インドの灌漑面積が増えない アジアの食料増産 水の制約は克服できるのか?

農業情報研究所(WAPIC)

09.8.19

 最近のインド・ビジネス紙が、1980年以来のインドの灌漑面積の推移を示す表を掲げている(数字の出所はインド農業省)。それによると、1980年から1990年代半ばまで、灌漑面積は増加を続け、1,106万ヘクタールから2,000ヘクタールを超えるまでになった。ところが、以後、この面積増加傾向は、ぴったり止まってしまった。

 Area under irrigation,Hindu Business,8.17
 http://www.thehindubusinessline.com/2009/08/17/stories/2009081751071100.htm

 それと同時に、米・麦生産の増加傾向も、ぴたり止まってしまった(FAOSTATによる)。水利用の可能性が食料生産増加に強い制約を課しているようだ。インドの人口は今後も増加を続ける。灌漑面積が頭打ちするなかで、インドは食料を自給できるのだろうか。これは、インドのみならず、インドなどアジア諸国からの輸入米に頼る中東産油国や西アフリカ諸国の食料安全保障も脅かすことにならないだろうか。 

  折りしも8月18日、ストックホルムで開催中の「2009年世界水週間」会合で発表された国際水管理研究所(IWMI)、FAO、アジア・パシフィック水フォーラムの共同研究報告が、アジア諸国は、今後増大する人口を養うのに十分な食料を生産するためには、古い灌漑システムを改善することが不可欠であると警告した。

 Revitalizing Asia Irrigation: To Sustainably Meet Tomorrow Food Needs
 http://www.iwmi.cgiar.org/SWW2009/PDF/Revitalizing%20Asia's%20Irrigation.pdf

 参考:IWMI Media Releas 日本語版:2050年までに15億人の人口増加が予測されるアジアでは水改革が喫緊の課題と、新報告書
 http://www.iwmi.cgiar.org/SWW2009/PDF/Stockholm_WW_2009_Media_Release_JAPANESE.pdf

 報告によると、1960年代、70年代の緑の革命の原動力をなした国家資金を投入した大規模灌漑システムは、アジア諸国の食料自給を助け、農村地域に雇用を創出することで貧困軽減にも役立った。しかし、水路に頼るこれら地表水灌漑システムは維持が難しく、1990年代以来、荒廃が進んでいる。そのために、農民は、自身で個別に地下水を汲み上げるようになった。これによって灌漑農地はなお拡大してきたが、無規制の地下水利用が地下水の枯渇をもたらしつつある。インドの灌漑面積停滞は、まさしくその結果であろう。

 この報告は、水使用量を増やすのではなく、灌漑システムを効率化することにより、アジアの食料増産は、長期的にはなお可能と言う。そうなれば結構なことだが、いささか楽観的に見える。エル・ニーニョの再来で、少なくとも短期的には、食料情勢は厳しさを増すであろう。

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