新たな小麦病の世界的蔓延に警告 世界食糧危機の恐れもー世界サビ病イニシアティブ

農業情報研究所(WAPIC)

05.9.10

 国際トウモロコシ・麦改良センター(CIMMYT)、乾燥地域国際農業研究センター、ケニア農業研究所(KARI)、エチオピア農業研究機関が率いるGlobal Rust Initiativeが9月8日、ケニア・ナイロビで、世界の小麦生産に破滅的影響を与えかねない新たな小麦病菌ーwheat stem rust fungus、小麦黒さび病菌ーに関する報告書を発表した。この病気は、1999年にウガンダで初めて発見された真菌(カビ)の株(Ug99)が引き起こすもので、以来2年間は消滅したと見られていたが、2001年にケニアで再発、その2年後にはエチオピアにも現れた。

 新たな報告は、この株は世界のその他の地域にも拡散しているのはほとんど確実で、世界食糧危機を生み出す可能性もあると警告する(Global Effort Aims to Tackle Deadly Wheat Fungus,SciDev.Net,9.8;http://www.scidev.net/content/news/eng/global-effort-aims-to-tackle-deadly-wheat-fungus.cfm)。報告によると、胞子が風で運ばれるこの菌は小麦に感染、70%もの損害を引き起こす可能性がある。ウガンダ株は、他の株には抵抗性のある小麦品種にも感染するから、特に心配されるという。

 報告を起草した委員会の議長を務めた米国・コーネル大学のロニー・コフマン(Ronnie Coffman)氏は、「Ug99がサウジアラビア半島全体に達し、中東、南アジア、場合によっては東アジアやアメリカ大陸に達するのも時間の問題だ」と語っている。報告は、小麦供給のいかなる破断も、小麦がカロリー源の60%を占め、平均的な食事の蛋白質の40%を供給するパキスタンのような国に深刻な結果をもたらすと言う。委員会によると、国際協働が脅威に対決する唯一の方法だ。

 報告発表に際して、ノーベル賞作物科学者・ノーマン・ボーローグ(Norman Borlaug)氏は、1960年代、70年代には、世界の様々な地域の研究者の間の結びつきは今よりもはるかに強かった。この新株やこれから生じるかもしれない他の株に対抗しようと望むならば、我々は当時の[協働レベル]にまで戻らねばならない。この病気は、化学農薬を散布するための十分な資金を持たない小規模農民に深刻な結果をもたらす」と述べたという。

 委員会は、小麦がUg99に抵抗性を持てるようにできる遺伝子を探すために、ケニア−エチオピア地域の小麦品種の研究を勧告している。KARI・ニオロ研究センター所長のミリアム・キニュア(Miriam Kinyua)博士は、研究者が4000品種についての研究を開始したと述べる。また、CIMMYT所長の岩永勝博士は、CIMMYTが多年の間に16万5000の異なる小麦遺伝品種を集めており、これが抵抗性品種の探索の出足を助けると言う(New Strain of Wheat Rust Appears in Africa,The New York Times,9.9;  http://www.nytimes.com/2005/09/09/international/africa/09wheat.html)。

 ケニア・ナイロビで発行されるThe East African Standard紙によると、KARI所長のロマーノ・キオメ博士は、「脅威は非常に深刻で、現実的だ。必ずしもすべての農場に被害が出るわけではないが、その破壊力は高く、非常なコストを生む」、被害を受ける大部分の農民は病気防除のための化学物質を買う資金のない小規模農民で、このような農民がケニアの小麦の20%を生産していると言う。専門家は、現在はニオロ地域に限られているこの病気が他の地域にも広がることを恐れている。キニュア博士は、大麦も被害を受けており、これは醸造業者にとっても非常に大きな問題になると言う(Alarm Over Wheat Disease Outbreak,The East African Standard via AllAfrican.com,9.9;http://allafrica.com/stories/200509080802.html)。