東北コメ生産者 減反緩和に賛成が過半数 極まる農政不信 河北新報社調査

農業情報研究所(WAPIC)

09.5.30

  河北新報社が東北のコメ生産者を対象に行った第4回農業モニター調査によると、生産調整(減反)の緩和に意欲を見せる石破茂農相の姿勢を「評価する」と答えた人は54.5%で、「評価しない」と答えた人の43.1%を上回ったということである。

 評価する理由としては、「土地が有効利用でき、休耕田、耕作放棄地を減らせる」(28.8%)、「実施から40年もたち、一時的な政策ではなくなっている」(23.0%)、「農家の自由な判断でコメ作りができる」(20.9%)の順に多く、減反緩和による米価下落への不安よりも、行き詰まった制度への不満や自由なコメ作りへの期待が強く表れる結果となったという。

 新しい農政の基本計画に、2017年の食料自給率(カロリーベース)を50%まで高める数値目標が盛り込まれる見通しについは、「実現のための具体策や農家側のメリットを提示するべきだ」と求める答えが32.2%で最も多かった。企業などに農業参入の機会を与える農地法改正案に関する設問では、「参入企業が撤退した場合、農地の荒廃が進む」(34.1%)、「従来の地域農業が圧迫される」(30.2%)など、警戒感が依然として根強い。

 次期衆院選を見据えた各政党の農業政策のうち、特に重要視する農業政策は「農業再建のための中長期ビジョンの提示」が最多の28.6%、次いで「直接所得補償制度の導入、強化」が22.7%、「食料の安全、安心確保や自給率の向上」が18.4%で3番目。以下、「農村活性化策の強化」(8.6%)、「集落営農の法人化など構造改革の推進」(6.7%)、「転作奨励金の積み増し」(5.9%)などが続いたということだ。

 どうやら、与党主流派の農業政策は全然人気がない。アンケートでは、次期衆院選で重視する政策や、望ましい政権の枠組み、麻生内閣に対する支持動向についても聞いたが、望ましい政権の枠組みは「民主党中心の連立政権」が29.4%でトップで、「自民党中心の連立政権」は25.9%だった。民主党代表に鳩山由紀夫氏が就任したことについては、「代わり映えしない」が最も多く37.6%。「小沢一郎代表代行の影響力が強く残る」が30.6%に上ったが、麻生内閣の支持率は34.2%で、不支持の65.4%を大きく下回り、次期衆院選比例代表の投票先については民主党が53.7%で、自民党は31.8%だった。

 東北コメ生産者の農政不信は頂点に達しているようだ。この調査結果について、工藤昭彦東北大大学院農学研究科長(農業経済学)は、次のように言っているという。

 「昔から「猫の目農政」と言われているが、ビジョンがすぐに変わる農政への不信が読み取れる。その時々で変更される転作の補助金制度や、農地・水・環境保全向上対策のような小手先の政策は通用しなくなっている。

 一方で、農林水産省が取り組んできた「構造改革」の評価は低かった。高齢化や過疎化は中山間地だけでなく、平地の農村まで浸透しつつある。農地集約、農作業の効率化の必要性は農家も理解しているが、中小規模農家はそれによって居場所がなくなることへの不安が強い。

 農地集約のために構造改革を進め、集落に2、3人の農家だけが残っても意味がない。地域づくりと連動した全員参加型の政策を示さないと、幅広い支持は得られない。」

 減反緩和「評価」54% 河北新報社・農業モニター調査
 http://www.kahoku.co.jp/news/2009/05/20090529t73023.htm

 
農業モニター 重視する農業政策は「中長期ビジョン」
 http://www.kahoku.co.jp/news/2009/05/20090529t73020.htm

 「猫の目農政」に生産者不信感 工藤昭彦氏
 http://www.kahoku.co.jp/news/2009/05/20090529t73019.htm

 とはいえ、不信を払拭できるような「中長期ビジョンの提示」ができる者はどこにいるのだろうか。恐らく、現在農業政策をリードする中央の政治家、官僚、学者先生のなかには一人もいないだろう。