農民が痩せて商品価値のない家畜を撃ち殺す オーストラリア農業は持続可能なのか

農業情報研究所(WAPIC)

06.12.16

 記録史上前例のないほどの干ばつによる飼料不足でオーストラリア畜産農家が未曾有の苦境に直面していることは何回か伝えてきたが、今や状況は破滅的と言ってよいほどに悪化しているようだ。

 シドニー・モーニング・ヘラルド紙の報道によると、家畜を市場に出しても余りに痩せていて商品価値がないために買い手がまったくつかない。農民に射ち殺される家畜が増えており、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)自治体協会は州と連邦政府に対し、商品価値のない家畜の”人道的”処分を助け、埋めるための穴を掘るための費用を補償するように要請したという。

 また、飼料と水のある農民は、最近までは肉価格の上昇による儲けに賭け、貧弱な家畜を低価格で買い集めようとしていたが、牧草と水も枯れ果て、雨が降る見通しもなく、凶作で草と穀物の価格も”ロケットを打ち上げる”ように急騰しているために、なお市場に溢れる家畜を買おうという”楽観的”な人はいなくなっているという。

 Drought forces farmers to shoot stock,smh.com,12.14

 肉畜農家だけの話ではない。昨日のABC Newsによると、オーストラリアの酪農産業と乳製品貿易で中心的役割を演じる協同組合会社・Murray Goulburnは来年1月半ばから、農民が乳牛を養うのを助けるために、マレーシアのパームオイル(椰子油)産業の副産物を輸入する。これは、穀物価格が上昇しているなか、農家にとって安上がりの選択という。

 Farmers turn to Malaysia for cheap fodder,ABC News,12.15

 オーストラリア政府は交渉開始に合意した日豪自由貿易協定で日本への輸出拡大を目論んでいるようだが、そんな余裕があるのだろうか。オーストラリア政府は自国農業の持続可能性にこそ関心を向けねばならないだろう。わが国政府も、オーストラリアからの食料輸入が途絶えてときの自国の食料安全保障にこそ関心を向けねばならない。今年のような事態は今後も頻々を起きるだろうからである。

 昨日NSWの環境報告を発表した同州環境大臣は、NSWは環境と資源が尽き果て、その現在の消費を維持できないところまで来ているという。彼は、干ばつがいくつかの内陸河川と湿地の水質悪化とその結果としての生物多様性への影響の形で環境の重圧になっていると強調する。

 退化が見られないのは調査されたNSWの河川のサイトの22%だけで、魚の調査は河川の健康が悪化していることを確認した。彼は、気候変動が生態系、水資源、生物多様性、経済に影響を与えることは明らかで、「現在の干ばつや嵐の増加のような極端に異常な天候条件がますます増えることが予想される」と言う。

 The city that ate its environment,smh,12.16