農業情報研究所


インド:ヴァンダナ・シヴァ、直接支払いは持続可能な農業の道を妨害

農業情報研究所(WAPIC)

02.4.23

 22日付けのThe Hindu紙上で、インドにおける代替農業運動・ナブダーニャ()を主導し、グローバリゼーション国際フォーラムの農業国際フォーラム議長を勤めるヴァンダナ・シヴァが「直截支払いは農家負債を増加させる」と題する意見を発表している。その要点は、「直接支払いは価格引き下げを継続し、生産の崩壊を危険を冒すことなくダンピングできるようにするメカニズム」となっており、「持続可能で公正な食料・農業システムへの移行を妨げている」ということにある。

 農民への直接支払いまたは所得支持は世界貿易を歪めることが少ない農業助成手段として国際的に認められ、また政府支出や財政赤字を減らす手段としても推奨される傾向がある。しかし、シヴァによれば、この形態の補助金の主要な受益者はアグリビジネス企業であり、非効率で、浪費的で、持続不能で、不公正な農業生産・農産物貿易システムを人工的に支持する補助金にすぎない。

 農業のグローバリゼーションにより、世界貿易が国家とグローバルなレベルの農業政策と農業生産の「エンジン」となった。ところが、世界貿易の核心には農産商品の人工的低価格がある。これらの価格はダンピングをとおして国内生産を追い払うために低く維持される。いまや、価格は国際的に生産コスト以下にまで下がっており、直接支払いは価格引き下げを継続し、生産の崩壊を危険を冒すことなくダンピングできるようにするメカニズムとなっている。低価格は明かに生産増加の結果ではなく、投入の供給と商品の購入に対するグローバル・アグリビジネスによるのコントロールの強化により可能になった価格「固定」の結果にほかならない。

 直接支払いは、米国でみられるように億万長者農民、富裕な土地所有者を潤し、汚職・腐敗を蔓延させることで、インドにとって最悪のものとなろう。農村開発基金の1%が農民に渡るにすぎない。小農民は低価格のために市場からは何も受け取ることができず、腐敗のための政府からも何も受け取ることができない。従って、投げ売りと赤貧におしやられる。

 生産コストが商品価格を上回るような経済からの脱却のためには、投入コストの削減による生産コストの削減と、現実の生産コストの価格への繁栄が必要である。それにより、フード・システムのローカリゼーションと流通コストの削減を伴う()アグリビジネスに依存しない)内部資源の投入、持続可能な農業への道が開かれる。持続可能で公正な食料・農業システムへの移行を妨げる直接支払いは、持続可能な農業とローカル市場への世界的規模での支持に置き換えられ、そうすることで生産者と消費者の双方にとっての公正な価格を確保しなければならない。必用なのは、直接支払いに代わる直接販売、低下する農産物価格と上昇する食品価格に代わる貧農が生計の安全保障を、消費者が食品の安全保証を確保するための公正な価格である。「政府は、もはや豊かな者に資金を与えるために納税者の金を支出する正当性をもたない」。

 以上がシヴァの論旨であるが、ここで批判の対象となっている直接支払いが、価格引き下げに伴う所得「補償」目的の直接支払いであることは明らかであろう。これはWTOでは「ブルー・ボックス」(灰色措置)とされている。シヴァの意見は、このような補助金に対する根源的な批判の視点を提供するものとして注目に値する。

 (注)シヴァは、1987年、科学・テクノロジー・エコロジー研究在団(RFSTE)を立ち上げ、在来種の収集・栽培・保存を行なってきたが、この運動がナヴダーナヤと名づけられている。この運動は、多国籍企業が販売する高収量品種や肥料・農薬を排除した「自律的」農業の普及にもかかわっている。

 Direct payments will increase farm debt(opinion),By Vandana Shiva,The Hindu ,02.4.22

HOME  農業・農村・食料