ニュージーランド農業 大量生産・消費品では新興農業国に対抗できない 差別化が命綱 

農業情報研究所(WAPIC)

10.4.20

  ニュージーランドの会計・コンサルタント会社であるKPMG社が、ニュージーランドの農業部門は、すぐにも低コストの外国の競争圧力を感じるようになるだろうという報告 書を出した。世界人口の拡大に伴う世界的食料不足が見込まれることから、南米、旧ソ連地域、モンゴル、中国西部、アフリカの広大な地域など、従来の限界的農業地域に大規模集約農業が発達、5年もすれば大量生産 ・消費品目(バルク商品)の生産におけるニュージーランドの優位を掘り崩す恐れがある。

 これら地域の土地と労働は安く、まともに競争したのではニュージーランドは太刀打ちできない。ニュージーランドが世界市場で生き残るためには、グリーンで、クリーンという国のイメージを生かした差別化を一層推し進め、隙間市場で優位を占めることが重要 になる。

 報告は、@クリーンでグリーンなイメージを維持し、A高価な高級品に焦点を当て、B水資源管理を改善し、C科学・技術・インフラに投資し、D動物トレーサビリティに投資し、F持続可能な農法を採用することで、ニュージーランドは農業部門の強みを維持できると言う。

 NZ lead in agriculture threatened, says report,The New Zealand Herald,4.19
 http://www.nzherald.co.nz/business/news/article.cfm?c_id=3&objectid=10639345

 10年以上前、フランスは、「欧州農業は最も競争力が強い世界の競争者と同じ価格で原料を世界市場に売りさばくことを唯一の目標として定めるならば、破滅への道を走ることになる。それは、フランスの少なくとも30万の経営(フランスの農業経営数は1995年末までに73万にまで減っていた)を破壊するような価格でのみ可能なことであり、それは誰も望んでいない。公権力の介入は、欧州、そして世界で商品化される高付加価値生産物の加工を助長するときにのみ意味を持つ」(1999年農業基本法提案理由説明、北林寿信 「方向転換目指すフランス農政―新農業基本法制定に向けて―」 『レファレンス』<国立国会図書館調査及び立法考査局> 1999年3月号 58頁)と、雇用維持・自然資源保全・食料の品質改善に焦点を当てた農政路線に舵を切った。

 いまや、ニュージーランドもその後を追えと言う。

 日本は韓国やEUとの自由貿易協定を追求しつつ、食料自給率を50%に高めるために、小麦、大豆といった”バルク商品”の国内生産を10年で倍増させるという(食料自給率50%達成のための小麦・大豆等生産目標 荒唐無稽な農水省素案,10.3.13)。競争力がどんなに弱くても、農家戸別所得補償をするから大丈夫、実現できるということらしい。食料自給率を50%に高めるという意気やよし、しかし、その意図が現在の飽食・大量廃棄食文化の維持にあることは、このような生産目標を掲げたことから明白だ。食料自給率向上を自己目的化することで、農政の基本方向を誤ることにならないかと恐れる。