オーストラリア著名科学者 農民は干ばつとの闘いを断念、土地を棄てるべき

農業情報研究所(WAPIC)

05.5.26

 オーストラリアの環境科学者の重鎮の一人が、干ばつと闘うことを諦め、尊厳をもって土地を棄てるように農民に呼びかけている。乾燥大陸のための国家水戦略を考案する科学者グループの一員であるピーター・カレン教授が、農地の10%は農業を持続できないと語った。24日付のシドニー・モーニング・ヘラルド紙が伝える(Eminent scientist says Austrarian farmers should leave the land,smh.com,5.24)。

 オーストラリアは長年にわたり厳しい干ばつに見舞われており、その厳しさは増すばかりのようだ。先日も、稲作中心地であるニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)の稲作農民が記録的干ばつ泣いていると伝えたが(オーストラリア 干ばつで今年の米収穫は通常の3分の1,05.5.11)、とりわけ厳しい状況のあるのがNSW州だ。現在の干ばつは同州の90%に広がっていると推定され、生涯記憶にない最悪の事態という。

 しかし、カレン教授は多くの開拓コミュニティーは常に乾燥気候に直面しており、いまや土地を棄てるべきだ、問題は、これをいかに「スマート」な方法で行うかだと言う。これら地域は、こうした状況のなかで常に救済に頼っており、持続不能であることを自認している。教授は、多くの農民は老齢化、引退資金の調達方法を探しているのだから、政府は彼らの転換を助けるべきだと言う。

 連邦閣議は23日、新たな干ばつ救済措置を承認した(Drought-stricken farmers thrown a lifeline,smh.com,5.24)。措置に含まれるのは、救済の迅速化、現金給付、利息補助、救済を求める農外所得を持つ農民の資産・所得の審査の緩和、カウンセリング資金の追加などという。すべての費用は5億ドル(約400億円)になると見込まれる。

 教授が言うような「スマート」な方法は考慮外のようだ。しかし、気候変動を考えれば、干ばつは今後ますまう厳しくなるだろう。場当たりの措置をいつまでも続けるわけにはいなかいだろう。政府も教授の提案を受け入れざるをえないときが来るかもしれない。

 しかし、台風・洪水・自然災害がいかに頻度と強度を増したとしても、わが国ではこのような選択肢は許されない。とりわけ、国土保全に枢要な役割を演じる山村地域においては。気候変動を緩和、災害への備えを強化するほかない。