インド 小麦を大量輸入 基礎食料の大量輸入依存で食料安全保障は不安定に

  農業情報研究所(WAPIC)

06.6.30

   インドが6年ぶりに小麦の輸入に追い込まれた。価格が高騰し、公的配給のための政府在庫の急減するなか、カーギルやアーチャー・ダニエル・ミドランド(ADM)など5つの国際応札企業から220万トンという大量の小麦を買い入れる契約が最終的に成立したという。

 Wheat import deal finalised,Hindu Businesss,6.29

 インドは1970年代の緑の革命で基礎食料の生産を数倍にまで引き上げるのに成功、自給を達成した。しかし、過去6年の年々の小麦生産量は7000万トン前後に低迷する一方で、所得レベルの向上と人口増加で需要は急増してきた。

   Wheat worries,Hindu Businesss,4.26

 インド政府は今年、状況改善のためによかれと、民間業者が農民から直接買い付けることを許した。しかし、それが状況を一層悪化させた。カーギル等の多国籍企業は政府買い入れ価格をはるかに上回る価格での買い付けに走ったために農民は政府に売らなくなった。公的配給のための政府買い入れが急減してしまった。2006/07の買い入れ量は前年度の60%にしかならないと予想されている。

 Wheat procurement to hit 10-year low,Hindu Businesss,5.2

 公的在庫の不足と価格高騰(今年に入り、小麦粉価格は30%も上昇している)が、貧しい人々に手頃な価格で基礎食料を供給することで食料安全保障を確保するという政府の過去の目標の達成を不可能にし、輸入依存を不可避にしてしまった。

 今年5月、政府は国際的入札を通して必要な穀物を買い入れようと試みた。しかし、農薬などに関する厳格な品質基準のために応札が少なく、80万トンしか確保できなかった。そこで、政府はこの厳格な基準を緩和した。それが、カーギル、ADM などによる総計300万トンの応札をもたらした(政府は輸入を220万トンにとどめ、300万トンにまで増やすつもりはないと言っている)。

 しかし、トン当たり応札価格は運賃込みで196ドル、政府は50%の関税を5%に引き下げるとしているが、それでも価格高騰の鎮静剤にはならないと予想されている。

 Surge in wheat imports unlikely despite duty cut,Hindu Businesss,6.30

 それだけではない。現在の急場をしのぐために輸入は不可欠かもしれないが、世界の小麦需給もタイトになっている。今後の気候変動も考えれば、輸入による食料安全保障には重大な問題が生じるだろう。現在の食料 不安を引き起こしたのは、究極的には米国等からの国際的圧力の下で政府が追求してきた”改革路線”であり、それは、ドーハ・ラウンドでのインド政府の主張とは裏腹に、小農民への様々な支援を減らすと共に、輸入自由化によって安価な外国農産物の大量流入を許してきた。それが農民の大量自殺にまでつながっている。

 このような路線が改まらないかぎり、食料安全保障は不安定さを増すばかりであろう。