FAO報告 工業畜産発展で家畜品種多様性が急速に]減少 食料供給の弾力性を脅かす

農業情報研究所(WAPIC)

07.6.15

 国連食糧農業機関(FAO)の食料・農業用遺伝資源委員会が6月14日、家畜の生物多様性と世界各国の動物遺伝資源管理能力を初めて世界規模で概観する報告・”食料・農業用世界動物遺伝資源の状態”の最終版を発表した。

 COMMISSION ON GENETIC RESOURCES FOR FOOD AND AGRICULTURE,The State of the World’s Animal Genetic Resources for Food and Agriculture,Rome,07.6.14
  http://www.fao.org/docrep/meeting/011/ah834e/ah834e00.htm

  これを報じるFAOニュースによると、この報告は、20世紀半ば以来、専ら少数の家畜品種を重視する大規模工業畜産の急速な発展が世界の農用動物の多様性に対する最大の脅威となり、家畜品種の急速な絶滅をもたらしていることを明らかにしている。肉・乳・卵に対する世界の需要の急増が、画一的製品を供給するために育成された高産出種への高度の依存につながった。遺伝物質が世界中をやすやすと移動できるようになったことが問題を一層大きくしているという。

 FAO,Farm animal diversity under threat,07.6.14
 http://www.fao.org/newsroom/en/news/2007/1000598/index.html

 これは、人口増加に応じた弾力的な食料供給能力の建設の妨げとなる恐れがある。FAOのアレキサンダー・ミューラー事務局長補は、”今後40年の間に世界の人口は62億から90億に増える。この増加のすべてが途上国で起きる”、”我々は、可能なかぎり広範な遺伝資源の維持と配置によって食料供給の弾力性を増す必要がある”と言う。さらに、地球温暖化がすべての遺伝資源への脅威を増しており、”気候変動への農業の適応のためにもこれら遺伝資源が必要だ”と指摘する。しかるに、”過去7年の間、1ヵ月に1つの家畜種が絶滅してきた”。

 報告によると次のとおりだ。

 20世紀半ば以来、通常はヨーロッパ起源のごく少数の高性能品種が世界中に広まった。牛ではホルスタイン-フリージアン(群を抜いて広範に広がっている品種で、少なくとも128ヵ国と世界に全地域に見られる)とジャージー、豚では大ヨークシャー(Large White)・デュロック(アメリカ原産)・ランドレース、山羊ではザーネン(スイス・ザーネン地方原産)、鶏ではロードアイランドレッドとレグホンだ。これらがしばしば伝統品種を追い出している。

 この遺伝的多様性の狭小化はヨーロッパと北米では大方完成しており、今や、多数の在来品種を持ち続けてきた多くの途上国でも起きている。21世紀は途上国が品種多様性喪失のホットスポットになるだろう。

 例えばベトナム。豚総数に対する在来種の豚の数の比率は、1994年の72%から、2002年には26%にまで減った。14の地方品種のうち、5つは危急種で、2つは危機的状態にあり、3つは絶滅に瀕している。ケニヤでは、ドーパー種羊の導入が純粋レッドマサイ羊のほとんど完全な消滅を引き起こした。

 報告は、適切な支援の提供によって持続的利用や保存が図られないと、多くの途上国におけるこれら地方品種の締め出しが加速すると警告する。しかし、多くの途上国は、動物の遺伝的多様性の有効な管理に必要な十分に訓練された人員や適切な技術的施設などの資源を欠いているから、このための国際的支援が必要になるという。

 とはいえ、先進国でも止められなかったこの流れを止めることなど、ほとんど不可能に見えるのだが・・・。

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