相次ぐフィリピン農民活動家殺害 一向に進まぬ捜査は何を意味する?

農業情報研究所(WAPIC)

06.11.28

 11月27日、フィリピン・カガヤン州ゴンザガの町で、帰宅途上のフィリピン農民運動(Kilusang Magbubukid ng Pilipinas KMP)の活動家が射殺された。カガヤン州では11月11日にもKMPの活動家が射殺されている。KMPは軍兵士による仕業と見ており、アロヨ大統領が権力の座に就いた2001年以来、軍兵士に嫌疑がかけられる犯行によって殺されたKMPの指導的農民は57人、活動家は791人にのぼる。これを報じるインクワイアラー紙も、2001年以来、259人の活動家が殺されたと確認している。しかも、”政治的殺害”は最近ますます増えているようだ。ロンドンの国際アムネスティーは、2005年には66人の殺害が報告されたが、今年は前半だけで51人の殺害報告があるという。

 Another farmer-leader killed,INQ7.net,11.28
 http://newsinfo.inquirer.net/inquirerheadlines/nation/view_article.php?article_id=35133
 Another peasant leader shot dead in Cagayan,INQ7.net,11.27
 http://newsinfo.inquirer.net/breakingnews/metroregions/view_article.php?article_id=35033

 これら殺人の犯人が検挙されることはなく、犯行の動機の解明さえ行われていない。警察は農民組織内部の争いから来る殺人と主張するが、KMPは組織の団結は強固だとこれを否定する。今回殺された農民は農業資材の価格引き下げを求める運動を指導し、また農民に一層のローンを確保する運動も導いてきた。攻撃される前、兵士から殺すという脅しを受けていたという。

 KMPは、フィリピン農業労働者のおよそ9%、130万の加盟者を持つ土地無し農民・小農民・農場労働者・漁民・婦人農民・農村青年組織の全国規模の連合体だ。その活動は何よりも、いまなお残る封建的・半封建的搾取のあらゆる形態を廃止し、土地の耕作者への自由で公平な配分を実施する革命的農地改革を追求してきた。

 これを補完する農村開発、経済ナショナリズムと工業化を通しての米国や日本などによる外国支配からの解放、人民主権を尊重し・相互の利益に基づく自律的外交政策を追求する自由で・民主的で・独立した国家の建設、基本的な社会・公共サービスを提供する包括的で進歩的な社会政策、封建的・家父長的抑圧を排除し・あらゆる形態の女性差別を廃絶する婦人農民の権利と福祉の促進、持続可能な農業と環境保護の促進、世界の農民階級と人々の闘いへの連帯と支持なども追求している。

 現在は、アロヨが2010年まで大統領として居座ることを可能にする憲法改訂の策動にも強く反対している。抜本的農地改革を拒み、巨大地主制を温存しようとする大統領にとって、KMPは、まさに目の上のタンコブだ。相次ぐ活動家の殺害にもかかわらず、徹底した捜査をさぼり続けてきたことからしても、犯行は兵士によるものというKMPの主張には説得力がある。

 大統領は、フィリピン国民の貧困軽減に不可欠な農地改革と農村開発をさぼり、貧しい家庭の子女の外国出稼ぎを強要している。 医師までも低賃金を嫌い、看護師として米国に渡る。日本は、自国の看護婦・介護師不足を補おうと、”経済連携協定”で彼女らの積極的受け入れに動いているが、お陰でフィリピン国民は最低限の医療も看護も受けられない現状がさらに悪化することになる。日本は、こんな政権を何故助けねばならないのか。こんな疑問を提起する者は、日本には一人としていないようだ。