ケニア 市場、輸送路、保管施設の欠如で大量の収穫後損失 トウモロコシは畑で腐り 牛乳は廃棄

農業情報研究所(WAPIC)

10.3.11

  一部国民が飢えに苦しむなか、市場、輸送路、保管施設の欠如のために、ケニア農民が国中至るところで、大量の収穫物を畑で腐らせ、あるいは廃棄せざるを得なくなっている。

 Kenyans starve as food worth millions of shillings rots,The Nation,3.9
 http://www.nation.co.ke/News/Kenyans%20starve%20as%20food%20worth%20millions%20of%20shillings%20rots%20%20/-/1056/876224/-/oxqladz/-/index.html

 なかでもタナ川県ホナ灌漑計画地域の状況はひどい。この計画は、経済刺激計画の下、キバキ大統領とオディンガ首相が昨年復活させたものだ。この計画のおかげで、トウモロコシ農民はこの20年で初めての大豊作に恵まれた。ところが、国家穀物ボード(NCPB)が収穫物を買い上げられない。この計画で生産された200トンのトウモロコシが腐っている。農民は、これが3ヵ月前にトウモロコシ生産を奨励したの政府なのかと不信を募らせる。ホラ農民協同組合の農民によると、NCPBにトウモロコシを売るあらゆる努力は失敗に帰し、ナイロビの農業省に代表者を送って買い入れるよう要請したが、これも無駄だった。

 組合加入農民は850エーカー(340ヘクタール)でトウモロコシを作った。保管庫には3000袋(1袋90kg)しか入れられない。大量のトウモロコシがまだ畑にあり、腐りはじめている。アフラトキシン汚染のリスクもある。検査され、人の消費が認められたとしても、湿気にさらされ続けるなどすれば、すぐにも汚染される恐れがある。学費も払えないから、子供は家に戻しているという。

 

 ノースリフトでは、”ニュー協同乳業”(New KCC)や民間乳業会社の加工能力を超える増産で大量の牛乳が捨てられている。リフトバレー州ウアシンギシュ県では、市場につながる道路が大雨で通行不能になり、やはり大豊作の園芸農民が大損害を被っている。同州ケイヨ県では、土砂崩れで大部分の道路が通行不能になっている。

 地域には推定120万頭の乳牛と40〜50万頭の未経産牛がいる。酪農民は、New KCCの魅力的な価格提示と国際パートナーの支援を受けて近代酪農ベンチャーに走ったが、いまや生産物を誰にも売れない。過去2ヵ月の間に、New KCC地区工場の生乳受け入れ量は4万リットルから8万リットルに倍増したが、加工能力は6000リットルしかない。

 地域の穀物農民は、昨シーズンに収穫した60万袋のトウモロコシが売れずに困っている。道路が悪く、生産物を市場まで運べない。NCPBは、昨シーズンに生産された150万袋のトウモロコシを買おうと思うが、80万袋しか買えないだろうとが言う。昨年、ウアシンギシュ県の農民は、8万5697ヘクタールから430万袋のトウモロコシを収穫した。トランスンゾイア県農民は530万袋を収穫した。

 地域の小麦生産は、気候条件が悪く、昨シーズンの370万袋から280万袋に減少した。一農民は、市場がないからどこにも売れない、150袋を自分の倉庫に保管していると言う。肥料など生産資材を買うために投げ売りを余儀なくされた農民もいるが、これが市場価格をさらに押し下げている。肥料価格が高騰しているまさにそのとき、小麦価格は下落、道路状態は最悪になった。 


 北部ウガンダと南部スーダンの全体を養うほどの巨大な農業潜在力を持つ東部ウガンダ山岳地帯では、害獣、保管・乾燥施設の欠如や貧弱さ、輸送手段の欠如が、恒常的に大量の収穫後損失を生んでいる。2008年、5万1000トンの穀物が生産されたが、そのうちの40%が害獣に食われ、貧弱な保管施設や湿気のために腐ってしまったという。

 UGANDA: Kapchorwa District farmers incurring big losses,IRIN,10.2.3
 http://allafrica.com/stories/201002030849.html

 2009年、ベナンの穀物生産は前年より45%増えたが、貧弱な保管施設のために、年々の収穫の40%が失われるという。

 BENIN: Poor storage threatens cereal harvest ,IRIN,09.12.24
 http://allafrica.com/stories/200912270084.html
 


 国連食糧農業機関は昨年、世界人口が91億人に増える2050年、世界穀物生産は現在の21億トンから30億トンに、43%ほど増えねばならないという予測を発表した。ほとんどは途上国で起きる食料消費の増加を賄うためだ。日本政府も、アフリカの米生産倍増の支援に乗り出している。”ネリカ米”過信という重大な問題はあるが、実現すれば結構なことではある。しかし、上に報じられたような収穫後のロスを減らす方がずっと簡単だろうし、効果も大きい。それだけでも、利用可能な食料は40%から50%も増える可能性がある。少なくとも、これに焦点を当てた援助に最大の力を注ぐべきではなかろうか。

 アフリカ開発銀行は、農村道路建設・修復、市場及び保管インフラ、農産加工と収穫後ロス削減の支援を第一の柱とする「2010-2014年農業部門戦略」を承認したそうである。(コンクリートから人への現日本政府はお気に召さないかもしれないが)

 AfDB in ambitious plan to boost farming in Africa,East African,3.8
 http://www.theeastafrican.co.ke/business/-/2560/874208/-/4d4f83z/-/index.html

 関連情報
 
FAO 収穫後損失が飢餓を重大化 投資と訓練で損失は劇的に減る,09.11.4

  ついでに:日本の農水省は「新たな食料・農業・農村基本計画」で2020年の食料自給率目標を50%と定め、これを達成するために小麦生産を07年の91万トンから倍増させるのをはじめ、米粉用米を1万トンから50万トン、飼料用米を2000万トンから70万トン、大豆を23万トンから60万トンに増やすなどの大幅増産を目指す方針という。このために必要な作付面積は小麦と40万ヘクタール、米粉用米で8万ヘクタール、大豆で30万ヘクタール、飼料用米で9万ヘクタールになるというから(以上、『日本農業新聞』3月11日)、目標達成は土地の制約からして至難の業だ。その上、価格面でも品質面でも外国との厳しい競争にさらされるなかで、これだけの実需をどうやって作りだすのか。それができなければ、土地があっても目標達成は不可能だ。

 しかし、食料自給率50%を達成するために、こんな実現不可能に見える無謀な生産目標を立てる必要があるのだろうか。食料自給率を60%、70%に引き上げようとするならそれも必要だろう。しかし、食料自給率を50%に高めるだけなら、途上国の収穫後ロスを減らすのと同じ発想で、国内で毎年毎年廃棄される食料を減らすだけで十分だ。2008年度、食料需給表が示す日本人一人一日あたり総供給熱量は2472キロカロリーであった。このうち国内生産からの供給熱量は1014キロカロリーであったから、この年度のカロリーベースの食料自給率は41%1014/2472×100)と計算された。ところが、厚生労働省の健康・栄養調査が示すこの年のカロリー摂取量は一人一日あたり1867キロカロリーにすぎなかった。供給カロリーの30%以上を供給する食料が廃棄されたと推定される。つまり、この廃棄をゼロにすれば、何も2472キロカロリーも供給する必要はない。1867キロカロリーを供給すればいいのであり、この場合、食料自給率は54%にも跳ね上がる(1014/1867×100)。廃棄をゼロにするのは不可能としても、食料自給率を50%に高めるまで廃棄を減らすことは、無謀な増産目標の達成よりもずっと実現しやすいだろう。

 こうしたことを一切無視した無謀な増産計画の推進は、食料・農業・農村の将来にとって決してプラスにならないだろう。むしろ、方向を誤る恐れがある。