中国農民が穀物離れ 食糧安全保障には生産コスト上昇に見合う価格保証が不可欠

農業情報研究所(WAPIC)

08.7.28

 チャイナ・デーリー紙によると、補助金などによる政府の手厚い穀物増産政策にもかかわらず、生産コスト上昇に見合った価格も保証されずに収益が減るばかりの農民の小麦離れと、短期間で高い利益が得られる韓国や日本への輸出用野菜へのシフトが進んでいる。中国社会科学院の経済専門家は、政府が穀物価格引き上げの確たる約束をしないと、国民を養うことができなくなると恐れる。

 Rising prices eating into farmers' income,China Daily,7.25
 http://www.chinadaily.com.cn/china/2008-07/25/content_6876031_2.htm

 1ダースのビッグマック、これが今年夏の小麦1ムー(0.066f)からの稼ぎで中国農民が買えるものだ。去年と比べると、ハンバーガー4個分少ない。今年の夏の小麦1ムーは153元(22ドル、2400円ほど)の純所得しか生まない*。所得減少の主な理由は生産コストの上昇だという。

 *1ムー2400円は10アール3700円ほどと換算される。日本の06年産小麦の10アール当たり祖収益は58000円ほどだったから、その10分の1にもならない。

 全国人民代表大会(NPC)は、「政府の農業補助金の増加にもかかわらず、コスト上昇のなかで農民が所得を増やすのはますます難しくなっている」と中央政府に忠告した。

 この忠告は、今年前半の一人当たり農民所得は2528元で、昨年同期に比べて10.3%増加(物価上昇分調整済み)したという24日の国家統計局の発表を受けたものだ。農民所得の3分の1は工場、鉱山、建設現場の移住労働者としてに仕事で得たもので、農産物販売による所得は1080元だった。 それでも昨年同期より22.1%増えたことになるが、年前半の増加率としては昨年の13.3%よりも3%低い。これは2004年以来の大きな所得上昇減速だという。

 このような利幅の縮小は農民に作付減少も強いている。

 山東省の一農民によると、5年前には野菜類と半々だった村の穀作面積比率は3分の1にまで減った。「短期ではるかに高い利益を生む野菜に転換する穀物生産者が増えている」。たとえば、キューリ、トマト、ラディッシュの昆作で1シーズンに1ムー当たり5000-6000元になり、小麦の10倍以上だ。「わが村の野菜は中国で売られるだけでなく、日本や韓国に輸出される」、「需要の増加といい値段が、ますます多くの生産者を小麦畑に代わる温室野菜栽培に惹きつけている」 。

 このようなトレンドへの対応として、当局は穀物買入れ価格を保護する措置を編み出し、穀物栽培を奨励するための穀物補助金も与えてきた。今年初め、国務院は95億元の農民補助金を承認、うち10億元が小麦および油料作物に向けられた。農民と農村の支援に、昨年よりも1307億元多い5625億元を支出することも約束した。3月には、農民の種子・ディーゼル・肥料・その他の生産資材購入を補助するための252億5000元の追加支出も決めた。その上、国の食料・穀物備蓄を確保するために、穀物が栽培される面積と品種の強制措置まで編み出した。

 それにもかかわらず、先の山東省農民は、穀物価格を保証する”保護的価格制度”は、コスト上昇に伴う着実な所得上昇を保証するものではなかったと言う。公共団体への穀物販売価格は過去数年間、ほとんど変わっていない。それでも、「肥料と燃料のコストは上昇を続けてきた。字際、純所得は以前よりも減ってきた」 。

 河南省の一調査によると、主要肥料の一つであるカルマミド(尿素)のトン当たり価格は2002年の660元が今年6月には2560元にまで跳ね上がっている。しかし、米の価格は、この5年で40%上がっただけだ。肥料価格高騰とともに、ガソリンとディーゼルの価格上昇も所得増加を阻んでいる。

 中国社会科学院の主導的エコノミスト・Zhang Zhuoyuanは、政府に穀物最低価格の引き上げを要請している。「それによってのみ、 かくも脆く、競争的な世界市場におけるわか国の穀物供給を確保できる」と言う。

 農民負担を軽減するために、中央政府は最近、地方政府による水・電気・教育・家屋建設・ケーブルテレビ・家畜病予防サービスの価格・料金の検査を命じた。

 しかし、Zhang Zhuoyuanは、この秋の穀物収穫を確保するには、洪水、干ばつ、台風、病害など、なお多くの難題があると言う。 


 中国の食糧安全保障のためには、従ってまた世界の食糧安全保障のためには、最低限でも単位面積当たりで現在の10倍以上の(つまり野菜並みの)収益性を確保せねばならないとすれば、これは 途方もない難題と考えざるを得ない。ましてWTOドーハ・ラウンドが一層の関税引き下げ―保証価格引き下げを強制するとすれば。