも励ましてくれる、友達のスザンナと、
 ジョニーに協力してくれる 鍛冶屋のジョーの存在があります。それから、ジョニーのそばにいつも
 描かれてる、黒猫もきっと良き理解者なのでしょう。
 絵には、絵本には珍しい 吹き出しがついていて、ストーリーをたすけています。

 一度見たら、忘れない アーディゾーニの絵の世界を、味わってみてください。


                     エドワード・アーディゾーニ 作
                              あべ きみこ 訳
                                こぐま社


 



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               30.犬棒かるた


 お正月も もうとっくに過ぎているのに、我が家では、毎夜毎夜 犬棒かるたが大ブレイク。
 もう普通に読むには飽きたらず、下の句(?)だけ読んで、取るときには 自分で上の句を
 言ってから取るとか、最初の一文字だけ読んで、後は自分で全部言ってから取るとか、
 とにかく ありとあらゆるやり方で遊びました。
 その頃、上の息子は小三で、下に至っては、まだ年長だったのですが、まあ 意味もよく
 わからず、それでも夢中で遊びました。
 大人の私たちといえば、身につまされながらも 楽しみました。中には全然知らなくて
 「へぇ〜」と思うものや、知っていたけど、意味がまったく違ってたというものもあって、
 (解説本がついてます)それがまた 楽しかったです。
 中でも皆が好きで、人気があったのが、
   「ていしゅのすきな あかえぼし」
 毎晩 誰がこの札を取るか 熾烈な戦いがありました。
 意味は、「一家の主人の好きなものはたとえ異様なものでも 家族はこれに従うものである」
 というものですが、夫が飽きもせず 好きなラーメンを食べていると、
 「亭主の好きな みそラーメン」とか、お酒を飲んでいると、
 「亭主の好きな 天狗舞(石川のお酒です)」とか言って、なんだかめちゃくちゃな使い方して
 遊んでましたね。

 瀬川さんの絵は、最初はちょっと難解で、何が描いてあるのか解読(?)しなければ
 わからないといった感じでした。でも、今思えば、この難解さがあったからこそ、
 こんなにはまったのかもしれません。何しろ 大人の私たちですら、文字で見つけるのは
 難しく、絵をすっかり覚えないことには 早く取ることはできないのです。
 ですから、息子達とも、本気で、同レベルで戦うことができたのでしょう。

 絵札には、それに関連した絵が描いてあるだけでなく、植物の絵が、周りを囲んでいます。
 瀬川さん曰く、「人生知を語る一つ一つのことわざに、人がふと身近な植物に注ぐまなざしの
 暖かさをつなぎ合わせてみたかった」と、おっしゃっています。
 たとえば、
    「犬も歩けば 棒に当たる」には、おおいぬのふぐり
    「くさいものには ふた」には、へくそかずら とか
    「瑠璃も玻璃も 磨けば光る」には、いずれアヤメかカキツバタ
 といった具合で、どれもシャレがきいてて、「なるほど」と思わず楽しくなるものばかりです。
 かるたとしては、かなり立派な装幀で、ちょっと高級な百人一首といった趣です。


                    瀬川康男 画
                          福音館書店
                        
                         
   29.ことばあそびうた


      はなののののはな
      はなのななあに
      なずななのはな
      なもないのばな

 神奈川に住んでいた頃、息子達は、近所の家庭文庫に通ってました。
 雰囲気のある落ち着いた自宅のリビングを開放してくださり、
 子ども達は、それぞれお気に入りの場所で、好きな本を読みます。
 その後、文庫のおばさんが、みんなを集めて、絵本を読み聞かせてくれるのですが、
 その前に いつもするのが、わらべ歌や詩、そして、この「ことばあそびうた」でした。
 得意だったのは、

      かっぱかっぱらった
      かっぱらっぱかっぱらった
      とってちってた

      かっぱなっぱかった
      かっぱなっぱいっぱかった
      かってきってくった

 早く間違えないように、競って言っていたものでした。
 谷川俊太郎さんの詩ですが、昔からの日本の言葉で、韻を踏んだリズムのある
 そして、ちょっと怪しげな内容が楽しくて、何度も繰り返し 繰り返し楽しみました。
 大人は意味がわかれば、それなりに間違わずに言えますが、息子達は、
 意味をわかってか、わからずか、それでもすらすら言うのが、なんだかおかしかったのを
 覚えています。

      はかかった ばかはかかった たかかった
      はかかんだ ばかはかかんだ かたかった
      はがかけた ばかはがかけた がったがた
      はかなんで ばかはかなくなった なんまいだ

 こちらも 絵は 瀬川康男さんで、ぴったりの雰囲気に仕上がっています。

                   谷川俊太郎 詩
                         瀬川康男 絵
                         福音館書店







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                  28.ひとまねこざるときいろいぼうし

 今年は申年。で、さるが主人公の絵本・・・と考えて 一番に思いつくのは
 何といっても、「ひとまねこざるのジョージ」でしょう。
 私は、自分自身が いつこの絵本と出会ったか覚えていません。
 でも、子どもに読んで聞かせようと思ったときは、すでに、ジョージが有名である
 ことは知っていました。記憶というのは、不思議なものです。
 自分が、以前 確かに楽しんだ本を、子どもともう一度楽しむということは、この上ない喜びです。
 沢山はないけれど、ジョージはそんな一冊です。

 黄色が基調の、明るくて綺麗で伸びやかな H・A・レイの絵は、
 子どもはすぐに好きになります。
 そして、子どもの好奇心を次々とやってのけてくれるジョージを
 何と頼もしい友達と思うことでしょう。

 かもめのように飛んでみたくて、船のデッキから海に落ちてしまうところは傑作です。
 電話をかけてみたら、なんと消防署にかかってしまい 大騒動。
 もういたずらができないようにと、牢屋に入れられてしまいますが、
 まんまと逃げ出し、そこはさるのありがたさで、電話の線を伝わって自由の身。
 風船売りのおじさんの風船を束ごととってしまい、ジョージは、高く高く空の上。
 
 まさに、子どもの好奇心の、オンパレードです。
 子どもにとって、文句なしの絵本でしょう。

                     H.A.レイ 文.絵
                           光吉夏弥 訳
                             岩波書店
             
                  27.さるのオズワルド


 エゴン・マチーセンの絵は素敵です。
 自由な筆遣い、独特の色遣い。
 「青い目のこねこ」もそうでしたが、何といっても、主人公のオズワルドの目に、力があります。

     あるところに、いっぴきの ちっちゃな つるが いて
     おっと まちがい、さるがいて、
     なまえを オズワルドと いった。


 テキストは、「おっと まちがい」が繰り返されることば遊びとともに進んでいきます。
 絵の軽快さと同じように、テキストも軽快にという風です。
 ただ、日本語に翻訳してしまうと、どうしても無理があるように思います。
 音を重ねることを考えた訳になっていますが、その音のおもしろさが伝わりにくいのが、残念です。
 
 でも いばりやのさるに、「いやだ!」としっかりとした意志を持って、立ち向かっていく
 オズワルドは、素敵です。それは、たとえ子どもでも、そこに人生の本質を
 見抜いていくのではないでしょうか。
 軽快な語り口の中にも、深く胸に残る絵本です。

                    エゴン.マチーセン 作
                           松岡享子 訳
                             こぐま社



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            26.くるみわり人形


 それまで、ホフマンの原作「くるみ割り人形とねずみの王さま」を読んだこともありませんでしたし、
 バレーの「くるみわり人形」も
見たことがなかったのですが、この有名な 絵本というには少し長い本を
 読もうと思ったのは、なんと言っても センダックの絵に
ほれぼれしたからでした。
 
 センダックがこの本を手がけるきっかけになったのは、バレー「くるみわり人形」の
 ステージデザインと衣装を引き受けることになったことからだそうです。
 ですから この本の中には、ステージデザインと衣装、この物語のために新たに描いたもの、
 ステージデザインとして使ったものをアニメートさせたものなどの絵がいっしょになっていて、
 不統一でありながら、それぞれのセンダックの絵の魅力に引きずり込まれずにはいられません。
 
 クリスマス・イブの日からはじまるこの物語りのはじめには、
 王宮のような部屋に飾られたクリスマスツリーが描かれてあり、もう ため息が出るほどです。

 
     クリスマス・ツリーは、かぞえきれないほどの見事な金と銀のりんごでかざられ、
     枝という枝には、さとうをまぶしたアーモンドや、
色とりどりのろうそくや、
     いろいろな種類のキャンデーが、まるで花やつぼみのようについていました。
 
 私は毎年 このページを飾って 充分クリスマス気分を味わっておりました
 チャイコフスキーの音楽を聴きながらこの「くるみわり人形」の本を読むのは、
 とても贅沢なクリスマスの過ごし方かもしれません。
 
 バレーにはない 物語中の物語 「かたいくるみの物語」には、
 センダックの絵本「まどのそとのそのまたむこう」に出てくる赤ん坊や

 「かいじゅうたちのいるところ」のかいじゅうが出てきて、楽しくなります。
 それになんと言っても くるみわり人形の強烈なキャラクター。
 最後 見開きいっぱいに描かれているくるみわり人形の顔には きっと誰もが仰天するでしょう。


                  E・T・A・ホフマン 作
                  モーリス・センダック 絵
                    渡辺茂男 訳
                     ほるぷ出版

                
              25.くんちゃんのだいりょこう


 シリーズ化されている絵本の中には 必ず愛すべき主人公がいます。くんちゃんもそのひとりです。
 
 冬ごもりが近くなったある日、くんちゃんは 南の国へ飛んでいく小鳥たちに
 「ぼくもいっていい?」と 話しかけます。
 くんちゃんは いつだって そばにいる仲間に声をかけます。くんちゃんの子供らしさが伝わってきます。
 
 「ぼくも みなみのくにへいっていい?」 と くんちゃんは おとうさんおかあさんに尋ねます。
 「くまは ふゆは ねむるのです。」 と おかあさんは言いますが おとうさんは
 「やらせてみなさい」 と 言ってくれます。
 
 子どもは 自分が愛されているという安心感があってこそ 冒険ができるもの。
 
 鳥たちを追いかけて丘を駈けのぼっていく くんちゃん。
 丘のてっぺんで おかあさんにさようならのキスをしてこなかったことを思いだして、振り返るくんちゃん。
 ドロシー・マリノの絵は、くんちゃんの気持ちを ちゃんと表現しています。
 こうして 何度も忘れ物を取りに帰っては 丘を登るくんちゃんですが、最後には ちょっぴり疲れてしまって、
 「ぼく、りょこうにでるまえに、すこし ひるねしたほうが いいとおもうんだ。」 と おかあさんに言います。
 
 ベッドでねむるくんちゃんを見守る おとうさんとおかあさんのやさしい目。
 おかあさんは言います。「みなみへ わたっていかないとおもいますよ」
 おとうさんも言います。「なに、くんちゃんは これから ふゆじゅう ぐっすりねむるよ。」
 ほんとうにあったかい くんちゃんの家族です。
 
 黒い線画に 青一色で色を付けた絵は、シリーズによって色を違えています。
 すっきりとした、それでいて暖かい絵本です。


                        ドロシー・マリノ 文・絵
                          石井桃子 訳
                           岩波書店



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            24.ふゆめがっしょうだん


 うさぎに コアラ 大きな羽根飾りを付けたアフリカの部族の子どもだったり 
 埴輪だったり ターバンを巻いたインドの王子様だったり
 岡本太郎の太陽の塔のようだったり トーテンポールみたいだったり。
 
 冬の裸の木々たちは、こんなにも豊かな表情をしてたんだね。
 
 今はまだ かたくて小さな木の芽だけど 生きてるんだね。
 
 春を待つ 冬の木の芽たちの歌が、透き通るような声で聞こえてくるようです。
 
 冨成忠夫さんと茂木透さんの 素敵な写真に 長新太さんが楽しい詩をつけた かがく絵本です。
  
 ashさんもお勧めの この季節にピッタリの写真絵本です。

                     冨成忠夫 茂木透 写真
                       長 新太 文
                        福音館書店



            23.うちがいっけんあったとさ

 1ページ目には まるでフラダンスを踊ってるような(手を横に挙げ ちょっぴり腰を
 ひねって)なんだか滑稽な格好をした男の子が からし色のページの右下に
 描かれています。
 
    ちん とん しゃん
 
 もういきなり 「やられたあぁー」って 感じですね。
 毎晩 寝る前にふとんに入って 息子に絵本を読むのが日課だったのですが、
 この時は、息子が思わずふとんから飛び出して 同じように
 「ちん とん しゃん」と
 しなを作ってやって見せてくれたのには 笑いました。
 
    うちが いっけん あったとさ
    りすのうちではありません
    ろばのうちでもありません
    ーしりたかったら さがしてごらんー
    どこのとおりにあるのかな
    どこのよこちょうにあるのかな
    ぼくだけしってるうちなのさ
 
 全ページからし色で、そこに ぼくの想像の世界からやって来る動物たちが
 黒でペン書きされています。
 かめに うさぎに おおおとこ それから さるにスカンク ライオンじいさん
 ぼくは青いズボンをはいて白抜きで描かれています。
 現実のぼくと想像の彼らとが、このうちの中で 飛んで 笑って 歌って 跳ねて
 いつもなら 「そんなことしちゃだめ!」と お母さんにしかられるようなことでも、
 このうちでなら やりたい放題。
 
    もっとやれ もっとやれ もっとやれ もっとやれ
 
 息子は再びふとんからはい出して、ふとんの上を 跳ねる 跳ねる
 「もっとやれ もっとやれ もっとやれ もっとやれ」
 
    それは まんなかのまんなか
    まんなかのなかのなか
    ぼくのあたまの なかのまんなか
 
 またしても 「やられたあぁー」って 感じです。
 
    てれつくてんてん すててん てん
 
 指を口に置いて 笑いながら振り返るぼくの姿の なんとかわいらしいこと

                  ルース・クラウス 作
                  モーリス・センダック 絵
                    岩波音館書店


           (英語版で載っていますが、日本語版もあります。)
 








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             22.げんきなマドレーヌ

 マドレーヌほど 天真爛漫という表現がピッタリな女の子はいないのではないでしょうか。
 
    パリの、つたの からんだ
    ある ふるい やしきに、
 
    12にんの おんなのこが、くらしていました。
 
    2れつになって、 パンを たべ、
 
    2れつになって、はを みがき、
    
    2れつになって、やすみました。
 
 テキストの語り口は、とても軽快です。
 
    いいこと みれば、にこにこがお、   (ほんと にこにこしてる)
    
    わるいことには、しかめっつら、     (しかめっつら してる してる)
 
    むねの いたむことも ありました。  (これは これは なんとも言えない顔ですね)
 
 ベーメルマンスの絵は、一見無雑作のようですが、なんとも言えない味わいがあって
 ユーモアがあり シャレています。
 全体は、明るい黄色に 黒だけで描かれた水彩画ですが、
 ところどころ 色を使ったページがあり、
 見返しのコンコルド広場をはじめ、オペラ座 ノートルダム寺院 リュクサンブール公園
 など など
 美しいパリの街が描かれ、うっとりしてしまいます。
 
 お話は、盲腸になって入院したマドレーヌですが、
 マドレーヌは、その入院をなんと楽しんだことでしょう。
 盲腸の傷跡を、お見舞いに来たみんなに見せるマドレーヌの 誇らしげなこと。
 
 その晩、屋敷で何が起こったか・・・・・
 ベッドで休む11人の女の子が 両手を頭の下に置き なんだかたくらんでるような顔が
 私は 好きだなぁ。
 
 ほんとに 楽しくて 素敵な絵本です。

              ルドウィッヒ・ベーメルマンス 作・画
                        瀬田貞二 訳
                         福音館書店 
 









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              21.にぐるまひいて

 クーニーの絵本の中でも、ドナルド・ホールが詩を書いている この「にぐるまひいて」は絶品です。
 ニューイングランドに住む家族が、四季の恵みを受けて 作り育てるという生活が淡々と語られています。
 しかし その生活のなんと健康で、愛に溢れていることでしょう。
 
 一年かかって作り育てたものを 荷車いっぱいに積み込んでとうさんは 市場へ売りに行きます。
 
   おかを こえ たにを ぬけ おがわを たどり
   のうじょうや むらを いくつも すぎて
   ようやくのこと ポーツマスの いちばへ ついた
 
 このニューイングランド地方の 10月の風景の美しいこと。
 絵は見開きで、下には大きく余白をとっています。
 それまでずっと片側1ページの挿絵だったのがここで横に細長い構図となり、これから父さんが向かう
 ポーツマスまでの長い旅が感じられます。
 
 こうして父さんは 持ってきたものを何もかも売ります。本当に何もかも。
 空の荷車も、牛も、牛のくびきと手綱さえ。
 はじめてこの本を読んだ時、私はこの潔さに感動しました。
 
 それから父さんは、それらを売ったお金で、鉄の鍋と、娘には刺繍針と、
 息子にはバーロウナイフを買い、そして みんなで食べるはっかキャンディを買って、
 また10日がかりで家へ帰ります。
 娘はもらった針で 刺繍をはじめ、息子はナイフで 木を削りはじめ、
 新しい鍋で 夕飯を作り みんなではっかキャンディをなめる。
 そして父さんは 若牛のために、新しい手綱を編みます。また一年のはじまりです。
 
 この絵本を読み終わると、静かだけれど しっかりと自然と共に生きる
 人間本来の姿を強く感じます。そして 繰り返す美しさを。
 息子達はこの絵本がとても好きでした。ものが溢れる時代で、
 このような生活とはもう無縁になってしまっているのに なぜだろうと思いました。
 けれど、人間はその根本は忘れていないのだと思いました。

              ドナルド・ホール 文
                 バーバラ・クーニー 絵
                   もき かずこ やく
                      ほるぷ出版
 

                20.赤い目のドラゴン

 10月になると開く本が もう一冊あります。 それが 「赤い目のドラゴン」です。 
  
   わたしが小さかったころのこと、うちに ドラゴンがいました。
 
 お話は わたしの回想で(始めから終わりまで) いきなり「わたし」に引っ張られ
 ファンタジーの中に入り込んでしまいます。
 
 赤いぐりぐり目玉にドラゴンの顔は愛嬌があります。
 ちょっぴり気が強くて、豚のえさ箱の中で嬉しそうに泳いだり、
 時には訳もなくふてくされたりするドラゴン。
 
 わたしとおとうとは、お母さん豚が子豚たちをかわいがるように、ドラゴンの世話をします。
 息子は、ドラゴンがロウソクとかひもとかコルクを食べるというのが、
 とても驚いたようでした。(実は私もでしたが)
  
   まいとし 十月二日になると、わたしは ドラゴンといっしょにすごした
   子どものころをおもいだします。なぜなら、その日、ドラゴンがいなくなったからです。
 
 はじめドラゴンの体の緑色は、少々どぎつくていただけないなと思いましたが、
 夕日に向かって 高く高く舞い上がり 飛んでいくドラゴンの姿は、
 真っ赤な夕日に映えて とても綺麗です。
 そして ひと言もしゃべらなかったドラゴンが、はるか彼方の空から、
 澄み切った綺麗な声で歌ったのです。
 
   わたしは そのばん、本をよみませんでした。おふとんを
   すっぽりかぶって、赤い目をしたみどりいろの わたしたちの
   ドラゴンのことをかんがえて、なきました。
 
 はじめは「わたし」に引っ張られお話の世界に入っていたのが、
 おしまいには いつのまにか「わたし自身」になっていたのに気づくのでした。

              
リンドグレーン 文 ヴィークランド 絵
                     ヤンソン由美子 訳
                        岩波書店







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       19.つきのひかりのとらとーら


   どのページも 見開きいっぱいに描かれていて、迫力のある大胆な構図で
 驚かされます。
そこには、ジェシカの心の動きが、ドキッとするような素晴らしい絵で
 表現され、胸に迫ってきます。
 
   ママに また しかられた。マイケルのせいよ。ほんを よんでくれないよ、ってすぐ
   なくんだもの。とらとーらのために おうちを つくっていたのに、ママは ジェシカの
   いうことなんか きいてくれないの。
 
 テキストは、ジェシカの独り言で語られています。
 お姉ちゃんやお兄ちゃんと言われる子にとっては 誰でも思い当たることです。
 でも、健やかな子どもというのは、きちんとその不満を処理する術を知っています。
 ぬいぐるみのとらとーらが、猛々しい虎となって、ジェシカの前に現れます。
 その目は、月の光のように金色に輝き、ふさふさした毛も、鋭い牙もリアルです。
 ジェシカは とらとーらの背に乗って、夜空へ飛び出し、世界を駆けめぐります。
 そして、思いっきり心を解放したジェシカは 満足し、落ち着きを取り戻します。

 とらとーらが、「おとうとを たべてあげようか」と言うところが、
 私の一番好きなところです。
 でも もう落ち着きを取り戻したジェシカは言います。

   「ううん、いいの。マイケルは まだこどもだから すぐ ないちゃうのよ。なかなければ、
   いっしょに あそべるってこと、ジェシカが おしえてあげるわ」
 
 とらとーらは まぎれもなく ジェシカ自身。
 自分自身に語り、問いかけ、そして答を出します。
 子どもの成長の素晴らしさを感じます。
  
 私自身は 「とらとーら」と言う響きに ちょっと惹かれたところがあったのですが、
 もっとかわいい話かと思った。と言ったのは 息子の弁。
 この絵に対して、この題は合わないと思っていたそうです。
 う〜ん、確かに。やはり 子どもの感性には及びません。
 ちなみに、原題は、「MOON TIGER」です。


               フィリス・ルート 文
                    エド・ヤング 絵
                     野中しぎ 訳

                 福武書店

           18.つきのぼうや

 19歳の時 金沢の福音館書店でこの絵本を買いました。
 思えばこれが 自分で絵本を買った最初でした。
 絵本の形のおもしろさに惹かれて 手に取ったように思います。
 横12,5p 縦34pの細長い絵本をめくると、月のぼうやが
 お月さまに頼まれて、もう一人のお月さまを探しに 上から下へ下へと
 お話が進んでいくのが 単純だけどとても楽しいと思いました。

 月のぼうやは お月さまに似た いろんな丸いものに出会います。
 特に町の通りでは、丸い顔の人たち、丸い体格の男の人に女の人、
 それに男の人が連れている犬、マンホールのふたに、子どもが食べてるおせんべい
 店先に並んでいる野菜や果物・・・・・
 このページでは しばし止まって 丸いものを探すのに夢中になります。
  子どもができて、またこの絵本を開いた時はとても嬉しかったです。
 最後のページは ボロボロになってしまい、セロテープ貼り貼りの
 無惨な姿になってしまいましたが、それだけ一緒に楽しんだと言うことでしょうか・・・
 そうそう もうひとりのお月さまって、実は 水の底に落ちていた
 手鏡だったんですけどね。


            イブ・スパング・オルセン 作・絵
                   やまのうちきよこ 訳
                     福音館書店

   


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                 17.すばらしいとき

 今回は、大型本ならではの、絵の素晴らしさを堪能できる絵本です。
  
 マクロスキー一家が過ごす メイン州のベノブスコット湾の美しい入り江に浮かぶ
 小島での春から秋にかけての様子を、
 その素晴らしい自然を縦糸に、大いなる時の流れと それらに抱かれた人間や
 あらゆる生き物の営みを横糸に描かれています。
 テキストは、マクロスキー自身の 娘たちへの語りかけとなっていて、
 散文詩を読んでいるようです。
 読み手は、常に この父の目線で、ある時は、メインの島々を眺めおろす高台にいたり、
 ある時は、なぎさから霧の林を見ていたり....そして、そこには、いつも2人の娘の姿
 があって、娘たちへの深い愛情が伺えます。
 
 本当に どのページも、画家マクロスキーの豊かで、確かな絵があり、ため息が出ます。
 子どもたちが岩の上から海へ飛び込んで遊んでいるページは、楽しそうで、
 今にも子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきそうです。
 それに、嵐の夜の絵の素晴らしいこと。
 自然の持つエネルギーのすごさを、ひしひしと感じます。

 とにかく懐の大きな絵本です。
 是非、夏に読んでみて下さい。きっと メインに行ってみたくなりますよ。


                    ロバート.マックロスキー 文 絵
                        渡辺茂男 訳
                         福音館書店

 
               16.ねこのオーランドー 

 大型本の中でも さらに大きなこの絵本は、我が家の本棚にはまっすぐは入らず、
 いつも横になっています。

 ママレード色のねこのオーランドーがギターを弾いている表紙の絵は、
 ねことは言っても、同じねこ科のヒョウかトラのような野性味に溢れています。
 そしてそのママレード色は とても綺麗で(美味しそうで?)

   そのしまもようときたら それこそ ママレードにはいっている オレンジの皮に
   そっくりでした。

 と書いてある通り どのぺーじも このママレード色が基調となって、明るい絵に
 なっています。
 石版画の持つ 味わいのある絵が、古き良き時代を思わせ、この大判の絵本の中で、
 たっぷり楽しめます。
 それになんと言っても、オーランドーのおとうさんぶりがとても素敵です。
 こねこたちに (こねこの名前は、三毛のパンジー 雪のように真っ白なブランシュ
 石炭みたいに黒いティンクルの3匹です) 魚の取り方を教えたり(これがなかなか
 ユニークな取り方で...)ハイキングに連れて行ったり 川でこねこたちを遊ばせたり
 キャンプファイアーを焚いて みんなで演奏したり.....
 あーー キャンプに行きたくなってきたぁーー。
 
 楽しいページ満載で、オーランドーが殺虫剤をまいているときに こねこたちが、
 両手で目を押さえて殺虫剤がはいらないようにしているところや(この殺虫剤の
 容器カナリ懐かしい代物です)
 犬がやってきたので、岩の後ろに隠れて しっぽの先だけのぞかせ毛虫のように
 見せて犬を追い返したり
 絵はがきを出すのに 切手をなめて貼ろうとすると ひげにばっかりくっついて
 四苦八苦してる様子など など 本当に細かいところまで楽しめます。
 タイトルページに始まり そのあとも チョコチョコ顔を出す カブトムシやバッタや
 毛虫 ミミズ アリといった生き物たちも おざなりでなく書かれています。

 オーランドー一家が、キャンプした場所の地図が見開きで描かれているページは、
 子どもは大好きで、その先のページでは、今度は立体的な風景として描かれていて、
 何度もページをひっくり返しては楽しみました。5センチ=100メートルと
 記されているところが 心憎いです。

 見返しに描かれた、5匹の足跡も楽しく(紹介していませんでしたが、オーランドーには
 グレイスというオシャレで素敵な奥さんがいます)オーランドーとグレイスの足跡は
 その大きさからすぐにわかるのですが、私が、こねこたち3匹はどれがどれか
 迷っていると、子どもは即、パンジーに、ブランシュに、ティンクル、と答えて
 しまうところが、やっぱり子どもにはかなわないところだなあと、思ってしまうのでした。

 こちらも夏のおすすめの1冊です。

                          キャスリーン.ヘイル 作 画
                              脇 明子 訳
                               福音館書店 











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         15.トロールものがたり
 

 古本屋でこの本を手にした時、なにか不思議な魅力を感じました。
 けっして派手でなく、むしろ地味な表紙なのですが、そこに描かれた奇妙な生き物たち。
 そして、その生き物たちで描かれた 「Trolls」というタイトル。
 読んでみると なるほど そこには 不思議なトロールたちの世界がありました。
 でも、読むと30分以上かかる長い本なので、子どもたちがついてくるのか不安でしたが、
 しっかりとこの不思議の世界に入り込んだようでした。
 
 トロールといえば、がらがらどんに出てくるトロールしか知らなかったのですが、
 山のトロール、森のトロール、水のトロール、十二頭のトロール、それに
 ハルダーの娘たちや、地の精のノーム族と いろいろなトロールが紹介され、
 それらにまつわるお話も、おもしろく、興味深く書かれています。
 私が中でも心惹かれたのは、トロールの目についてのお話です。
 トロールの目の中には、「トロールとげ」があって、あらゆるものを歪んで見せるのです。
 明るいところが暗く、暗いところが明るく、醜いものが美しく、美しいものが醜く
 うつるのです。
 そして、太陽の光を浴びると 体がひび割れ、石になってしまうトロールは、その時、
 「トロールとげ」をあたりにまき散らします。
 トロールとげが目に入った人たちは、良いことが悪く見え、悪いことがよく見えるのです。
 彼らは、自分の目の中の「トロールとげ」に気づいていないし、誰にもとげは見えません。
 そして最後に こう綴っています。
 
    でも、「トロールとげ」が、たしかにこの世の中にあることを、
    あなたは、ごぞんじのはずですが.....

 「ねこのオーランドー」もそうでしたが、この「トロールものがたり」も石版画で、
 素朴な美しさが、大判の絵本の中に広がっています。

             
             イングリ.M.ダウレア エドガー.P.ダウレア 作
                       へんみ まさなお 訳

                          ほるぷ出版

   
 

 
 
               14.ピーターラビットのおはなし 

 よい絵本には嘘がなく まっすぐ真実を語ってくれます。
 ピーターのお母さんは言います。
   「おひゃくしょうのマグレガーさんとこの はたけにだけは いっちゃいけませんよ。
    おまえたちのおとうさんは、あそこで じこにあって、マグレガーさんのおくさんに
    にくのパイにされてしまったんです」
 うさぎが生きていくための危険を、きちんと教えています。
  
 でも、ピーターは たいへんないたずらっ子でしたから もちろん マグレガーさんの畑
 に入っていきました。
 冒険好きの子どもなら もちろん共感するでしょう。それにうさぎですから、
 やっぱりレタスは食べたいですからね。
 
 そして案の定、マグレガーさんにぱったり出くわしたときのピーターの後ろ姿。
 私はこの時のピーターの顔を、後ろ姿ではありますが、とてもよく想像することが
 できます。(ポターの絵が ちゃんと教えてくれてます)

 そのあと、マグレガーさんに追いかけ回され、すぐりの木にかけてある網に
 引っかかってしまったピーターの哀れな姿。 でも、なんてかわいいこと。
 マグレガーさんは、お百姓さんとして当然のことをしただけですからね。

 マグレガーさんはかかしに  ピーターが落としていった上着を着せ くつを履かせ
 ます。(でもこのかかし くろなきどりを追い払う役のはずなのに、鳥がいっぱい
 集まって来ています。みんな「この服に見覚えあるぞ」と言った風に見ています)
 けれど ピーターは この上着をまた取り戻すことができるんですよ。
 どうしてか知りたい人は、「ベンジャミンバニーのおはなし」を 読んで下さい。
 何てったって、この上着は、ピーターのトレードマークですからね。

 今や ピーターラビットを知らない人はいないのではと思うくらい ピーターは有名な
 うさぎですが はたして そのおはなしを知ってる人はどれくらいいるのかしら と
 思うときがあります。」
 手のひらにのるほどの小さな絵本ですが、この中には イギリスの美しい田園風景と
 そこに住む動物たちのなんと豊かなおはなしが広がっていることでしょう。
 この本が生まれてもう100年もたっているのに、色あせずに読みつがれているなんて
 ポターという作家を 尊敬せずにはいられません。

                  ビアトリクス.ポター さく.え
                         いしい ももこ やく
                            福音館

 








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             13.モペットちゃんのおはなし
 

 ポターの絵は 写実的でありながら 表情が豊かで、その性格までしっかり
 描いています。

 モペットちゃんのおはなしは単純で 幼い子どもたちでも十分楽しめるお話です。
 けれど 今思い返すと 私は、絵のかわいらしさだけでもう満足してしまって、
 もっと豊かな楽しさを理解せず 子どもに読んでやっていたような気がします。
 子どもがどんな風に聞いたか、あまり記憶がないのです。残念なことです。

 服を着た動物たちではあっても、ねこはねこの、ねずみはねずみの生態を
 しっかりなしています。
 ねずみに飛びかかるときのモペットちゃんは、まさに ねこがねずみを捕まえる
 ときのそれですからね。

 ねずみにからかわれ、こんどはじぶんがねずみをからかってやる と考える
 モペットちゃんを、ポターは「あまりかんしんできませんね」と文章を添えています。
 ポターはいつもこんなふうに、自分を登場させています。
 だからよけいこの動物たちが、作り物じゃない 現実感を持って、私たちに
 訴えかけてくるのでしょうね。

 でも子どもたちは、このかわいくて ちょっぴりお馬鹿なモペットちゃんを、
 きっと好きになると思います。

                  ビアトリクス.ポター さく.え
                         いしいももこ やく
                            福音館
             
                12.2ひきのわるいねずみのおはなし
 

 実は私は、ピーターラビットのおはなしのシリーズの中では この「2ひきのわるい
 ねずみのおはなし」が 一番好きなんです。
 ねずみと 人形と 人間が これほどおもしろく絡み合って しかも嘘のないお話が
 ほかにあるでしょうか。

 まずは、この人形たちの紹介の愉快なこと。
 人形の家の主人の ルシンダとジェイン。ポターはこう書いています。
 
   「いえ、ジェインは ともかく、ルシンダは たしかにしゅじんでした。
    でも、ルシンダは ごはんのしたくをしなさいと いいつけたことは、
    1どもありません。
     ジェインは コックさんでした。でも 1ども おりょうりをしたことは
    ありません。おりょうりは、ちゃんとできあがって、かんなくずのはいった
    はこにいれられて、よそから とどいていました。」

 ありのままを書いただけの このおかしさ!

 そして、人形たちのいない間に この作り物のごちそうを食べようと、トム.サムと
 ハンカ.マンカという ねずみの夫婦の格闘ぶりはけっさくです。

 ハムを切ろうとしましたが、ナイフがくにゃっと曲がって、手を痛くして 指をなめる
 トム.サムの様子は、いたずらな子どもみたいです。
 ごちそうがどれも土でできたものだとわかったときの 2匹のいたずらぶり!
 プティングも えびも なしも オレンジも こなごなにし、
 お皿にくっついているお魚を 火の中へほおりこみます。

   「けれど その火は、ちりめんがみでできていたので、おさかなは
    こげもしませんでした。」

 おかしい!

 ポターの絵本の素晴らしいところは、テキストに書かれていないことも さりげなく
 絵で語っているところです。
 さんざんいたずらされた 人形の家の持ち主の女の子は、
 「あたし、じゅんさのふくをきたにんぎょうを かうことにするわ!」と いい
 お手伝いの人は、
 「わたしは ねずみとりをかけますよ!」と いいます。
 そして、前者の方には、ハンカ.マンカがこねずみを抱き上げてじゅんさ人形に
 挨拶しているような絵があり、後者には、トムサムが 子どもたちに
 「このねずみ取りには 絶対さわっちゃいけないよ」と 注意している絵があります。
 つまり このどちらでも、ねずみは捕まらなかった ということでしょうか。

 今回 よくばって ポターの絵本を3冊も紹介しましたが、ポターの絵本のすばらしさは
 私のつたない文章では、とても 伝えることができません。
 とにかく 読んでみて下さい と思うだけです。

   
                         ビアトリクス.ポター さく え
                            いしい ももこ やく
                               福音館

 













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               11.雨、あめ
 

 6月になると、「木はいいなあ」に変わって部屋に飾るのが、
 この「雨、あめ」です。
 梅雨のうっとうしい季節も この本を見ていると 楽しい気持ちになります。
 好きなページが色々あって、どのページを飾るか いつも息子ともめます。
 見開きいっぱいに 雨が作る水たまの絵 このページが 
 私はとても好きです。

 字がひとつもない絵本(そう、まさに絵本です)ですが、
 ピーター・スピアーの絵は たくさんのことを語ってくれます。
 
 「そうそう、雨が降ったらこんなふうになるんだよね」
 
 「あーこんなことして雨の中で遊びたい」

 そんなこと言いながら、子どもと一緒にお話を作って 読み進んでいくのも
 また楽し!です。

     (絵本の大きさは、実物は、もう少し横幅があります)


              ピーター・スピアー 作
                     評論社


               
                  10.ヘルガの持参金

 大きな鼻に むき出しの歯 そしてしっぽ
 なるほど、これがトロールの証なのね。と、このユーモラスな主人公に
 とても親しみがわきます。
 「怖くないトロールだね」と 息子。
 
 持参金がなければ結婚できないと言うお話の設定にも惹きつけられます。
 「持参金ってなに?」と また息子。

 身よりのない貧しいヘルガは、愚かな人間を相手に、商売をはじめ、
 自分で持参金を稼ぎます。その時の、私が好きなヘルガのセリフ、
    「ふん!なぜ このあたしが こんなところにすわりこんで、
     ふくれっつらしてなくちゃならないのさ?・・・・・・・・・・・ 
     ・・・・・・・じぶんで持参金ぐらい かせいでみせるわ」
 
 自分の力を信じて、けっしてくよくよしないで 自分の人生を切り拓く
 主人公が、主人公たるところです。

 ヘルガが、大きな丸い石に変身するところは愉快で、
 おへちゃのインジとの戦いはすさまじく そのすさまじさが
 またおもしろくもあります。

 たくさんの持参金を手にしたヘルガに、ラースは求婚しますが、
 持参金にしか興味がなかったラースに言う 
 これまた 私の好きなヘルガのセリフ。
    「あんたが この世でたったひとりのこった トロールの男だとしても、
     あたし 結婚なんて まっぴらだわ。」

 そしてこのあと、なんとヘルガのことを見ていたトロールの王さまが
 ヘルガにプロポーズするのです。
 この王さまが、絵本の中で あちこちに現れているのを見つけるのも
 また楽しです。

 色づかいはパステル調で、とてもきれいです。(見返しのブルーの美しいこと)
 全ページに描かれているふちどりが絵本を引き締め、
 いっそう楽しくしています。

                  トミー・デ・パオラ 作
                        ゆあさ ふみえ 訳

                      ほるぷ出版
 







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            9.ひよことあひるのこ


 残念ながら、私がこの絵本と出会ったのは、もう息子達がかなり大きく
 なってからでした。もっと小さい頃に出会っていたら、どんなに楽しんだ
 だろうと思います。

 このあひるとひよこのこを見てると、まるで息子2人を見ているようで
 おかしくてなりません。だから私は、子どもが大きくなった今でも、
 楽しいのですが。
  (どこの母親も、うちの子たちだは と思うのでしょうが)
 
 アルエーゴ夫妻の絵は、ほんとに楽しくて最高です。
 独特の線と、色づかい。
 不思議な花や、蝶々も、白地が多い中で、とてもはえています。
 それになんと言っても、あひるとひよこの表情がたまりません。
 (特に目が!)

 お話は、表紙をめくった タイトルが描かれているページから
 もう始まっています。テキストが始まるのは、そのさらに3ページ先です。
 でも絵がしっかり語ってくれます。

     あひるのこが たまごから でてきて
     いいました。 「ぼくでたぞ!」

     ひよこも いいました。 「ぼくも」

 この 「ぼくでたぞ!」 「ぼくも」というセリフも傑作です。
 
 このあと あひるのこが「ぼくさんぽにいこう」「ぼくあなほりしよう」
 「ぼくみみずみーつけた」と次々に新しいことをやってのけます。
 そのたびにひよこも 「ぼくも」と言ってついていきます。
 本当にカワイイったらありゃしない。(それでいて滑稽です)

 この繰り返しがあって、はて さて 最後は・・・・・・・・・。
 何度読んでも楽しい絵本です。

            ミラ・ギンズバーグ ぶん
            ホセ・アルエーゴ え
            エーリアン・アルエーゴ え

              さとう としお やく
               アリス館

       8.ロバのシルベスターとまほうのこいし


 シルベスターの家族がロバであるということ、それがまず、このお話の
 設定のうまさだと思います。ウイリアム・スタイグは、いろいろな動物を
 主人公にした絵本をかいていますが、どれもそのお話にピッタリの動物
 達です。ロバのおっとりして、どこかユーモラスなところが、このお話を
 重苦しくなりすぎずに 子ども達を惹きつけているように思います。
 そして、シルベスター一家の本当に温かなことに、子どもは、安らぎを
 感じることでしょう。

 お話の始まりは、シルベスターが 赤く光る小石を見つけたところから
 はじまります。それは、何でものぞみがかなう魔法の小石だったのです。
 ところが、家に帰る途中、ライオンに会い 恐ろしさのあまり
 「ぼくは いわになりたい」と願ってしまうのです。

 いちご山の岩となってしまったシルベスターは、誰にも見つけられず、
 季節はめぐります。
 そのいちご山の自然の美しいこと。

 息子を失って、悲しみに暮れるダンカンさん夫婦には、胸が痛みます。

 けれども、シルベスターが元の姿に戻って、喜びのあまり、
 おとうさんが我を忘れて踊る姿が、私は好きです。
 そして最後のページ
      
      みんなはやっとおちついて、うちにかえりました。ダンカンさん
     は、まほうの小石を、てつのきんこにしまいました。いつかは ま
     ほうがつかいたくなるでしょうが、いまのところ、のぞむことがあ
     りませんでした。みんなののぞみが すっかりたりたのですから。

 シルベスターをひざにのせて3人でだきあう 幸せな一家の絵。
 私の感動の一冊です。 

                     ウイリアム・スタイグ

                  せた ていじ やく
                   評論社

















               7.どうながのプレッツェル


           5がつのあるあさ
    5ひきの ダックスフントのこいぬが うまれました。
 
 で始まるこの絵本が、子ども達は大好きでした。
 青と黄色、それにプレッツェルの茶色がとても印象的です。
 プレッツェルの胴体が、ずんずん伸びて、見開きいっぱいのページの
 プレッツェルには、「すごーい」のひと言。感激です。
 (だって、これほど胴の長いダックスフントを、これまで私は知りません)
 パンのプレッツェルにそっくりに、体をくねらせるプレッツェルの芸当には、
 楽しくて、思わず拍手。後ろのパン屋さんのショーウィンドーに、パンの
 プレッツェルが小さく描いてあるのをみつけた息子は、大喜びでした。
 私も、その後パン屋に行くたびに、「おお、プレッツェルだあー」と、
 奇妙に感激したりしておりました。

 プレッツェルは大好きなグレタに、骨や、ボールをプレゼントしたり、
 芸当を見せたりして、何度も結婚を申し込むのに、
 「どうながなんてきらいなの」と断られます。
 でもちっとも卑屈にならずに、明るくて前向きです。
 グレタを深い穴の中から助け出し、とうとうプロポーズをOKして
 もらいますが、その時のグレタの言葉は、
    「でも あなたがどうながだからけっこんするんじゃないのよ」 です。
 結婚という大きなテーマを、これほど明解に子どもに語ってくれる絵本は、
 ないように思います。
 きれいな青空の下、いろいろな種類の犬のカップルに祝福されて先頭を歩く
 プレッツェルとグレタは、幸せそうです。


              マーグレット・レイ 文 H・A・レイ 絵
              わたなべしげお 訳
                 福音館書店

  
                 6. 木はいいなあ


 5月になると必ず部屋に飾るのが、この本です。
 緑の葉を茂らせた林の絵を見ていると、自分もそこにいるようで、
 心の中まで森林浴ができます。
 夏の太陽が照りつける山の木々のページでは、
 尾瀬の沼山からキリンテに行く途中のブナ平を思い出します。
 (これ、かなり個人的なんですけど)

 木があるところでは、牛も馬も、犬も猫も、大人も子どもも楽しく、
 そしてまた、ゆったりと暮らしています。
 本当に「木はいいなあ」と心から思える絵本です。
 無造作に描かれたようでいて、しっかりとした線は、のびやかで
 気持ちがいいです。
 少し細身の本のサイズも、しゃれています。
 どのページも、自分がそこにいる感をもてる、大好きな絵本です。

                  ユードリイ 作 シーモント 絵
                さいおんじさちこ 訳
                   偕成社













            
                5.もりのなか


 思えば 私の中で 本当の意味での絵本との出会いは この「もりのなか」
 だったように思います。
 上の子が生まれて そのお祝いにと頂いたのが エッツの「もりのなか」と
 「わたしとあそんで」でした。
 私自身は最初 エッツという作家も知りませんでしたし この絵本の良さが
 あまりわかっていませんでした。が、2歳になった息子は 毎晩この本を
 読んでくれとせがみました。
    
   ぼくは、かみの ぼうしを かぶり、あたらしい ラッパを もって、
   もりへ、さんぽに でかけました。

 それは まぎれもないファンタジーの世界です。
 髪をとかしたライオンや せーたーとくつを履いた2匹のぞうの子や 
 陽気なさる と言った独創的な動物たちと一緒に
 息子自身がぼくになり もりをさんぽしていたのでしょう。
 
 もりで動物たちとたっぷり遊んで 最後にかくれんぼでおにになった
 ぼくの所へ、おとうさんが迎えにきてくれます。
 「どうぶつたちは みんな かくれてるの」と言うぼくに
 「だけど、もう おそいよ。うちへ かえらなくっちゃ」「きっと、またこんどまで
 まっててくれるよ」と おとうさんは言います。
 なんて素敵なおとうさん!
 コンテだけで描かれたもりは深くて静かです。
 けっして明るく楽しい絵本というのではないけれど、どこか心の奥で、
 安らぎを感じていたのかもしれません。

            マリー・ホール・エッツ 文 まさき るりこ 訳
                   福音館書店
         
                4.ふわふわしっぽと小さな金のくつ

 ふわふわしっぽの夢は、イースター・バニーになることです。
 イースター・バニーというのはイースターの前日の日没から夜明けの間に 
 子ども達に卵を届ける役目の 心優しくて 賢く 足の速いうさぎのことです。
  
 この本を初めて手に取ったとき なんてやさしくて綺麗な色の本だろう
 と思いました。ふわふわしっぽを中心に、21匹の子ども達が一列に並び
 耳をピント立て、しゃんと立ってる絵は心に残る絵です。
 ふわふわしっぽが どんなに素敵なおかあさんかがわかります。
 21匹の子ども達が描かれているページにくるたびに息子は、
 「1、2,3,・・・・・」と数え ちゃんと21匹いると安心したように見ていました。
 子育てを一生懸命してきたふわふわしっぽが、イースター・バニーに
 選ばれたことは私も同じ母親として とても嬉しい気持ちになりました。
 
 夜の闇と月に照らされた雪と氷の山が描かれているページは、
 余白も美しく、金のくつを履き 綺麗な卵を持って山を飛び上がるときの
 ふわふわしっぽの顔は、おかあさんではなく 夢を忘れなかった
 子どもの頃そのままの少女のうさぎです。  
 春分の日のあとの満月の次にくる日曜日、イエスの復活をお祝いして行う
 イースター。
 私はキリスト教徒ではないけれど、何か敬虔な気持ちにもなる絵本です。

           デュ・ボウズ・ヘイワード 作 マージョリー・フラック 絵
             羽島葉子 訳       パルコ出版










         
                 3.ロバのおうじ

 はじめてこの本を、子どもに読んであげた時は、最後は声が詰まって 
 困りました。
 クーニーの絵がとても美しく、ロバの王子が本当に健気で愛らしいのです。
 岩に腰掛け 夜空の星や月に向かってリュートを弾くところでは、
 本当に、その音色が聞こえてくるようです。

 ロバの姿から 美しい若者になって、「しんじられない!これがぼくなのか!」
 という王子に「そうよ。あなたは すてきだわ。でも そんなことなら わたし
 はじめからしっていてよ。なぜ あなたが あんな ばかげた ロバのかわを   
 かぶっていたのか ふしぎなくらいよ」と言った、おひめさまの言葉は 
 大感動でした。
 読むと20分位かかる絵本ですが、まだ小さかった息子たちも
 黙って聞き入った 一冊でした。

           グリム童話より M・ジーン・クレイグ 再話
          バーバラ・クーニー 絵 もき かずこ 訳  ほるぷ出版
              
             2.きみなんか だいきらいさ


 縦15センチ 横14センチの この小さな本には、もうそれだけで
 手に取らずにはいられない魅力があります。
 特に私の好きなページは、仲良しだったジェームズに、ぼく(ジョン)が、
 「でも きょうは ちがう。ジェームズなんか だいきらいさ」という 
 見開きのページ。
 背中向きの二人の間の白い空間。こんな小さな絵本の中なのに 
 今日の二人の距離を すごく感じることができるんです。
 絵本にはこの場面が3回出てきます。
 う〜ん、センダックって やっぱり うまいなあー。
 そして 息子たちと 大受けしたのが、絶好宣言したジョンが、
 「さいならあ!」と怒鳴り、ジェームズも これにまた「さいならあ!」
 と怒鳴り返す場面。
 これは しばらく 我が家のブームになって、「さいならあ!」を
 連発しておりました。
 それでも 最後は 仲直りして クッキーをはんぶんこする二人。
 私も クルクルクッキー 食べてみたくなったのでした。
           
              ジャニス・メイ・ユードリー 文
            モーリス・センダック 絵 こだま ともこ 訳 冨山房









              1.あおい目のこねこ 

 少し厚い本なのですが、ページをめくると 1のまき と書いてあり
 その下には 青い目のこねこの顔と 魚の絵があります。
 これでもう 心はワク ワク。7のまきまでつづきます。
 そして 何より エゴン・マチーセンの描く 青い目のこねこは 
 本当に魅力的です。
 「ふつうのいいねこは きいろい目だまなんだよ」と 仲間はずれにされ 
 ちょっと気になる 青い目のこねこ。
    「そういわれて、こねこは、いけにいって、
     水にかおをうつしてみました。
     青い目はきれいだし、
     かおもへんてこではありません。」
 もう 最高。明るくって たくましくて 元気いっぱいの 青い目のこねこを
 好きにならない人はいないでしょう。
 こねこを乗せた犬が、斜め線一本でかかれた山を、のぼったりくだったり 
 6ページも繰り返すところは、みんな大喜びすること 間違いなし。

             エゴン・マチーセン 作 瀬田貞二 訳  
                         福音館書店