バナナとトウモロコシの遺伝資源が消滅しつつある 食料供給への脅威

農業情報研究所(WAPIC)

06.5.16

  NewScientist.comが世界的に重要な食料作物であるバナナとトウモロコシの遺伝資源が失われつつあり、世界の食料供給に重大な結果をもたらす恐れがあると伝えている。

 バナナ

  13日付の記事によると、バナナの遺伝的基盤をなすインドの野生種と伝統的栽培種が消えつつある。国際的に取引されるすべてのバナナはキャベンディッシュ種、その遺伝的ルートはインドにある。だが、世界中のキャベンディシュが葉に寄生するブラックシガトカ菌病の蔓延で脅威に曝されている。菌抵抗性を持つ新たなハイブリッド種の開発に生き残りの期待がかかるが、種のない近代品種は有性生殖せず、枝を切って育成せねばならないから、これは難しく、大変な時間がかかる仕事だという。

 国連食糧農業機関(FAO)は、インドの森林破壊で野生種が消滅しつつある一方、多くの伝統的農民品種も消滅しつつあると警告している。FAO本部の植物科学者であるNeBambi Lutaladioは、キャベンディッシュを救うことができる遺伝子の多くは既に失われており、ブラックシガトカ菌に抵抗性を持つ遺伝子を含む品種は、カルカッタの植物園のたった一つの植物として生き残っているだけだと言う。

 A future with no bananas?,NewScinetist.com,5.13
  http://www.newscientist.com/article/dn9152-a-future-with-no-bananas.html

  トウモロコシ

 他方、15日付の記事によると、世界中で最も広く栽培されているトウモロコシも「遺伝的メルトダウン」に直面している。メキシコのテキスココで開かれたトウモロコシ研究者・機関の先週の会合で、世界の遺伝子銀行の危機が伝えられた。間違った貯蔵のために種子ストックの少なくとも半分が発芽不能になっており、世界の食料供給に悲惨な結果をもたらす恐れがあるという。

 トウモロコシー北米ではコーンとして知られるーは世界160ヵ国で栽培されているが、その高い生産性を維持し、また雑草・害虫・病気に対する遺伝的優位を守るためには、品種間のコンスタントな交配が必要になる。これに必要な大部分の遺伝子は、今は25万以上のトウモロコシ品種を持つ各国政府と国際機関の井遺伝子銀行の冷凍庫から来る。

 ところが、ローマのグローバル作物多様性トラストのCary Fowler氏は、大部分のストックは使いものにならない、「発芽率は劇的に低下しつつあり、その結果、遺伝子と遺伝形質が失われつつある」と語った。メキシコに本拠を置く国際トウモロコシ遺伝子銀行・CIMMYTを率いるSuketoshi Taba氏は、世界中で貯蔵されているトウモロコシ種子の半分以下が発芽できるだけだ、多くは貯蔵前に適切に乾燥されなかった、その他の種子は停電で冷凍設備がダウンしたときに失われたと語ったという。

 Maize in global gene bank crisis,NewScinetist.com,5.15
 http://www.newscientist.com/article/mg19025513.200-maize-in-global-gene-bank-crisis.html

 これは、我々が直面する将来の食料供給の基盤の危機の一端を示すにすぎない。ノルウェー政府は、その離島の氷結山地の地下深くに、地球の農業多様性を代表する200万の種子の貯蔵所を建設することを計画している。核戦争、小遊星の影響、テロ攻撃、気候変動、海面上昇などの脅威から世界の食料供給を守るためという。費用はノルウェーが出す。だが、種子は世界中で利用できる。これは人類へのギフトだ、農業の重要性を考えれば、非常に安い保険だという。

 Deep inside an Arctic mountain, the Noah's ark of seeds that will survive a catastrophe,The Guardian,1.12
  http://www.guardian.co.uk/science/story/0,3605,1684354,00.html

  国際社会は、ノルウェーがかけるこのような保険に頼っていてよいのだろうか。