農業情報研究所農業・農村・食料アジア・太平洋地域ニュース:2012年11月22日

行き詰るタイの米政策 中国に年500万トン輸出という茶番劇

  タイの米政策が完全に行き詰ったようだ。タイと中国が21日、米貿易(タイから中国への輸出)関する了解覚書に調印した。ところが、この覚書には、輸出量やタイムフレームはまったく記載されていない。タイ商務大臣は2013−2015年に毎年500万トンという途方もない量を提案したが、中国側は受け入れなかった。バンコク・ポスト紙は、大臣の計画は”完全な茶番劇”も変わったと書く。

  2011年下院選挙後に誕生したインラック新政権は、農民保護を強化するためにと、従来の農家所得補償制度を改め、失脚したタクシン政権時代の担保融資制度を復活させた。農家は生産した米を精米業者に質入れし、これを担保に籾1トン当たり15000バーツ(香り米は20000バーツ)という市場(輸出)価格をはるかに上回るレートの融資を受け取る(市場価格がこれ上回れば農家は融資を返済して現物を請け出す)。質入れ米は後に中央倉庫に搬送され、国の管理下に置かれる。政府はこれを入札にかけて売却、落札者が国内・輸出市場に販売する。

 しかし、こんな価格で売れるはずもなく、政府米は溜まり続ける。今年のタイの米輸出は目標を100万トン下回る750万トンにとどまると予想される。米輸出国世界一の地位から滑り落ち、輸出価格がタイを大きく下回るインド、ベトナムの後塵を拝すことになる。さりとて、値引きして売れば、国は大損、国家財政破が破綻する。こうして、担保融資制度は四面楚歌に直面することになった。そんななか、中国に500万トン販売の話も出てきたというわけだろう。担保融資制度維持は、中国への大量販売がなるかどうかにかかっている。今月初め、国家米政策委員会は、来年の政府間協定による米輸出額は1100億バーツになると予想したが、これには、通常は30万トンほどにとどまる対中輸出が500万トンに増えることが織り込まれている。

 しかし、500万トンはいかにも多すぎる。中国のタイ米輸入量は、2008年4.9万トン、2009年32.8万トン、2010年26.4万トン、2011年26.8万トンで、今年は10月までで9万トンだ。今年は中国の米輸入が急増しているが(中国の米輸入が急増 中国米市場に何が起きているのか? ことによると世界食料危機の引き金に)、タイはトン当たり100ドルも安いベトナムや、ベトナムよりもさらに安いミャンマーに対抗し て対中輸出を増やすことはできないだろう。500万トン計画は、ベトナム米政策の行き詰まりを隠す茶番劇だったと言われても仕方がない。

 China rice deal takes root,Nation,11.22
 
Nothing definite in China rice deal,Bangkok Post,11.22
 Thai-China deal grainy on details,Bangkok Post,11.21
 
Bt110 bn earnings from govt-to-govt rice deals forecast,Nation,11.12

 中国がダメならTPPで対日輸出を増やす?。さすが、そこまでは考えていないだろう。