中国食品輸入増加 オーストラリア農業さえ競争できない 効率的大規模経営に何の意味?

 農業情報研究所(WAPIC)

09.8.31

  ”Austrarian”紙によると、日本ではない、農業・農産物輸出大国のオーストラリアで中国からの食品輸入が急増、食品安全や国内農業者の競争能力に関する懸念が高まっている。今年1月から5月まで、エビ、冷凍ブロッコリー・カリフラワー、生鮮リンゴ、生鮮ナシ、ニンニク、エンドウ、ピーナツとピーナツバターなどの輸入が軒並み急増した。昨年、中国からの野菜輸入は07年に比べて35%増加、ニュージーランド に次ぐ多さになった。輸入の増加に連れて、国内生産が減ってきた。

 オーストラリア野菜生産者団体・オースベジ(Ausveg)の前会長を努めたタスマニア野菜生産者のマイク・バドコック氏は、中国からの輸入品はオーストラリアの産業の基盤を揺るがしており、「オーストラリア人は食料安全保障について大いに心配すべきだ」と言っているそうである。

 ニンニクを例に取れば、 オーストラリアで売られているニンニクの90%が中国からの輸入品、国産品に比べると4分の1の値段だ。しかし、国内産業が崩壊してしまえば、値段は吊り上げられるだろう。彼は、一時的な安さ追求の政府の態度をこのように批判する。

 政府の態度に対しては、中国食品がもたらす食品安全・環境面の問題にも適切に対処していないという不満もある。オーストラリアエビ養殖協会は、オーストラリアには存在せず、中国に存在する白斑病ウイルス、黄斑病ウイルスなどの病気のリスクを恐れている。中国のエビからは、オーストラリアよりずっと厳格な米国では輸入の禁止や制限につながるような多くの抗生剤が発見されている。また、オーストラリアの養殖場は、中国には遵守を要求しない”厳格な環境基準”に従わねばならないという。

 Fears as Chinese food pours in, farmers claim lost markets and biosecurity risk,Austrarian,8.31
 http://www.theaustralian.news.com.au/business/story/0,28124,26004280-5018010,00.html

 要するに、政府は、衛生植物検疫措置も含む国境保護の強化を通して、国内農業の破綻を防がねばならないということだ。

 何らかの国境保護なくしては、世界最先端の効率的大規模経営さえ生き残れない。増して日本のような土地狭小の国で、国境の壁を次々と低くし、取り払いながら、「効率的・安定的な経営体」が中軸を担うような農業構造を確立すること(「新しい食料・農業・農村政策の方向」1992年)など、どうしてできようか。そのために創設された認定農業者制度も、成果をあげていないばかりか、高齢化で破綻の可能性さえ見えてきた(「認定農業者 伸び鈍る」 日本農業新聞 09年8月27日)。

 衆院選挙に際し、マスコミの多くが、「大規模化を後押しする姿勢」を弱め、あるいは「非効率を温存し、農業の体質強化を阻む」各党の農業政策を”バラマキ”と批判した(例:朝日:8.26 「《にっぽんの争点:農業》所得補償か 減反・転作か」、読売社説:8.20 「農業政策 バラマキより体質強化が先だ」)。しかし、こんな論議は、今やほとんど無意味になりつつある。”バラマキ”ではない集中的支援の対象となる農家自体が、「主として高齢化」のために、今や農村から消えつつあるからだ。

 [農業・農村・地方がどうしたらこの事態から抜け出せるのか。答えは現場の実践からしか出てこない。大も少も、老いも若きも、”みんな違ってみんないい”と認め合う現場の実践からである。政治家や、役人や、学者や、マスコミが つべこべ言うことではない。そして、彼らが絶対にしてはならないことは、国境保護は取り払うべきだ・農村には役に立つ(誰のために?自力で食料を生産できない都会人のために?)者を残し、やる気のない役立たずは追い出すべきだなどと言い立て、この実践を邪魔することである」